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第7章 主人公と皇女の結婚式前
国民の前で愛を誓う
しおりを挟むサクリファイス大帝国の皇族の結婚式は、教会では行われない。
そもそも結婚式という風習が無いのだ。
だが、それは20年前に変わった。
20年前、"世界最終日"の五日後に行われたサクリファイス大帝国を誇る闘技場での"ラフェエル皇帝の演説"の際、妃を紹介した事で国民達は『これを風習にして欲しい』と声を上げたのだ。
つまり。
俺達は_____闘技場で、国民達の前で愛を誓うのだ。
* * *
「______なあ、レイ、俺、おかしくないか?」
セオドアは、白いシンプルなタキシード_近くで見ると黄金色と紅銀色が見える_を着て、ドキドキしながらレイに聞いた。
レイは執事姿ではなく、正装を纏って頷いた。
「大丈夫だっつーの。似合ってるぜ?」
「本当か!?こ、国民達に変な目で見られないか!?」
「お前なぁ、仮に変な格好だと言ったらどうするんだ?それを脱ぐのか?」
「うぐ………………………」
セオドアは吃る。そりゃあ、出来ないけどさぁ……………でも、ドキドキして喋ってないと倒れそうなんだよ…………
今日は、結婚式。___そして、アミィール様と初めて出会った日なのだ。正確にはアミィール様が転校してきた日なんだけど。
よもや、自分がタキシードを着る未来など、2年前描けたと思うか?俺はまったく思ってなかったよ。ええ。本当に……………幸せすぎて頭がおかしくなりそうだ。
「……………全部口に出てるあたり、もう頭は十分おかしい。
それより、アミィール様の演説が始まるぞ」
「!」
その言葉を聞いて、控え室からアミィールを見た。
アミィール様は、俺の作った白いドレス_結構頑張った力作で、見る角度によっては群青色にも緑色にも見える_を身に纏っている。アミィール様の身に纏う全ての物を俺が作ったのだ。
誇らしい気持ちと同時に…………そのドレスを着こなして、いつもしていない化粧をしたアミィール様の美しさに唾を飲み込む。
そんな俺を他所に、アミィール様は声が遠くまで届くように伝達魔法を掛け、静かに、だけど凛々しく言葉を発した。
【「____サクリファイス大帝国の国民達、今日は集まっていただき、感謝致します。
わたくし、サクリファイス大帝国皇女アミィール・リヴ・レドルド・サクリファイスは本日、皇配を迎え入れます。
未だ現皇帝は健在であり、わたくしが今すぐ皇帝になることはございません。
しかし。
サクリファイス大帝国の皇族として。
この世界を征服していた龍神の末裔として。
現皇帝と共に国を支え、繁栄を齎す事をここに誓います」】
アミィール様がそこまで言うと、国民達が怒号のように大声をあげた。口々に『おめでとうございます、アミィール様!』と言う。………それだけで、アミィール様がどれだけこの国に愛されているのかが分かる。
アミィール様だけではない。皇族_3人しかいないけれど_がどれだけ愛され、信頼されているか。
その一員に____今日、俺はなる。
胸が高鳴る。生まれて一番心臓が痛い。
けれど。
俺は_____アミィール様を愛すると誓ったから。
「____浮遊魔法・フライ」
俺は控え室の窓縁を蹴り、最近覚えた浮遊魔法を使う。バランスを取るのは難しいけれど、それでも頑張って……………アミィール様の元へ向かう。
国民達は目を見開く。
群青色の短い髪、緑色の瞳、___それらを邪魔しないように、主張するように配置された顔をした白いタキシード姿の美男子が舞い降りてきたからだ。
まるで、天使が降りてきたようにさえ見える。実際、男のフライの魔法は不思議で、背中に羽根が生えていた。不思議な力に、国民達は思う。
_____サクリファイス大帝国の新しい皇配は、神の使いなのかもしれない。
男は降りた。美しい紅銀の髪を揺らし龍神の証である黄金の瞳を称えながら、男に魔法をかけた。
それが終わると、男は国民と向き合い、優しい声を発した。
【「お初にお目にかかります。
私は____アミィール・リヴ・レドルド・サクリファイスの皇配となるセオドア・ライド・オーファンです。
ヴァリアース大国から来た男をすぐに信用しろとは言いません。
ただ。
私は___この国の皇配として、国民の皆様の幸福を祈り、また、尽力させて頂きます」】
男はそう言って、綺麗に頭を下げる。
一つ一つの動作が美しい男に女達は頬を染めている。
2人の挨拶が終わると、アミィールは後ろに下がる。そして、代わりに現皇帝であるラフェエルが前に出た。手には____赤と金で飾られた煌びやか王冠。
男____セオドアは、膝を着いて下を向く。
ラフェエルはその頭に、名誉ある王冠を乗せて___国民に言った。
【「……………ただいまより、セオドア・ライド・オーファンは____セオドア・リヴ・ライド・サクリファイスと名を変え、サクリファイス皇族とする。
異論のない者は拍手を!」】
ラフェエルの言葉に、国民達は拍手の雨を降らせる。そんな中、ラフェエル、アルティアの前に王冠を頭に載せたセオドアと、アミィールが出てきた。
2人は向かい合う。鳴り止まない拍手を聞きながら、セオドアはベールを持ち上げた。
紅銀の長髪、黄金色の瞳の___愛おしい、愛おしい女。
群青色の短髪、緑色の瞳の____愛おしい、愛おしい男。
2人はゆっくり顔を近づけ、唇を交わした。
いつもの甘く優しいだけの、荒々しく乱暴なものでは無い。お互いの魔力を交換するように、長く、深く唇を交わす。
それを暫くして、唇を離す。
2人の目には涙が浮かんでいた。
「____セオ様、心の底から愛しております。
病める時も、健やかなる時も、……………共にいてくださいませ」
「____アミィ、私の全ては貴方に捧げる。
永遠に、愛を誓おう。……………愛している」
2人は、抱き合う。
国民達はそれを見て『サクリファイス大帝国万歳!』『アミィール皇女万歳!』『セオドア様万歳!』と讃えたのだった。
この国自身である国民達に祝われながら_____俺とアミィール様は、夫婦となった。
少女漫画のような結婚ではない。
憧れていた教会での結婚でも、指輪交換があったわけでもない。
けど。
俺は_____幸せだったんだ。
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