上 下
57 / 469
第4章『理想郷の王冠』と『理想郷の宝石』

皇妃×主人公

しおりを挟む
 




 サクリファイス皇城はとにかく大きい。城だから当然なのだが、ヴァリアース大国など比べ物にならないくらい立派でどこもかしこもスケールが半端ではない。


 その中でも一際大きく、また、美しいのは___庭園のもっと先にある、大きなテラス。ひまわりが季節を忘れて咲き誇り、テラスは白一色に統一されている、幻想的で不思議な場所だ。


 "あの御方"は前に言っていた。
 大抵ここに居るから気が向いたら足を運んで、と。



 俺はその言葉を受けて、アミィール様の侍女・エンダーの目を盗んで…………というか、お金を握らせて出てきた。レイにもガロにも伝えている。



 テラスが見えると、サァ、と風が吹いた。ひまわりの花が舞う中、テラスに人影を見つける。



 黒髪のストレートヘア、黄金色の瞳、黒のドレス____アルティア皇妃だ。




 「_____これは、珍しいお客様ね」




 「アルティア皇妃様、こんにちわ。


 ____聞きたいことがあって、来ました」





 俺は、龍神について___アミィール様を愛する者として、知らなければならないんだ。




 「まあ、そんなに改まることはないわ。………とりあえずこちらへ」



 「失礼します」



 セオドアはアルティアに促されて、向かいに座る。どう切り出せばいいだろうか。普通に『龍神について教えてくれ』と言った方がいいのか。…………アミィール様のように傷つかないだろうか。



 こんな時までうじうじする自分に嫌気が差す。何しに来たんだ、俺は。 



 膝の上に置いた拳を握るセオドアをアルティアは目を細めながら言う。



 「____その顔は"龍神"について聞きに来たのね」


 「……………!」



 「そんなに驚いた顔をしてるけれど、顔に書いてあるわ。ガロからも今龍神について勉強してると聞いているし」



 「……………はい。龍神がなんなのか、………アミィール様と共に生きるためには、知らなければならないんです」



 「そうね。その通りよ。……………けど、まだ早いわ 」


 「え?」


 顔を上げた。アルティア皇妃はいつもの明るい顔ではなく、どこか遠くを見るような横顔。


 アルティアはひまわりを見ながら言う。



 「龍神、というのは正確に言うとこの世界にはもう居ない。私が最後の次期龍神で継承もしなかったから。でも、私の血は龍神の血。…………最初は人間との間に子は出来ないのかと思ったけれど、アミィールは産まれたわ。

 だから、貴方がこれから先結婚をして子を成すことは不可能じゃないわ」



 「ッ、そうではなく、…………アミィール様のお身体のことを、アミィール様の抱えている闇を…………知りたいのです」



 そう言うと、アルティア皇妃はやっと俺を見た。けれど、その顔はやっぱりいつもの笑顔ではなく…………悲しく、強い顔だった。



 「アミィールの闇、闇ね………私はアミィールじゃないからアミィールの気持ちまではわからない。けれど、苦労をさせてないかというとわからないわ。

 この血と言うだけで毛嫌いしている節はあるから。…………でもね、この血は"未来の希望"でもあると、私は信じたい」




 「ど、……いう意味ですか?」




 アルティア皇妃はそこで首を振った。これ以上は聞くな、ということなのだろう。…………謎が謎を呼んだだけに留まった。




 「……………それより、セオドアくんは日本生まれなの?」



 「え」




 突然の方向転換。正直戸惑った。
 話していいのかどうか悩んだけど、日本生まれなのであろう皇妃様が聞いていらっしゃるのだから答えないわけにはいかない。



 「……………はい、そうです」



 「!やっぱり!」 



 「わっ」




 俺がそう答えると、アルティア皇妃は前のめりになった。











しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

処理中です...