上 下
36 / 469
第3章 "軍事国家"・サクリファイス大帝国

国の象徴・"龍神"

しおりを挟む





 「…………………………すごい」




 セオドアはぽつり、独り言を呟く。
 馬車の外には____赤と金の豪華な国境門、そして、そのまわりを囲む結界壁は____黒い大きな龍が描かれていた。



 各国の結界壁は現王が魔力を使って作るものだ。それはどの国も統一で、実際ここを通る時、ヴァリアース大国の蝶と某RPGゲームのゴーレムらしきものが描かれていた。


 国から出たことがない俺は言葉しか知らなくて、それにも驚いたが………………それ以上に、サクリファイス大帝国の結界壁はとても素晴らしいの一言に尽きる。俺の数少ない語彙ではこれが精一杯の表現だ。


 未だに馬車の外を見ているセオドアに、アミィールはくすくすと笑った。




 「驚きすぎですわ、セオ様」


 「これは驚いてもおかしくないだろう?こんなに素晴らしいのだ…………なにより、あの黒い龍はかっこいい………」




 「……………………龍?」




 ふと、違和感。
 アミィール様の声がワントーン低くなったのだ。いつも凛々しい声に陰りを感じて、アミィール様に目を向ける。

 アミィール様はとても険しい顔をしていた。…………?何か、気に触ることを言ったかな……………



 「ねえ、セオ様____なぜあれが"龍"だと思ったのですか?」


 「え……………」



 今までに見たことがない厳しい顔に、萎縮する。でも、あれはどう見たって龍だし……………あれ?



 そこまで考えて、ある疑問を持った。
 龍だとわかったのは"前世で見たことがある"からで、"今世で龍に関するもの"を何も見ていないのだ。文化の違いか何かかと思うけれど、このゲームは日本製だ。ほかのゲームのように龍を象る何かがあってもおかしくないのに………………



 "この世界には龍を象ったものが何も無い"のだ。それは凄く不思議な感じがした。



 「ねえ、セオ様。____貴方は何故あれが"龍"だとわかったのですか?」



 「………………ッそれは……………その……………あ、兄が"龍神"という言葉を出していたので!」


 「……………!」



 咄嗟に嘘をついた。いや、嘘ではないけれど、アミィール様の質問の答えにはなっていない気がする。けれども、『前世で見た事がある』なんて言えない。



 しばしの沈黙が流れた。俺は恐る恐る閉じていた目を開ける。アミィール様は____目を見開いていた。



 黄金色の瞳が陽の光を浴びてキラキラと輝いていて、結界壁に描かれていた龍の黄金色の瞳に見えた……………ん?



 龍神の瞳が、黄金色で。


 アミィール様の瞳も、黄金色で。


 サクリファイス大帝国の歴代皇帝の瞳は_____ルビーのような紅い色。




 バラバラに散らばったピースが嵌っていく感覚。でも、それが何を意味するのか…………俺にはわからなかった。




 アミィール様は、やっと『そうですか』と言葉を発した。その顔はとても悲しげで……………アミィール様には、似合わない気がした。


 アミィール様はその顔のまま、続けた。


 「龍神のことを____知っていらっしゃるのですね」


 「い、いえ、詳しくは………兄も詳しくは知らないと言っていて、名前しか知らないのです」


 事実だ。嘘はついていない。何も知らないのだ。けど、アミィール様はやっぱり悲しい顔で。いつもの敬語を使わないで、という絡みもない。…………それが、どうしようもなく不安な気持ちにさせた。


 アミィール様はしばらく黙ってから、自ら沈黙を割いた。



 「____龍神と言うのは…………"この世界を支配していた生き物"です」


 「……………世界を?」


 思わず聞き返した。そんな話を1度も聞いたことがないからだ。アミィール様は静かに、続ける。



 「10万年前から、この世界を支配していた最上の神。ずっとずっと人々を苦しめていた___沢山の死の元凶。世界を恐怖に陥れ、死さえも司っていた…………生き物なのです」



 なんだか、RPGゲームのような話である。龍神という名前からしてラスボス感がある。でも、ここはギャルゲー『理想郷の宝石』の世界だ。そんな設定はなかったはずだが…………………


 そんな事を考えている俺に、アミィール様はとんでもないことを言った。



 「その龍神の血を_____わたくしは、受け継いでいるのです。

 わたくしは…………………半分、"龍神"なのです」



 「_____は?」








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

甘い婚約~王子様は婚約者を甘やかしたい~

モモ
恋愛
私の名前はバロッサ・ラン・ルーチェ今日はお父様とお母様に連れられて王家のお茶会に参加するのです。 とっても美味しいお菓子があるんですって 楽しみです そして私の好きな物は家族、甘いお菓子、古い書物に新しい書物 お父様、お母様、お兄さん溺愛てなんですか?悪役令嬢てなんですか? 毎日優しい家族と沢山の書物に囲まれて自分らしいくのびのび生きてる令嬢と令嬢に一目惚れした王太子様の甘い溺愛の物語(予定)です 令嬢の勘違いは天然ボケに近いです 転生ものではなくただただ甘い恋愛小説です 初めて書いた物です 最後までお付き合いして頂けたら幸いです。 完結をいたしました。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

処理中です...