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二章 宝探し

64 神槍の聖騎士

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二つの魔核を使い、魔導具にするための作業は、五日間の時間を要した。
そして、五日目の朝。

「完成だ。」
勿論、寝る間を惜しんで…なんて非常識なことは…させてくれなかった。
ヴォルカー様やマーティアスさん、ジュティさんまで僕の世話をやいてくれてさ。
日が変わる前には、否応なく風呂に入れさせられて、ベッドに押し込められてたんだよね。
そのせいで、五日も要したんどけど。
(お陰で体調が凄くいい………。)
お肌もつやつや。
ジュティさんが用意してくれるボディーソープとかクリーム?とか、いちいち気持ちいいんだよね…。

いや、そうじゃなくて。

完成した魔導具は、二つの魔核を両極に配置した形をした円盤で、一応、盾……のつもり。
元々、玻璃の盾のレプリカだと思って作ってたし、少し雰囲気が似てしまったけど…なんだろ……無骨?うぅ…デザインの才能が欲しいです。
シャルルがいたら、きっと更にスタイリッシュなデザインを提案してくれただろうなぁ。
「ティルエリー様、お疲れ様でした。ついに、完成なさったのですね!」
マーティアスさんが、カフェオレ風味なアイスクリームを持ってきてくれた。カットオレンジも添えてあって、喫茶店の一品みたいに綺麗!
「マーティアスさんが協力してくれたお陰だよ。使用者の魔力に合わせた設計にしたから、威力は絶大!!な、はず。」
もきゅ、と一匙頬張りながら喋る。
「……?」
マーティアスさんは首を傾げてたけど、これはエディオから教わった、スッゴイ技術。
ブロディア専用の武器を作る為の、魔力回路を《使用者》に合わせ設計する方法だ。
本当は認定魔導具技師になってから師匠になる人…僕でいうと父さんだけど。に、教わるんだって。だから勿論やったのは初めて。
いつか……ヴォルカー様の槍も、ヴォルカー様にピッタリ合わせて……。
マズい、今から物凄く楽しみすぎる……。だけど、最高な魔道具を作るには…まだ僕は未熟だ。
シャルルが言ってたように、飛空島で残りのアーティファクトを見つけ出して、そこから糸口を見いだせればな……。
夏休み明けたら、また皆と一緒に宝探しだなっ!

「ヴォルカー様、広い場所に行こう。学園の、鍛錬場か……ツインタワーのホールか……。」
「学園は閉鎖していますし、人の出入りも…教員が数名いるでしょうが、ツインタワーよりは少ないでしょう。」
そっか、そうだよね。ツインタワーには夏休みなんか無い研究者がたくさん……。
それなら、学園の中のほうがいいか。
「ん。マーティアスさんも行こう!」
「あの…本当によろしいのですか?」
「へ?何が…?」
「若様が力を取り戻す、そのきっかけが…私などで。やはり王子殿下をお呼びしましょう。」
不安そうな顔で、マーティアスさんは言う。けど、ヴォルカー様は首を横に振った。
「マーティ、お前も私の大事な仲間だと思っている。それにアールベルは我々を恒例の王家主催の夏の茶会へ招くための準備で忙しくしているからな。煩わせてはならないよ。」
僕が籠もっていた5日間のうちに、アールベル様から招待状がきたんだって。
いよいよ、シャルルをご両親に紹介するんだ。
きっと、上手くいくと思う。
「そ……そうですね。それならば、…はい。」
マーティアスさんは少し照れながら納得した。
「さぁ、行こう!」


◆◇


学園の鍛錬場は、予想通り誰もいなかった。
出入り口は鍵をかけたし、元々、他の授業の妨げになるからって、防音の魔導具が配置されているから、外にも音が漏れない仕組み。
だから、秘密裏にヴォルカー様の復活を試せるんだ。
「では、やりましょうか。」
「うん!お願い!!」
僕は盾をマーティアスさんに預けて離れる。
マーティアスさんの前にはヴォルカー様が対峙してる。
少し緊張してるお顔も……素敵……。

いやいや、何考えてるんだ僕は。

これから、ヴォルカー様の力が元に戻るかどうかの大事な瞬間なのに!

「………ふふっ。エリィが何を考えてるのかわかりますよ。」
「はぇっ!?」
なっ、何で!?そんなにわかりやすかったかな!?
「確かに緊張はしていますが……それよりも、封印が解けた後のことを思うと……貴方のためにできることがどれだけ増えるのか……。その思いで一杯です。」
頬が薔薇色に染まり、満面の笑みを返される。
はうぅ!!
「……展開しますッ!!!」
マーティアスさんの声とともに、盾は発動した。
まず青白い魔核が輝き、回路を伝って夜色の魔核が煌めく。
(よし、2つが同時に動いた…。ここまでは順調。)
マーティアスさんの魔力は、まるで穏やかな大河の流れよう。
一定だけど、揺るがない力強さ。
それに合わせた設計図は、彼の魔力を存分に巡らせるはずだ。
「くっ………、こんな感覚、初めてだ…魔力が根こそぎ取られるような……」
「その感覚で合ってるよ!!マーティアスさん頑張れ!!!」
普通の人は、魔力の枯渇なんて経験しないだろうな。
この盾の魔法は、ブロディア仕様。使用者の魔力を根こそぎ奪う。

「いっけぇえええーーーーッ!!」

パアァァァァッ!!!!

鍛錬場が眩い光に包まれた。
一層強い光を浴びたヴォルカー様は、その衝撃に何とか立って耐えた。
(お願いお願い、上手く行ってて……っ。)
僕は祈るような気持ちで、光が収まるのを待った。

「……………………。」
「……………ぅ………………。」
「……はぁッ………ハァ………。」

僕は緊張しすぎて硬直してた。
マーティアスさんはその場に崩れ落ちて息切れしてて……。
そりゃ無理もないよ。
神王級の魔核2つが嵌められた魔導具を発動させたのだもの。
それから、僕の最愛の人は。
「ヴォルカー様っ!!」
視線の先に倒れているヴォルカー様を見つけて、僕は駆け寄った。
「ヴォルカー様っ!!」
上手くいく確信はあったけど、でも………。
そっと手を当てて、魔力回路を確認する。
鼓動も聞こえる。
息、してる………っ。
良かった……!
気を失ってるけど、大丈夫だ。
封印によって半減していたらしい魔力は……うん。増えてるし、安定してる。
それに、抑えつけられていた力が、溢れ出てる。
きっと槍だろうが剣だろうが、これからは思い切り振り回せるはずだ。

「ティルエリー様、若様は……!」
マーティアスさんも青ざめた顔で、フラフラしながら駆け寄ってきた。
僕はゆっくり頷いて、笑顔を見せた…い、けど、あぁ、駄目だ。
視界が、歪む。

「……神槍の聖騎士様の復活だよ。」


僕は緊張の糸が途切れたみたいに、ボロボロ涙を流して笑った。

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