上 下
42 / 68
一章 飛空島

42 変わらぬ未来線には

しおりを挟む
「では、展開する。」
アールベル様は、氷の剣を橋に突き立てて、魔法を展開した。
以前噴水の地下で作った階段だ。
今日は橋の下に足場を作るために来てもらったの。
「うーわー…相変わらず凄いな…。父さんの魔道具ですよね、その剣!」
「えぇ。ジョシュア様に公式に王族として請求し、買い求めた一振りです。…あの時はいくつかの剣を候補に作って頂いたのだが、この剣は一目惚れだった。…兄上には無用の長物と罵られたがね。」
剣の魔核はエンダタール公認色で、父さんの、王家用の紋章が刻まれている。
普通は、《王家公認》の印といえば王家に認められたものと思うけど、クラインの場合は、逆。
《エンダタールの地の現クライン当主が王家を認めている》という印。
認められないと、王族として支持しない…謀反されても仕方ない、と思われる。
だから、王家は、エンダタールの印が刻まれた魔道具を必ず当代クラインから賜る必要がある。
勿論、王様も、王妃様も、第一王子様も、そしてアールベル様も皆、父さんの魔道具を持っている。
父さんは、今の王家とは良好な関係を築いてるんだろうな。


僕が当主になったら、僕は今の王家を、認められるだろうか。



◆◇

(………それこそ、未来のことは分からないよね。)

みるみるうちに出来上がっていく氷の階段と廊下を見ながら、僕は苦笑を漏らした。
「ティル様、どうかしました?ってか、その表情も憂いがあって大変ご馳走さまです!」
「シャルル。あはは。相変わらず変なこと言ってるの?……ねぇ、シャルル。僕が当主にならない未来は、一体誰が、父さんの跡を継ぐことになってたのかな。」
「………え?」
「僕は、君が救ってくれたから、今こうして魔道具を作れたり、前を向いて生きていけているでしょう?……クラインとしての能力を失った僕は、きっと当主になどなれないし、そうしたら誰が……と、思ったんだ。」
「ティル様は…きっと当主になってたと思います。……だって、ティル様のエンディングでは、飛空島で見つける、ハウザー様のアーティファクトで、最後に、遂にその怪我を完治させるんです。」
また、知らない未来の話……。だけど、その言葉はすんなり僕の中で理解できた。
「ハウザー様の、アーティファクト……。」
「はい!ハウザー様は、この飛空島にいくつかの魔道具を隠しているんです。ティル様は、ヒロインと一緒に……それを見つけて、改良して…と、ティル様は徐々にクライン血族である誇りを取り戻していく、っていうストーリーなのです!!」
ぐっ、と拳を握り、シャルルは興奮して語ってくれた。
「でも、私はティル様が大怪我を負うことが嫌で…その未来が来ないように……フラグ折っちゃったんですけどね……。」
シャルルが何か…言ってたけど、それより気になる言葉が。
「ハウザー様の……隠したアーティファクトが、この飛空島に…?」
とくん。
心臓が、飛び跳ねた。
クライン血族の血が。
ううん。それよりも、もっと大事な……。

「見つけたい……。シャルル、僕、それ見つけたい!!」
「は、はいっ!!!お付き合いしますですー!!」

ハウザー様の魔道具なら、ヴォルカー様にあげる槍の参考にもなるはず……!!

