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第8章 幸せな新婚生活
初めての役割
しおりを挟む突然の言葉にセオドアは首を傾げた。
孤児院、って、孤児を育てる施設だよな…………
そんな当たり前のことを考えるセオドアを他所に、アミィールは『それでしたら………』と渋々下がった。
アミィール様が素直に下がるのも珍しいし、孤児院ってなんだ?
未だにわからないでいるセオドアに、アルティアはフォークを咥えながら言葉を紡いだ。
「サクリファイス大帝国には、孤児が多いわ。情婦が産み捨てた子供、敵国で戦場の中を生きてきた少年兵、巻き込まれた小さな子供、飢饉で口減らしに捨てられた子供………………私達サクリファイス大帝国はその子達を保護してるの。
孤児院にはちゃんと先生も居るし、虐待が起こらないように私が目を光らせてるから問題ないんだけど………………でも、それは"恐怖での支配"に近いわ」
アルティア様はそこで言葉を切ってデザートのチョコケーキを口に含む。
…………この国は、そういうことまでしてるのか……………凄いな。軍事国家の大帝国とは思えない。
軽く感動さえ覚えているセオドアに、次はラフェエルが口を開いた。
「…………私達は子供を保護し、1人の大人として育てる義務を持つ。恐怖ではなく、道徳を。その為には____お前の力が必要だと判断した」
「私の、力…………?」
俺の力なんて、何も無い。ただひとつ、チート能力"治癒血"があるだけで、あとは平凡で無力な主人公である。その子供達に何か教えるスキルは………ない。
そう思い、少し暗い気持ちになるセオドアに、アミィールは静かに言う。
「____セオ様は、お優しいです。
わたくしたち家族と違い、とても清らかな御心をお持ちです。
ですので、セオ様、宜しければ受けて貰えませんか…………?」
「う……………」
出た!モノ欲しげなアミィール様のおねだり顔!ぐぉぉ!ま、眩しい!………このお顔には弱いんだ、俺は…………
………でも、それを差し引いてもそんな魅力的な仕事に携われるのは、不安だけど誉高い。引き受けたい気持ちはあるが、何をすればいいのか……………
セオドアはそこまで考えて、ラフェエルを見た。そして、やっぱりたどたどしく言葉を紡ぐ。
「あの、……私は、何をすれば………?」
「そんなに難しく考えなくていいわ。
____セオドアくん。貴方の優しさは、きっとその子供達の心を癒すわ。
私の管轄だから、分からないことはなんでも教えるし」
アルティア皇妃様はそう言ってけたけた笑った。…………初めての、俺に与えられた使命。
不安は勿論あるけど____"必要とされているんだ"と思わせてくれた。
嬉しい。
答えたい。
俺を優しく迎え入れてくれた、アミィール様を、この家族を、…………この国を。
俺も、力になりたい。
セオドアは、もう涙も赤くもない。
しっかりとラフェエルを見据えて、力強く言った。
「謹んで____やらせていただきます」
その返答に、アミィールとアルティアは同じ顔で笑みを浮かべた。
ラフェエルは小さく頷いて、『任せたぞ』と述べた。
俺の公務。アミィール様とイチャイチャする為だけに、存在しているわけじゃない。お飾りの皇配なんて嫌だ。
アミィール様の隣に相応しい男になるんだ。
そう、心を奮い立たせた。
* * *
食事が終わり、アミィールとセオドアが立った時、未だに座っているラフェエルが『まて』と言った。
「____アミィ、お前は残れ」
「…………はい。
セオドア様、先にお部屋に戻っててくださいまし」
「ああ、部屋で待ってる」
セオドアはそれだけ言い残して、皇族専用の食堂を後にする。みんなで食事をすると、わりとこういう事がある。
なんの話をしているのかな………きっと執務の事だろうな。俺は詳しくないし、それよりも与えられた仕事をしっかりこなそう。
「っしゃ!頑張るぞ!」
「……………セオドア様、廊下でそのようなことはなさらないでください」
食堂前で護衛していた執事のレイは溜息をつきながらそう言った。
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