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バレンタイン? 何それ? 食えんの?
しおりを挟むこのシーズン。街を歩けばどこに行っても、右見ても左見ても、バレンタイン一色である。しかしここで彼は問いたい。バレンタインって何ですか?
もう苦い思い出しかないので彼はバレンタインというイベントを記憶から抹消することにした。
学生時代。正直言ってモテる方ではなかった。そんなバレンタインにチョコを貰えるようなキャラでもなかった。女子からチョコなんて貰えない。それは分かりきっていたことだから今さら傷つきはしない。
しかし、当時義理チョコをクラスメイト全員に配る、ということをクラスの女子の代表的な存在がやってくれていた。もう一度言う。クラスメイト全員に配る、ということをしてくれていた。
しかし当日、彼の席の上だけ何度見ても置いてない。引き出しの中を漁っても、机をひっくり返してブンブン振っても何も出てこない。
え? なに? 私はクラスメイトに含まれていないの? と壮絶に傷ついたことを覚えている。これはもうあれだ。いじめである。いじめ。卒業アルバムの集合写真に私だけ載ってないクラスのいじめである。
まぁ、恐らく単純に忘れられたか、渡す時居なくて席に置かれていたチョコを誰かが持って行ったかしたのだろうが。義理チョコさえ貰えない、というのは当時地味に傷つき、コンビニで新作のチョコを一通り買って食べたものだった。
当時片想いをしていた女の子から可愛らしくラッピングをされたチョコを渡され、『え? え? え? ついに俺にも青春が?』なんて浮足立っていたら、『このチョコ、○○くんに渡してくださいっ!』と頼まれ、淡い恋心が一瞬で砕け散った。
ゴミ箱にでも捨ててやろうかとも思ったが、食べ物に罪は無い。一度トイレに籠って泣いた後、件の○○くんへと渡しに行く。すると、『あーごめん。俺彼女居るから、悪いけど返しておいて』。
てめぇで返せ、てめぇで。とは思ったが、頼まれると断れない性格の可愛い彼は頼まれた通り返しに行く。すると今度は泣きながら『酷いっ!』と喚かれ思いっきりビンタされた。よく事情を知らない、今見ている風景しか知らない周囲からも向けられる『ひど~い』という視線。
いやちょっと待て。この状況、一番酷いのは誰だろうか? 一番可哀そうなのは誰だろうか? 彼は再びトイレに籠り泣くことにした。
もはやバレンタインというイベントは泣いた記憶しかない。記憶から抹消したい気持ちも分かるだろう。こんなイベントがあるから貰えなくて傷つく者が出てくるのだ。彼が総理大臣になったあかつきにはバレンタインというイベントを日本から無くしてやろうとさえ思う。
記憶から抹消したハズではあるのだが、どこかでチョコ貰えないかなー、と期待してもいるのだが、どうやら今年も貰えそうにない。いや、これは彼が悪いのではない。推しチョコだ友チョコだと男子に渡す風習が無くなり始めているのがいけないのである。彼は悪くない。
……え? すっごい他責思考だって? 知らん知らん。都合の悪いことは他責にして生きていく。長生きするコツである。
どうやら今年も貰えなそうだな、と思った彼は自分でチョコを調達するためチョコのお店に寄ろうとしたところ、
「新作でーす! お兄さん、お一ついかがですかー?」
入口近くに立っていた店員さんにトレイに乗ったチョコを差し出された。すっごいニコニコ顔で俺のこと好きなのかな? とさえあっさり勘違いしそうになるが落ち着け。これは営業スマイルである。ジャパニーズの古くからの教え、お客様は神様である、という信仰の基、神様へと捧げる笑みなのであって、彼個人に向けられているものではない。ものではないのだが……、可愛い子から笑顔を向けられて嫌な気がする男子も居まい。
彼はデレデレと気持ち悪く歪みそうになる顔を押さえ込み、緊張でブルブル震える手を伸ばし、チョコを一個掴み受け取る。
地味に人生で初めて女性から貰ったチョコであった。ああ、チョコってこんなにも甘いんだなぁ……、と当たり前のことを知った。チョコの中に込められた優しさや温かさが心の中にじんわりと広まっていくようだった。
彼はその場に跪いた。いや、傅いた。
「ん? ん? ん? な、なに? お、お兄さん? え? なに? どうしたの? 何か分かんないけどすっごい嫌な予感するから早く立ってくれない? ほ、ほら見て? 周りの視線もすっごい痛いよ? スマホ向けてあれ多分撮影されているよ? 意図せずバズっちゃうよ? こんなバズリ方やーよ?」
「姫」
「姫ぇっ!? えぇっ!? 何急にっ!? 頭打ったぁっ!? お、お医者さぁっ!? どなたかお医者様は居ませんかぁーっ!?」
「貴女に永遠の忠誠を誓います」
「誓わないでくださいっ!? 何ですかっ!? いきなりっ!? 怖いっ! すっごい怖いっ!! やだやだやだっ!!」
こうして彼は姫に一生仕えることに決めたのであった。
「止めてくださいっ!?」
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