上 下
70 / 469
第5章 主人公の隠された能力

復活の代償

しおりを挟む







 「今日は、マドレーヌを準備してみました」



 セオドアはにこやかにそう言う。
 ラフェエルはそれを険しい顔で見ていた。


 ____この小僧は、ある日突然アルティアがお手伝いさせるんだ、と言って連れてくるようになった。大方、アルティアが何かを吹き込んだのだろう。


 もちろん仲良くしてやる気はない。



 ……………が。



 ラフェエルは机を見る。
 いい香りを立てるコーヒー、マドレーヌ、モナカ、………それらは全て私が嫌いじゃないもので。


 剣術、武術、魔法は中の下、知識は中の中、礼儀は妥協して上。…………凡人である。


 だが、人を観察する、試行錯誤するのは得意なようだ。その能力というのは経験や素質で身につく。剣術などは毎日行っていれば身につくが、この力は本人の意識が伴わなければ身につかないものだ。故に、できるものは限られている。


 その点、この小僧はそれが突出して出来るのだ。実際、兵士や従者、諜報を行う者を選出する際、意見を聞いてみた。


 すると、私が使えると思った人間を『この人は忠実なお人柄です』と言う。人を選び、その利点を探せる貴重な人間だ。



 …………とはいえ、認めた訳では無い。

 なんとか婚約解消に持ち込みたいが、あのお転婆は無理に離すとアルティアのように家出をしたりするだろう。面倒な女である。とはいえ、この男も脅そうが何をしようが離れない。


 政略結婚という手も考えたが、サクリファイス大帝国には利点がない上、私の大切な娘に釣り合う男などいない。この世を全て統一した男でも嫌だ。




 どうすればいいのか____「アルティア皇妃様!」…………!





 男の叫び声に思考が止まる。見ると___アルティアが倒れていた。私はすぐさま駆け寄って抱き上げる。





 「アル!」



 「は、は…………」



 苦しそうに浅い呼吸をしている。……"代償"か…………!



 代償____それは、"復活"の代償だった。アルティアは1度死んでいる。それを私が無理やり生き返らせた。結果、アルティアは生き返ったが…………衰えていた。膨大な魔力は衰えた身体を蝕み、このように発作が起きる。ひどい時は3日も目覚めない。



 「ッ、リーブ!」


 「は、すぐに魔力抑制剤を準備致します」


 茶髪茶瞳の側近・リーブはすぐに準備に取り掛かる。………ちっ、早くしなければ、アルティアが………………!



 「小僧!このテーブルをどけろ!」



 「は、はい!」



 小僧は急いで動く。……………その時、小僧の手首から滴っていた血が、アルティアの顔に落ちた。その瞬間、不思議な現象が起きた。



 「!?」


 アルティアの頬に落ちた血が___緑の光を放ったのだ。それはアルティアの身体を包み込み_____収まった頃には、アルティアの呼吸が落ち着いていた。



 「一体なにが…………おい小僧!何をした!?」


 「え、えっと……………?」



 小僧も首を傾げている。今の光はなんなんだ…………!?




 「…………んん?」




 「!アル!」





 アルティアが、目を覚ました。先程の苦しそうな顔ではなく、スッキリした顔になっている。



 「あれ…………?代償の痛みが、ない………?痛いけど………どうして?」


 「アル!」


 「わ、ラフェー、苦しい」



 アルティアは顔を歪めているが、ラフェエルは離さなかった。

 よかった。大事にならなかった…………しかし。


 「……………小僧、お前、その血はどうした?」



 ラフェエルがそう聞くと、ビクビクと震えながら答える。


 「さっき、ナイフで切ってしまって………それを心配してくださったアルティア皇妃様が近づいてくれたのです、その時に…………」


 たどたどしく説明するセオドア。そんな中、アルティアが頬に着いていた血に触れた。


 「これ……………魔力を吸ってる……ううん、それだけじゃない、傷を癒して"元通り"にする力……………………………?」


 「…………何?」









しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

処理中です...