上 下
28 / 469
第2章 主人公の心、揺れ動く

ヒーローは遅れて現れる

しおりを挟む
 


 ザッシュは言葉を重ねる。



 「あの御方は……………あれだけの器量を、キャラ性を持っていながらモブだった……!それでも諦めず声をかけたというのにあの御方………いや、あの女は拒んだ!そして、お前を選んだんだ!


 腹立たしかったよ……………だが、それも今日で終わる」




 ザッシュはそこで言葉を切って、顔をあげた。悪役とはいえ主要キャラ、整った顔をしているのだが___その顔は、醜く歪んでいた。



 「お前に死にたくなるような恥辱を味わわせた上で、殺す。そして悲しみに暮れるアミィールを励まし、心の隙間に入り込み___俺の女にする」


 「ふざ………けるな…………! 」



 セオドアは涙目になりながらも睨む。
 こんなことが許されてたまるか。異世界転生者以前に人としておかしい。狂っている。



 「同じ異世界転生者ならわかるだろう?隠しキャラは攻略したくなる…………それにあの美しさだ。乱れた姿を想像するだけでソソる。 


 あ、抗っても無駄だぜ?攻略対象キャラは全員俺が攻略した。全員俺の奴隷だよ」




 ……………とんでもない奴である。いくらキャラとはいえ、周りにその攻略対象者がいると言うのにこんなことを抜かすのだから。それでも、攻略対象者達は恍惚な顔を浮かべているだけでそれには触れず話す。




 「セオドア…………乱れた貴方を早く見たいわ」


 「私、男達が襲ってから抱かれたいわ」



 「私は男に抱かれている時にシてもらうわ♪」


 「もう!1番はわたくしですからね!」



 ……………狂ってる。


 このゲームは狂っている。




 朦朧とする頭でそう思う。
 このゲームはエロゲではなくギャルゲーだ。大好きなギャルゲーだった。でも…………どこまで、幻滅させれば気が済むのだろう。


 男達は抵抗出来ない俺の服を脱がし始めた。抵抗しようにも身体に力が入らないんだ。…………このまま、好き放題されてしまうのか?



 いやだ。



 嫌だ。


 イヤだ。



 「い、や…………だ!」


 「抵抗しても無駄だぜ?兄ちゃん、男は初めてなんだろう?優しく抱いてやるよ」



 いやらしく笑う男。気持ち悪い。



 …………アミィール様。申し訳ございません。

 俺はどうやら、罰が当たったようです。



 あまりにも幸せだったから、罰が当たってしまったのです。


 貴方のことばかり考えて、自分の宿命を忘れていました。



 ですが、アミィール様。


 貴方を愛せたことが、今世で1番嬉しかったです_______



 「アミィール様、あいして、ま____!」  



 そう呟いた時、目の前にいた男が消えた。否、消えたのではない。細い足が男を蹴っ飛ばしたのだ。大きな音を立てて、黒い壁に叩きつけられた。


 俺は、霞む目を擦って上を見上げた。


 そこには____今、1番会いたかった人。




 「…………………セオドア様」


 「アミィール、様…………!」



 紅銀の真っ直ぐな髪、黄金色の瞳。


 白いドレスを身に纏った____アミィール様が、優しく微笑んでいた。




 「……………もう大丈夫、セオドア様。遅くなってごめんなさい」


 「ど、して……………ッ、だめで、す、今私に近づいたら…………」



 「………………淫魔系の魔法ね。確かに、このままでは苦しいわ、今どうにか____「な、なんでここにあなたがいるのよ!」



 マフィンの甲高い声が空間に響いた。アミィール様は申し訳なさそうな顔をして、俺の頬に触れた。



 「……………重ねてごめんなさい。少しだけ我慢してて。



 ____すぐに終わらせるから」





 アミィール様の黄金色の光が、妖しく光った。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

処理中です...