シカノスケ

ZERO

文字の大きさ
上 下
128 / 131
『覇』の失墜

毛利の混乱

しおりを挟む
毛利の覇の象徴国司元相の死は予想以上に毛利軍に動揺を与えた。

ここから毛利軍が更に混乱に陥る。





沢山の敵味方の骸が転がっている中をケン坊は小次郎に肩を貸し走っていた。


周りにも味方は居て、あの乱戦で生きていた奴らだ。


だが、その時である。遥か後ろの方から敵が走ってくる音がする。


「ヤバいっス!敵が攻めてくるっス!」


「俺の部隊はどこだ・・・!本隊に合流しないとあの屈強な兵に殺されちまう・・・!」

せっかく掴んだ敵将の首。これを宗信に見せるまでは死ねない。

いや・・・違う!見せた後も生きたい・・・!

こんな所で死ぬんは本望じゃない。



しばらく走ると後退していた筈の尼子軍本隊・・・いや違う・・・小次郎の部隊が見えた。







小次郎の部隊では隊長のいない部隊を優が指揮を取っていたのであった。


優は遠目で走ってくる小次郎を心配そうな目で見る。

「お兄ちゃん、やっぱり敵陣に突っ込んでいたんだね・・・。」



そう言うと手で部隊に前進の合図をした。



少しでも早く負傷者を回収して、異常な殺気で攻めてくる国司残党軍を迎え撃つつもりである。





やがて小次郎達が隊に帰還すると優が出迎えて来た。


「お兄ちゃん!なんで敵陣に突っ込んだの!怪我も酷いし・・・!」


悲しい顔をする優。だが、小次郎は討ち取った国司元相の首を見せつける。


「へへっ・・・!そう言うなよ。手柄はきっちり立てたからよ。」


優は国司の生首を見て「ギョッ」とする。

「ちょっ・・・!気持ち悪いの見せるなぁー!」



「へっ?生首なんて戦場に沢山あるだろうがよ・・・。」



「そんな間近で見せるなって言っているの!まったく・・・。とりあえず今来ている敵を倒したら傷の手当てするからね。」


そう言うと優は部隊の最前線に出る。



「みんな・・・!敵は寡兵だよ!あたし達より兵は少ない・・・!」


そう言うと手を挙げる。

「魚鱗の陣行くよ!」


そう言うと兵はすぐに陣形を魚鱗の陣にした。



魚鱗の陣は山岳地帯で良く使われる陣形である。

闇雲に突っ込んで来る強行兵に相性が良い。



それに対し、国司残党軍は陣形も特に無く、ただ真っ直ぐ突っ込んで来るだけである。





残党軍を指揮する国司元武は実はこの攻撃について、ただ策無しで突っ込んでいるわけでは無かった。



例え敵が固な陣形を敷いても、陽動などの策を用いようが最後に物を言うのは突破力だ。



これは自軍の被害が多いが、使いどころを間違わなければ戦いの決め手ともなる攻めである。



国司元武はこの攻めの使いどころを、バタバタしている今この時と見た。



「恐らく本城小次郎の隊は結成されて日が浅い。」


元武は小次郎の姿を見た人物に小次郎の印象聞いていたみたいで、どうも小次郎はまだ軍を率いたばかりのガキと思われているみたいである。



日が浅い部隊なら連携は上手くいかないし、何より今は敵将国司元相を討ち取って浮かれている。


この油断を突き、本城小次郎の部隊を恐怖に訪れる様に国司元武は強行を決行する。






そして国司元武が強攻を決意したもう一つの理由は、小次郎の部隊の方が人数多いのに何故か魚鱗の陣を取っているのである。


『軍法侍用集』によれば、魚鱗の陣は「小勢にて大敵と戦うとき吉」とある。

小次郎の部隊の方が兵力があるのに、優は何故か魚鱗の陣を敷いた。

合戦の常識としては有り得ない。







「部隊として日が浅く、軍法戦術の未熟者が率いる部隊など取るに足らん・・・。」


国司元武は自ら先頭に立って兵を率いてくる。


だが、ここで国司元武の予想外の事が起きる。



国司の部隊が小次郎の部隊に近付くにつれて、小次郎の陣形が徐々に変わってくる。



始めは国司残党軍の勢いに気圧されて陣形が乱れ、逃亡者でも出るのだと思っていた。


しかし、良く見ると魚鱗の陣がいつの間にか「V」の形を取る陣形に変化した。


いわゆる『鶴翼の陣』である。



『鶴翼の陣』とは両翼を前方に張り出し、「V」の形を取り、魚鱗の陣と並んで非常によく使われた陣形である。


中央に大将を配置し、敵が両翼の間に入ってくると同時にそれを閉じることで包囲・殲滅するのが目的である。


ただし、敵にとっては中心に守備が少なく大将を攻めやすいため、両翼の部隊が包囲するまで中軍が持ち堪えなくてはならないというリスクがある。


完勝するか完敗するかの極端な結果になりやすいため、相手より兵数で劣っているときには通常用いられない。


こちらの隙も多く、相手が小兵力でも複数の方向から攻めてくる恐れのある場合には不利になる。


また、部隊間の情報伝達が比較的取りにくいため、予定外の状況への柔軟な対応には適さない。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ワイルド・ソルジャー

アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。 世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。 主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。 旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。 ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。 世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。 他の小説サイトにも投稿しています。

16世紀のオデュッセイア

尾方佐羽
歴史・時代
【第12章を週1回程度更新します】世界の海が人と船で結ばれていく16世紀の遥かな旅の物語です。 12章では16世紀後半のヨーロッパが舞台になります。 ※このお話は史実を参考にしたフィクションです。

その者は悪霊武者なり!

和蔵(わくら)
ファンタジー
その者は悪霊!戦国の世を生き、戦国の世で死んだ! そんな人物が、幕末まで悪霊のまま過ごしていたのだが、 悪さし過ぎて叙霊されちゃった...叙霊されても天界と現世の 狭間で足掻いている人物の元に、業を煮やした者が現れた! その後の展開は、読んで下さい。 この物語はフィクションです!史実とは関係ありません。

INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー 魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。 「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。 <第一章 「誘い」> 粗筋 余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。 「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。 ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー 「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ! そこで彼らを待ち受けていたものとは…… ※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。 ※SFジャンルですが殆ど空想科学です。 ※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。 ※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中 ※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

アンチ・ラプラス

朝田勝
SF
確率を操る力「アンチ・ラプラス」に目覚めた青年・反町蒼佑。普段は平凡な気象観測士として働く彼だが、ある日、極端に低い確率の奇跡や偶然を意図的に引き起こす力を得る。しかし、その力の代償は大きく、現実に「歪み」を生じさせる危険なものだった。暴走する力、迫る脅威、巻き込まれる仲間たち――。自分の力の重さに苦悩しながらも、蒼佑は「確率の奇跡」を操り、己の道を切り開こうとする。日常と非日常が交錯する、確率操作サスペンス・アクション開幕!

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

処理中です...