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二章 宝探し

48 僕の夢

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「    ニ……   ……イ   」


だれ?


また、あのときの、ゆめ。


声はするけど、聞こえないんだ。

だけど、前よりはっきりと………


「…………ニ、来イ。」


来、い……って言ったの?

……何処へ?

僕が、行くの………?


◆◇



「……………………うーん………。」

これってさ、ヴォルカー様が見るっていう予知夢……の類いとは違うよねぇ?

未来を、どうとかっていう感じでは無いし、何故か僕に直接誰かが語りかけてる……ような。

この前と同じく……凄く、寝覚めが悪い。

まだ早朝過ぎて、食堂も開いていないし……工房に行って気分変えようかな。

この魔道具を使えば、一瞬だし!

実は、この前エディオと即席で作り上げた転移魔道具を少し加工して、部屋に置かせてもらったんだ。
魔法が使えない僕でも、魔道具にしてしまえば威力は極小だけど、魔法が使えるから。
つまり、僕一人だけなら、この魔道具で部屋から工房に転移することが可能なのだ!

僕はツインタワーの特派員でもあるから、工房との行き来を自由にしても良いよってアールベル様が言ってくれたんだ。
有り難い!

工房に転移すると、まずはコーヒーを淹れる。
…二人分。
しばらくすると、控えめなノック音が、2回鳴って、それからもう1つ鳴る。
僕の心が、その音を聞くだけで高鳴るんだ。

「ヴォルカー様!」
凄いよね、僕が転移してくると、何故かヴォルカー様に気づかれちゃうの。
ヴォルカー様曰く、僕の気配は特殊?で、その僕が突然ツインタワーに現れるから、余計に分かるんだって。
謎だねっ!
「おはようございます、エリィ…。今日は随分と早いようですが……夢見でも悪かったのですか?」
「へへ。やっぱりわかっちゃうんですね……。」

僕は、この変な夢が2回目だということも含めて、この時初めてヴォルカー様に話した。
「そうですか……。私の見る予知夢とは少し違うようですね。直接語りかけてくるような…夢ですか………。」
ヴォルカー様は僕の目の下に君臨する隈に親指を這わせて、神聖力の癒やしを施してくれる。
気持ちいい……。
「エリィの身に、何も起きなければ良いのですが……。異変を感じたら、すぐに知らせてください。」
「はい、ヴォルカー様。」
ヴォルカー様の神聖力で、すっかり顔色が良くなった僕は、出来立てのコーヒーをお出しして、他愛無い話を続けた。
学園に行く前の、ほんのひと時なんだけど。
とても心地よい時間だった。

「……あぁ、もうそろそろ食堂も営業する時間ですね。ギーヴ君も待っているんじゃないですか?」
「あっ……本当だ。もう行かなきゃ!ヴォルカー様、また学園でね!」
ヤバい、朝食、食いっぱぐれる!
慌てて簡易転移を発動しようとしたら、ヴォルカー様が、頬に口づけをくれた。
「んにゃッ!」
不意打ちなんてズルっ!!!もー、顔が真っ赤になっちゃうじゃん……。
「ふふっ。良い反応が見れましたね。行ってらっしゃい。お昼休みは皆さんで保健室に来てください。旬の果実が手に入りましたので、一緒にいただきましょう。」
学園では、なるべく二人きりにはならないようにしろって、アールベル様に釘を刺されちゃったもんだからさ。
ギーヴやシャルルも一緒なら、ってことで皆で行動してるよ。
でも、二人きりでなくっても、凄く居心地がいいんだ。
卒業しても、このままみんなと過ごしてたい。
そう思うくらい。

「ギーヴ!おはよう!」
「ティル!!…ん?お前、また工房に寄ってきたのか?」
「あれ?何で分かったの?」
「お前、挽きたてのコーヒーの香りしてるぜ。先生に淹れてやってたんじゃないの?」
う、お見通しかよ…!
「ははは。お前といい、マルローズといい、青春してるなぁ。」
「…ギーヴは好きな人とかいないの?」
「んぁ?いるぞ。領地に婚約者がいる。一個下だからな。来年入学してくるぞ。ルルアっていうんだ。」
「ルルア…ちゃん?」
「あぁ。貴族じゃないけどな。エンダタールの技師なら知ってるんじゃないか?ルルア=アウローラ。アウローラ商団の代表の長女だ。あの商団の代表は、うちの領民なんだ。」
「アウローラ商団!?すご……っ!!!エンダタールだけじゃなくて、世界中を股に掛ける大商団じゃん!!!」
「俺の父親と旧知の仲でな、ルルアとはお互い幼馴染みたいな感じで育ったんだ。…で、いつからか、俺らは結婚するんだろうなぁ~って思ってたらさ、あっち側からルルアを嫁にって、縁談が舞い込んだってわけだ。」
ギーヴは頬を染めて、嬉しそうに話してくれる。
国内は、商団で子どもたちを連れ回っているけれど、他国は治安も悪い場所も多いし、幼い娘を連れては行けないからって、他国に仕事で出かけるときは、ビルチェ領主邸でルルアちゃんを預かっていたんだって。
ご長男さんの方は、跡を継ぐために常に一緒に回ってるそうだよ。
「アウローラ商団……いいなぁ……。僕が認定魔道具技師になったらさ、紹介してよ!」
僕の魔道具の販路、父さんや王宮を頼らずに確立できるかも!!
「勿論!!言っただろ?お前が安心して工房開けるように、ビルチェを最強にするってさ。その大口には、勝算が無かったわけじゃない。アウローラ商団って手札は大きいぞ。エンダタール王国の…いや、世界中に影響力がある資金源だからな。機嫌を損ねれば、その国の経済が大きく傾く。王族、貴族でさえ、安易に手を出せない相手だからな。」
凄いな、ギーヴ。領主になるための勉強も始めてるってのに、僕のことまで……。
「……ギーヴ……僕、卒業したら絶対にビルチェに工房建てる!!」
そしたら、お前に貢献できるよな?
「ははっ!約束だぞ!」
朝食を殆ど食べ終えた頃、僕の目の前にモーニングセットをトレーで運んできたのは、シャルルだった。
「ズルい!!ズルいー!!ギーヴくん、ズルいわよ、なんでそんな伝手持ってるのよ!モブのくせにぃ!!!」
「うぉっ!?マルローズ!?いつも突然出てくるな………。ってか、ズルいって何がだよ!ティルが安心して暮らせるようにしようってんだから文句ねぇだろー?」
「ううううぅっ。私だってティル様の卒業後も役に立ちたいのよ~……。」
シャルル……確か男爵位で、領地もないって言ってたもんな。
卒業したら…何処かにお嫁にでちゃうのかな?あ、でもこのままアールベル様が押しに押しまくったら……
だとしたら、アールベル様と一緒になったとしてもずっと…あの方も飛空島の管理なんてしないだろうし……。
王家の、王子宮に住むのかな……?
学園の生徒は、ここで就職しない限りは飛空島を卒業とともに去らなければならない。
え?このまま……何もなければ…皆で…集まることが、叶わなくなる……?

なんか、やだな。

うん。………やだ。

僕の、ビルチェで工房を持つっていう夢と、卒業しても一緒に皆で……って願い。
我儘かもしれないけど…それでも僕は。


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