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第5章 主人公の隠された能力

避けては通れない茨の道

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 ______わかっているつもりだった。

 セオドアはクッションを抱きながら、考える。

 アミィール様を愛するということは支えていくということで国政にも参加しなければならないと。


 それを覚悟して、サクリファイス大帝国に来たというのに俺は、今更になって怖気づいている。


 国家機密は____とても、とても重いものだった。どこの国が戦をしている、何万人の負傷者が出ている、戦況はどうか、次の戦の作戦は、諜報活動を行っている者の報告………………どれもこれも、血の匂いがする。



 サクリファイス大帝国は自ら国を侵略をしたりなどしない。昔はそうではなかったらしいが、少なくとも俺が生まれた頃には『争いを招く国』ではなく『争いを食い止める国』となっていた。その国で生涯愛する人と共に守っていくことは誇らしいことだと思う。


 けど、花いじりが好きで、お菓子作りが好きで、フリルやリボンばかりに目がいく乙女な俺には不向き過ぎる。



 アミィール様も、血なまぐさい報告書などは俺の目に入らないようにしているのがわかるんだ。今日初めて気づいた。アミィール様が落とした書類を見て、俺がやっている執務よりも過激な内容に失神しかけた。



 アミィール様はそれでも眉を動かさず淡々と行っている。…………女の身でありながら、自分の責務を果たしてる。



 なのに、俺は。




 「…………………俺はノミ蟲だ」



 「そこまで卑下することないだろ。…………まあ、なんだ、俺も言いすぎたけどさ」



 そう言って俺の頭を叩いてくれるレイの手が優しくて、もっと凹んだ。







 *  *  *





 「……………………」





 アミィールは執務をしながら、セオドアを盗み見る。

 セオドア様のお顔は青い。手には先日鎮圧したという領地横領をした小国の盗人グループの処遇だ。



 ……………あの内容も、セオドア様にはお辛いのか。


 セオドア様のことは大好きだ。愛している。いっそ誰にもお姿を見せぬよう部屋に閉じ込めてしまいたい、なんて自分勝手なことを思うほどに。





 けれど。




 ……………セオドア様はとても、とても心がお優しい御方なのだ。とても心が綺麗な人。穢れた世界を知らない尊い御方。わたくしはそんなお姿に惹かれた。でも、そんな心の綺麗なセオドア様にこのような汚い世界を見せてしまっている。



 わたくしは、最低だ。
 でも、この国で生きている人間はこの事実を、罪を、噛み締めなければならない。大帝国だと誉高いと言われるけれど、実際はそれだけの罪を重ねている。


 それを、わたくしが大好きだからという理由だけで、曲げられないのだ。"綺麗なお心"を守りたい、けれど、それと"無知"は違うのだ。



 _____この国は、無知故に呪われ続けた。その為にたくさんの人間が死に、沢山のものを奪ってきた。それを断ち切れたのは20年前、………………今はユートピアの黎明期なのだ。不安定な国々を纏めるのが、贖罪。



 わたくしの隣に居るには避けては通れない道なのだ。



 こう、何度も何度も頭で再生してるのに____セオドア様の悲しいお顔を見る度にそれを忘れてしまう。目の前で機密書類を全て破り捨てたくなる。



 けど、それは許されない。



 …………わたくしが普通の人間で、このような責務がなかったら、セオドア様を苦しめずに済んだのでしょうか。


 でも、そうだとしたらわたくしはセオドア様を見つけられなかったかもしれない。心の底から愛せる殿方に出会えなかったのかもしれない。



 偶然は必然。


 色んなことが絡まり合い、その中で見つけた運命の糸。



 ____わたくしは地獄に堕ちてもいい。



 だからセオドア様は知ってるだけで、御手を汚さず綺麗なままでいてください。


 矛盾した気持ちが、絡まって苦しくなる。




 ____執務をしよう。



 そう思って羽根ペンを持った時だった。



 扉が勢いよく開いて_____お父様が現れたのは。















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