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第9章 慌ただしい日常
乙女主人公とお茶会
しおりを挟むそうなのだ。今日はアルティア皇妃様主催の上流貴族の奥様方とのお茶会の日なのだ。けれど、このお茶会は殆ど公務みたいなもので、上流貴族から最近の流行りや社交界の様子を他愛のない話も交えながら話す大切なお茶会なのだ。
それに、俺がアルティア皇妃様が可愛がる『お気に入りの令嬢』として参加するのが俺に与えられた役目…………というか、押し付けられた役目なのだ。
でも。
「そんなことできるわけないですよ!私は男なんですよ!?」
「あら、大丈夫よ。こんなに可愛いお顔をしているんだから。ねえ、フラン、エリアス」
「絶対バレない自信しかないわね!仮にバレたとしても"アミィール様の選んだ美男子は女にも化けるほどの器量の持ち主"って認識されるし!どちらにしても美味しいわよね~!」
「ええ。きっとそうですわ。それに、アルティア様がそのようなお戯れをするお人柄だというのは周知の事実なので。
セオドア、お受けしてください」
「う、うう……………」
この悪魔のような人達はこういう人でも各国の王族で。いくら皇配といえど逆らえないのは当然で。皇配じゃなくてもこの御方達の言うことは絶対で。
つまり。
…………………俺には逃げるという選択肢はないようだ………………
セオドアはまた涙を流したのだった。
* * *
「まあ、美味しいお菓子!素晴らしいですわ!」
「本当に、これはシェフが作ったものなのですか?」
豪華なドレスを着た貴婦人達はお菓子を食べて笑顔になる。それを見たアルティアは満面の笑みで隣に居る可愛らしい群青色の髪の令嬢の肩を抱いた。
「いいえ、これを作ったのはこの可愛らしいわたくしのお気に入りのセアですわ」
その言葉に貴婦人達は群青色の髪の美少女を見る。緑の瞳を伏せて、顔を赤らめている。可愛らしい様子に、お菓子を食べた時よりも大きな黄色い声をあげた。
セア___女装をしたセオドアは、そんな黄色い声を聞きながら涙を堪えていた。
泣くな、俺。これは仕方ないことなのだ。全部仕方ないのだ。この格好もこの化粧も国の為なんだ。レイが意地悪く俺のお菓子を準備したのも仕方ないのだ。耐えるんだ俺……………
「こんなに美味しいお菓子を作れる上、アルティア皇妃様や聖女様、女王陛下様に愛されるその子はどこのご令嬢なのですか?」
「ふふふ、それは秘密です」
「そうですわ、わたくしたちの自慢なので簡単にはお教え出来ません」
フラン様とエリアス様は本当に楽しそうに俺を見ている。今の俺はセアという架空の令嬢で、この3人から寵愛を受けているシャイな少女なのである。
…………って、無茶苦茶過ぎないか!?
セオドアは心の中で突っ込む。
いやだって、俺は男でアミィール様の皇配だぞ!?その!誉高い役目が!貴婦人達を相手に!令嬢だと嘘をついて!お茶会に参加してる!うわぁぁぁぁ!もう泣きたい!逃げ出したい!ここに居たくない!
それなのにがっちりアルティア皇妃様に腕をホールドされている。胸も当たってる。心を無にしなきゃ顔が赤くなる。柔らかさはアミィール様の方が………じゃなく!
……………お茶会主催者であるアルティア皇妃様はフラン様とエリアス女王陛下、そして俺に任せて社交界のファッションや流行りなどをつまらなそうに聞いている。先程本人から聞いたように、本当にこのお茶会は苦手なようだ。苦手、というか興味が無いんだ。
けど立場上やらなくてはいけなくて、俺を呼んだのだと話しながら察した。
服装のことを忘れれば、話自体は面白かった。今流行りのドレス、遊び、アクセサリーやお菓子など、男が到底しない話をしてくれるから勉強にもなるし、声を高くしつつの話だからしづらいけれど、会話するのは楽しい。
………………やっぱり、俺の価値観は完全に乙女なようだ。
そんなことを思いながら、それでも真面目に貴婦人達の相手をしたセオドアことセアだった。
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