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第9章 慌ただしい日常

男前皇女の乱入

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 「セア様のお菓子はどれも美味しいし、お店を開いてみてはどうでしょうか」


 「い、いえわたくしはそんな………趣味の範疇なので…………!」



 「あら、そんなことないわ。我がヘーション家は全力で投資させていただきます」


 「お、お気持ちだけで、光栄でございます、エリザベス様」


 セアことセオドアはそう言って笑みを作る。
 1時間ほど会話をしていれば自然とこの状況を受け入れられたわけで。確かに女装も声の意識も慣れたくはないが、なんというか、順応能力はあるようだ。


 実際話はとても興味深いし、男友達では話せないような可愛い小物の話や流行りは今後アミィール様の物を作る上で参考になる。



 たまに声が男に戻っても、さりげなくフラン様もエリアス様も助けてくれる。しかし。



 「セアちゃん、いいじゃない。セアちゃんのお菓子が国民誰でも食べれるなら、きっともっとこの国は素敵になるわ。

 勿論!私が率先してお金を出すけどね!」



 アルティア皇妃様はそう言って俺の頭_正確にはウイッグだが_を撫でてくる。

 …………この人だけは本当に……………
 普通の話には混ざらずお菓子ばかり食べているのに、矛先が俺に向くとガハハ、と豪快に笑って自慢するように俺を可愛がってくる。


 いや、褒められたり大事にされるのは嬉しい。しかし、だ。正直反応には困るのである。貴婦人達も物珍しい目で見ているのがわかる。


 アルティア=ワールド=サクリファイス。
 このサクリファイス大帝国の皇妃にして龍神の最後の後継者で、唯一ラフェエル皇帝が骨の髄まで愛している御方。




 この美しさに数々の男達がひれ伏し、数々の女達が憧れる人なのだ。それでいて普段はフレンドリーだけれど、誰かを特別視することは滅多にないとも言われている御方にここまで寵愛されているとなると、自然とセア__俺が何者か?なんて思われるわけで。

  
 この姿が社交界に広まってみろ。


 俺はセアとして注目されるんだ。



 アミィール様の皇配、セオドア・リヴ・ライド・サクリファイスとしてではなく、女装した架空の令嬢、セアが。


 ……………泣きたくなるだろう?
 俺はとても泣きたい。


 喋りながら、泣きたくなってきた。
 アミィール様に会いたい。俺は男に戻りたい。


 でも、アミィール様にこんな姿見せられ___「お母様」………!




 不意に、声がした。
 俺が大好きな、凛々しい声。


 セオドアは泣きそうな顔を上げた。


 そこには_____美男子。
 紅銀の髪をひとつに縛り、群青色の服を着た男……………否、男装をしたアミィールが居た。



 突然現れた美男子に、貴婦人達は息を飲む。けれども、美男子の胸が膨らんでいることと、この国の皇帝と同じ紅銀の髪、目の前にいる皇妃と同じ黄金色の瞳を見て気づく。



 「あ、アミィール様、ご、ごきげんよう」


 「アミィール様…………お会いできて、光栄ですわ」


 貴婦人達は我に返り、その場で頭を下げる。しかし、アミィールには見えていない。アミィールは自分の母親を睨み付ける。



 「_____何を、なさっているのですか」


 「見ればわかるでしょう?お茶会よ。

 ねえ、セア」



 「ッ……………アミィ………」


 アルティア皇妃様の言葉を返す余裕はなかった。だって、目の前に俺の愛する人が居たから。
 この恥ずかしい格好を見られてしまった。この恥ずかしい状況を見られてしまった。

 ……………アミィール様には見られたくなかった。
 絶対嫌われてしまう。

 不安が、恐怖が胸を締め付けて、………涙が溢れた。

 そんなセア___セオドアを見て、アミィールは無言でセオドアの頭に乗る母親の手を払った。


 そして。



 「わっ」



 …………女装したセオドアは、アミィールに姫抱きされる。涙に濡れた顔でアミィールを見ると___アミィールは優しく笑みを浮かべた。



 「…………もう、大丈夫です」


 「ッ…………」



 ポロポロと涙を流すセオドアから目を離し、改めて母親、貴婦人達、各国の重要人を睨みながら、それでも笑みを浮かべて言葉を紡いだ。




 「申し訳ない。この子は___私の大事な人だ。
 体調が優れないようだから、私が連れていく。

 この度は申し訳ない」



 「………ッ」




 アミィール様はいつもの丁寧な口調ではなく、男よりも男らしい声でそう言った。










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