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第3章 "軍事国家"・サクリファイス大帝国
敬語は使わないで
しおりを挟む「しばらく帰って来れなくなりますので、景色を楽しんでくださいまし」
「はい」
旅を続けて15日が経った。アミィール様、その言葉、もう100回は聞いております……………
15日も共に顔を合わせていれば、様々な一面を見ることが出来る。アミィール様は本当に俺を大事にしてくれるが故に俺の話し相手になろう……というか、気を使いすぎるくらい使ってくれる。
でも、アミィール様の手が止まることは滅多にない。馬車で揺れているというのに自国から伝達魔法で送られてきた書類に目を通したり、他国に伝達魔法で送ったり、昼夜問わず執務をしている。その上俺と話そうとしてくれているのだ。
俺も手伝おうとしたが、国家機密も沢山あるから無闇に申し出ることが出来ない。だから、花婿修行のカリキュラムを確認したり、予習したりしている。
幸か不幸か覚える事が多すぎて、時間が足りないくらいだ。……………アミィール様をお支えする、ということが容易では無いということを再認識する日々だ。
「セオ様、お顔がまた怖いですよ?」
「あっ…………す、すみません…………」
「それと、敬語はいりませんよ。貴方はわたくしの夫なのですから、気軽に絡んでほしいです」
「それは…………簡単じゃない………です」
「では、こうしましょう」
アミィール様は書類を置いて、俺の隣に来た。そしてずい、と意地悪な顔を近づいてくる。
「………敬語を使ったら使った分だけキスをしましょう」
「ええ!?そ、それは………!」
心臓がもたない……………!未だにこの距離でも緊張するというのに!う、嬉しくないわけではないけど…………じゃなくて!
「だ、だめです!私達はまだ夫婦では_「はい、敬語」_ッ」
そう言って額に唇を落とされた。そして、に、と白い歯を見せて笑う。
「……………敬語をやめるまでこれをやりましょう」
「そんな……………私の心臓がもちません…………」
「敬語、ですね」
そう言って次は頬に落とされた。このあとも同じようなやり取りをして、その度にドキドキして……………このままでは死んでしまうと思って、意を決して言葉を放った。
「あ…………………アミィ、私をあまりからかうな」
「!……………ふふふ、よくできました」
そう言って唇を塞がれた。言ってもキスをするんじゃないか…………なんて思いながら、それでもアミィール様の柔らかい唇を堪能した。
* * *
「……………………すぅ」
目の前で、セオドア様が眠っている。
疲れたのだろう。休憩時間も剣術の稽古をしているし、馬車の中でもいつも勉強している。本当に真面目な人だ。
そんな事を思いながらひざ掛けを掛けてあげる。ヴァリアースの気候は穏やかだから大丈夫だろうけど、なにかしたかったのだ。
ひざ掛けを掛けながら、愛おしい人の顔を見る。サラサラとした群青色の髪、長いまつ毛、すらっとした鼻立ち、僅かに開いた口……………やはり、美男子である。
顔で選んだ訳では無いけど、自然とそう思えた。ここまで格好いい人はなかなかいないだろう。もっと自信を持てばいいのに、とも思う。それがセオドアのいい所だと言うのはわかっているが、………偶にする卑屈さがほんの少し納得できずにいた。
わたくしよりも女性らしく、優しく、か弱い殿方。わたくしの理想の女性像を彼は男の身でありながら持っている。
誇ればいいのにそれを自分の欠点だと思っていることに異を唱えずには居られなかった。
それに……………キスをする時の猛々しい様はちゃんと男の方ですし。わたくしだけしか知らないという事実がとても嬉しい。そして、同時に恥ずかしい。
「…………ッ」
アミィールは1人そんなことを考えて顔を赤くしたのだった。
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