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第3章 "軍事国家"・サクリファイス大帝国
国の象徴・"龍神"
しおりを挟む「…………………………すごい」
セオドアはぽつり、独り言を呟く。
馬車の外には____赤と金の豪華な国境門、そして、そのまわりを囲む結界壁は____黒い大きな龍が描かれていた。
各国の結界壁は現王が魔力を使って作るものだ。それはどの国も統一で、実際ここを通る時、ヴァリアース大国の蝶と某RPGゲームのゴーレムらしきものが描かれていた。
国から出たことがない俺は言葉しか知らなくて、それにも驚いたが………………それ以上に、サクリファイス大帝国の結界壁はとても素晴らしいの一言に尽きる。俺の数少ない語彙ではこれが精一杯の表現だ。
未だに馬車の外を見ているセオドアに、アミィールはくすくすと笑った。
「驚きすぎですわ、セオ様」
「これは驚いてもおかしくないだろう?こんなに素晴らしいのだ…………なにより、あの黒い龍はかっこいい………」
「……………………龍?」
ふと、違和感。
アミィール様の声がワントーン低くなったのだ。いつも凛々しい声に陰りを感じて、アミィール様に目を向ける。
アミィール様はとても険しい顔をしていた。…………?何か、気に触ることを言ったかな……………
「ねえ、セオ様____なぜあれが"龍"だと思ったのですか?」
「え……………」
今までに見たことがない厳しい顔に、萎縮する。でも、あれはどう見たって龍だし……………あれ?
そこまで考えて、ある疑問を持った。
龍だとわかったのは"前世で見たことがある"からで、"今世で龍に関するもの"を何も見ていないのだ。文化の違いか何かかと思うけれど、このゲームは日本製だ。ほかのゲームのように龍を象る何かがあってもおかしくないのに………………
"この世界には龍を象ったものが何も無い"のだ。それは凄く不思議な感じがした。
「ねえ、セオ様。____貴方は何故あれが"龍"だとわかったのですか?」
「………………ッそれは……………その……………あ、兄が"龍神"という言葉を出していたので!」
「……………!」
咄嗟に嘘をついた。いや、嘘ではないけれど、アミィール様の質問の答えにはなっていない気がする。けれども、『前世で見た事がある』なんて言えない。
しばしの沈黙が流れた。俺は恐る恐る閉じていた目を開ける。アミィール様は____目を見開いていた。
黄金色の瞳が陽の光を浴びてキラキラと輝いていて、結界壁に描かれていた龍の黄金色の瞳に見えた……………ん?
龍神の瞳が、黄金色で。
アミィール様の瞳も、黄金色で。
サクリファイス大帝国の歴代皇帝の瞳は_____ルビーのような紅い色。
バラバラに散らばったピースが嵌っていく感覚。でも、それが何を意味するのか…………俺にはわからなかった。
アミィール様は、やっと『そうですか』と言葉を発した。その顔はとても悲しげで……………アミィール様には、似合わない気がした。
アミィール様はその顔のまま、続けた。
「龍神のことを____知っていらっしゃるのですね」
「い、いえ、詳しくは………兄も詳しくは知らないと言っていて、名前しか知らないのです」
事実だ。嘘はついていない。何も知らないのだ。けど、アミィール様はやっぱり悲しい顔で。いつもの敬語を使わないで、という絡みもない。…………それが、どうしようもなく不安な気持ちにさせた。
アミィール様はしばらく黙ってから、自ら沈黙を割いた。
「____龍神と言うのは…………"この世界を支配していた生き物"です」
「……………世界を?」
思わず聞き返した。そんな話を1度も聞いたことがないからだ。アミィール様は静かに、続ける。
「10万年前から、この世界を支配していた最上の神。ずっとずっと人々を苦しめていた___沢山の死の元凶。世界を恐怖に陥れ、死さえも司っていた…………生き物なのです」
なんだか、RPGゲームのような話である。龍神という名前からしてラスボス感がある。でも、ここはギャルゲー『理想郷の宝石』の世界だ。そんな設定はなかったはずだが…………………
そんな事を考えている俺に、アミィール様はとんでもないことを言った。
「その龍神の血を_____わたくしは、受け継いでいるのです。
わたくしは…………………半分、"龍神"なのです」
「_____は?」
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