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第6章 お披露目祭り
早く、早く。 #皇女視点
しおりを挟む____本当に、この御方は狡い。
アミィールはぼうっとする頭で、そう思う。
女子のように優しくて可愛くてか弱い方なのに、こういう時は乱暴でかっこよくて猛々しい。
いつもの優しいお顔、好き。
わたくしが何かをする度に頬を染めるお顔、好き。
困った顔で懇願するようなお顔、好き。
_______キスをし終わってからする睨みつけるように、切なそうにするお顔、大好き。
柔らかい群青色の短い髪、純度の高い緑の瞳、スラリとした鼻立ち、少し硬い唇。…………顔を赤くしてもなお、熱を込めた視線で見下ろす愛おしい人。
このまま2人で倫理も道徳も何も無い世界でひとつになりたい。誰にも阻まれない、2人だけの世界で身体を重ねたい。
____嗚呼、わたくしはこんなにもはしたない女だっただろうか。
皆さんはわたくしを『完璧』だと表現するけれど。
そんなことない。はしたなく、醜く、不純な気持ちをこの御方に抱いている。
この御方と出会うまで、誰かを特別好きになることはなかった。龍神の血を持っているということもあったし、自分の代で呪われた血を断ちたいと思っていたのに。
彼に出会って、彼と話して、彼を知って、彼に触れて、…………引き戻せなくなるほど、深く愛してしまった。
わたくしはもう一年前には戻れない。戻りたくない。
______この御方は、わたくしだけのもの。
他の女に触れさせない。この顔を他の女に見せない。
独り占めしたい。甘い口付けも、太腿に当たる欲望の象徴も………全部全てなにもかも、わたくしだけが触れていい。
わたくしは、皇女としてでも、龍神の血を引く忌まわしい子としてでもなく、一人の女として切に願う。
早く、早く。
わたくしに全てを見せて欲しい。
貴方の顔を、もっと、もっと近くで、誰にも見せない一面まで全部見せて。
結婚なんて悠長な事を言わないで、貴方の気持ちを全部ぶつけて欲しい。
アミィールは顔を赤くし、乱れた息のままか細い声を出す。
「セ、オ様_____心の底から、愛しております、我が君……………」
「ッ……………ああ、俺も。俺も____貴方を狂おしいほど、愛しております」
セオドアは、目を見開き、優しく、それでも強く愛おしい女に覆い被さるように抱き締めた。
アミィールも、それを受け入れるように、涙を流しながら抱きしめ返す。
_____たった少しでも離れていたくない2人は、アルティアが戻ってくるまでお互いを慈しみあった。
* * *
「アミィ」
「なんですか、セオ様」
2人は起き上がりはしたけれど未だにくっついていた。指を絡めてお互いの身体を寄せあっている。
「……………なんで、アルティア皇妃様の前では我慢するんだい?」
「あら、我慢しなくてもいいのですか?」
「ッ、そ!そういうことではなく!」
意地悪く笑うアミィールに、セオドアは顔を赤くしながら慌てて言葉を紡ぐ。アミィールはくすくすと囀るように笑いながら言った。
「ふふ、…………お母様の前でこのようにくっついてたら、茶化されてしまいますもの。それに_____」
アミィールはきゅ、と自分より大きなセオドアの手を握り直してから静かに言う。
「___セオ様の可愛らしい顔も、男らしい顔も、わたくしは親にすら見せたくありません」
「___ッ」
セオドアはその言葉に耳も紅くする。
……………こういうかっこいいことを言えるアミィール様は生まれる性別を間違っている。
この言葉で胸がきゅう、と苦しくなって嬉しくなる俺も、だが。
そこまで考えて、セオドアはたどたどしく口を開いた。
「……………私だって、アミィール様の乱れたお顔を他の者に見せたく、ない」
「!………ふふ、安心なさって。
わたくしは、………貴方の前でしか乱れません」
「…………………う」
些細な抵抗も虚しく、今日もかっこよさで負けたセオドアでした。
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