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第2章 主人公の心、揺れ動く
婚約後初の対面
しおりを挟む「…………………………」
「そわそわしすぎです、セオドア様」
「うっ」
共に来城していたレイに言われてびく、と肩を跳ねさせる。そわそわするに決まっているだろう、2週間ぶりのアミィール様だぞ?こんなことならもっとお洒落をしてくるのだった。
某少女漫画……異世界転生漫画の悪役令嬢の一コマのようにバラ園に案内されることもなければ元婚約者に遭遇して………という展開もない。なのに、こんなに少女漫画のヒロインの気分になるんだぞ?主人公じゃなくて、ヒロイン。ここが重要。
主人公____俺は『理想郷の宝石』の主人公セオドア・ライド・オーファンだ。全てが平凡チートなしなのに、見た目だけで女性が寄ってくるという訳の分からない設定だ。
つまり、アミィール様もその色香に当てられて……………と思うのは、嫌だな。今まで優しくしてくれたのは主人公だから、とは思いたくない。現に彼女は誰にでも優しい。気高いけれども笑顔を惜しまない御方だ。だから俺も好感を持ったし惹かれたというのもある。
……………そんな主人公が、攻略対象外どころかゲームにさえいなかった皇女と婚約を結んだ。正規のルートではない。
本当に、いいのだろうか。
そんなことを何度も考える。
もしかして、エンディング_学園卒業_に効果が切れて、寵愛が無くなる、なんてこと…………
ない、とは言いきれなかった。これはバグにも近いイレギュラー。何が起きてもおかしくは無い。
そう考えると、不安が心を満たしていく。アミィール様とこれから会うのに、どんな顔をすれば_____
そんなことを思っていると、コンコン、とノック音がした。セオドアは小さく頷くとレイが扉を開けた。
アミィール様だ。今日は桃色と白のドレスを来ている。前のデートの時よりもフリルやレースが多く、可愛い。
「お待たせ致しました、セオドア様。申し訳ございません、もてなしの準備が出来ておらず……………」
「き、気にしないでください。私が突然貴方をお呼びしてしまったので…………あの、私を選んでくださり、本当にありがとうございました」
セオドアはそう言ってぎこちなく頭を下げた。アミィールはそれを見てくす、と笑う。
「それはこちらのセリフですわ。婚約の承諾を頂いた時、わたくしなど飛び上がって喜んでしまって…………」
アミィール様が飛び上がって喜ぶ姿なんて想像できない。世辞の一種だろうか…………
「お世辞ではなく、本当に飛び上がって大変でございました」
「わっ!」
不意に後ろから声をかけられびっくりする。見ると、ベージュのお団子ヘア、黒瞳のメイドが立っていた。
アミィールはメイドにいう。
「エンダー。セオドア様の御心を覗き見るようなはしたない真似をしないでちょうだい」
「……………失礼致しました」
エンダーと呼ばれたメイドは仰々しく淡々と頭を下げた…………って、心を読む!?心って読めるものなのか!?
戸惑う俺をよそに、アミィール様は目の前のソファに座る。そして、改めて紹介した。
「…………その子はエンダー。私が唯一自国から連れてきた侍女で、身の回りの世話から護衛まで務めているわ。
セオドア様がサクリファイス大帝国に来るという返事を下さいましたので、挨拶だけ。エンダー、挨拶を」
「は。わたくしはエンダーと申します。主に雑用………いえ、アミィール様の細々とした面倒………いえいえ、こき使われている者です」
もっとなんか色々言葉をオブラートに包めないのか?仮にも主人なのに大層な言われようである。しかしアミィール様は突っ込むことなくにこやかに言う。
「このとおりやる気のない侍女ですが、仕事は正確なのでご心配なく」
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