上 下
143 / 469
第10章 新婚旅行は海がいい

ハイスペックな妻

しおりを挟む


 「えっ」



 アミィール様の言葉に声を漏らしてしまう。だってそれは、不可能である。サクリファイス大帝国からシースクウェア大国に行くには1ヶ月はかかるからだ。俺たちの与えられた新婚旅行の時間は2日。


 どう逆立ちしても無理なのである。



 驚いた顔を向けるセオドア様。考えていることが手に取るようにわかる。馬車で行ったらきっとシースクウェア大国を2日で行くなどと無理でしょう。


 ですが、馬車でないのなら。



 アミィールはそう考えて、セオドアにしか見せない優しい笑みで言う。




 「大丈夫です。わたくし、これでも何度かシースクウェア大国に行っていますし、場所が分かりますので転移魔法で行けますわ」


 「転移魔法………!?」


 優しく笑うアミィール様。転移魔法が扱えるのは初めて聞いたから驚いた。

 転移魔法というのは自分の思う場所に瞬間移動できる魔法である。アルティア皇妃様やダーインスレイヴ様はいつも簡単に使っているが、それは治癒魔法よりも高等魔法であり、それを扱うにはその場所を正確に理解していなければ転移はできない。そしてたくさんの魔力を使う。


 人智など簡単に超えているサクリファイス大帝国で麻痺しかけるが、普通に生きていれば名前を聞くことも無い使用不可能に近い魔法なのである。


 それ故に、縛りも多い。



 それを知っているセオドアは心配そうに聞く。


 「仮に転移魔法を使えたとしても、禁術じゃないか。使ってはならないと決まっているよ?」


 「ふふ、セオ様は本当に真面目ですね。心配であれば、わたくしがお父様に許可を貰います。

 お忘れでしょうか?これでも、サクリファイス大帝国は一番力を有している国、人を無闇に傷つけなければ処罰はありませんし、そもそも禁術扱いなのは他の方々が使えない、或いは使ってしまっては自分の身を危ぶまれる可能性があるからです。


 その点、わたくしはこれでも強いのです」



 「う…………」



 そう言ってにこやかなアミィール様に頭を撫でられる俺。…………アミィール様の強さは俺も知っている。元々出会った時から知っていたし、その上皇配ともなると兵士や従者達の会話でどれだけ強いかなども日常的に聞ける。



 剣術も武術もラフェエル皇帝以外に負けたことがなく、魔法もアルティア皇妃様以外に負けたことがないと。この2人以外に手傷どころか膝をついたことはないなどとまことしやかに囁かれているほどだ。


 だから、アミィール様が『大丈夫』と言えば大丈夫じゃなくとも『大丈夫』になってしまう。


 ………本当は、俺が守らなきゃなのにな。



 「…………セオ様?」




 セオドアはそこまで考えて、アミィールを優しく抱き寄せる。お風呂上がりだから俺と同じミントの石鹸の匂いがする。


 それを嗅ぎながら、ちゅ、と頬にキスをして紅銀の髪に顔を埋めた。



 「…………私は格好悪いな。アミィを守りたいのに、アミィの足元にも及ばない」


 「そんなこと、ありませんわ。

 わたくしが強く在れるのは___セオ様が居てくれるからです。セオ様が居なければ、わたくしは頑張れませんもの」



 アミィール様はそう言って抱き締め返してくれる。………あべこべな夫婦だけど、それが俺達だから。


 俺も、アミィール様を守れるようになりたいな。



 そう思いながら、首筋に吸い付いた。














しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

どうして私にこだわるんですか!?

風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。 それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから! 婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。 え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!? おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。 ※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

処理中です...