「エリィ…?今しがた、お付き合いがどうの…と聞こえましたが。」
ひぇっ!?
温度がぐぐっと下がった気がする!
声がした方には、不機嫌を全開で顔に貼り付けたヴォルカー様。
やっぱりヴォルカー様の神聖力って温度が下がる!?
「ち、違うよ!ハウザー様のアーティファクトが、飛空島に隠されてるんだって!!だから、シャルルに在り処とか知っているなら教えてもらおうと思って……。魔道具作りに凄く参考になるんじゃないかって思うと気になって……。」
「そうですよ~、ヴォルカー様って心狭いです!そんなことじゃ、ティル様が自由に過ごせませんよ!」
「うっ……エリィ…そうですよね。エリィは生粋のクライン血族。魔道具とあらばその血が騒ぐのは否めません。……私も、その魔道具探しにお付き合いします。いいですね?」
「勿論です!ヴォルカー様のためだもん。」
「私の……?」
「…血を護る者ブロディアの試練に臨むため。最高傑作を作る参考にしたいから。」
ヴォルカー様は、ハッとしたように目を見開いて、その後めちゃくちゃ格好いい笑顔を向けてくれたんだ。
「愛しています、エリィ。力を取り戻して、必ず貴方をお守りすると誓います。」
「はい。頼りにしています、未来の我が血を護る者ブロディア。」
手を取って、見つめ合う。
カッコいい…素敵……。

「……御二方。いい加減降りてきてくださいませんー?ヴォルカー!イチャラブするのはコレ終えてから!!」
アールベル様に怒られた。
「す、すみません~!!!」

気を取り直して、氷の足場を降りていく。
エディオとアールベル様は先に行ってて、僕とヴォルカー様、シャルルが続く。
フェリクスさんとギーヴは、橋の上で警備を任してるんだ。危険だし、人が入ってこないように。


そして、三つの魔核を嵌め込めるように改良した橋の下の魔道具に、それぞれ嵌め込んでいく。
1つ目は、重力を軽くする魔法を。
2つ目は、橋を媒体に飛空島と離れ島を接続して離さない、吸着の魔法を。
最後は橋本体の強度を倍にする硬化の魔法を。
これら全ては黄金色の魔力から紡がれる。
サポート系っていうのかな?補助したり、強化したり、とか。
僕の魔力でも似たようなことは出来るけど、エディオ程じゃない。

だから、きっと血を護る者ブロディアの武器は…複数の魔核を使って作るはずなんだ。
(……赤い魔核が……絶対に必要。)
僕の苦手な、レガーノの一族が扱う、フロェンの赤の魔力が。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

賢者となって逆行したら「稀代のたらし」だと言われるようになりました。

かるぼん
BL
******************** ヴィンセント・ウィンバークの最悪の人生はやはり最悪の形で終わりを迎えた。 監禁され、牢獄の中で誰にも看取られず、ひとり悲しくこの生を終える。 もう一度、やり直せたなら… そう思いながら遠のく意識に身をゆだね…… 気が付くと「最悪」の始まりだった子ども時代に逆行していた。 逆行したヴィンセントは今回こそ、後悔のない人生を送ることを固く決意し二度目となる新たな人生を歩み始めた。 自分の最悪だった人生を回収していく過程で、逆行前には得られなかった多くの大事な人と出会う。 孤独だったヴィンセントにとって、とても貴重でありがたい存在。 しかし彼らは口をそろえてこう言うのだ 「君は稀代のたらしだね。」 ほのかにBLが漂う、逆行やり直し系ファンタジー! よろしくお願い致します!! ********************

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

もう一度、貴方に出会えたなら。今度こそ、共に生きてもらえませんか。

天海みつき
BL
 何気なく母が買ってきた、安物のペットボトルの紅茶。何故か湧き上がる嫌悪感に疑問を持ちつつもグラスに注がれる琥珀色の液体を眺め、安っぽい香りに違和感を覚えて、それでも抑えきれない好奇心に負けて口に含んで人工的な甘みを感じた瞬間。大量に流れ込んできた、人ひとり分の短くも壮絶な人生の記憶に押しつぶされて意識を失うなんて、思いもしなかった――。  自作「貴方の事を心から愛していました。ありがとう。」のIFストーリー、もしも二人が生まれ変わったらという設定。平和になった世界で、戸惑う僕と、それでも僕を求める彼の出会いから手を取り合うまでの穏やかなお話。

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

神獣の僕、ついに人化できることがバレました。

猫いちご
BL
神獣フェンリルのハクです! 片思いの皇子に人化できるとバレました! 突然思いついた作品なので軽い気持ちで読んでくださると幸いです。 好評だった場合、番外編やエロエロを書こうかなと考えています! 本編二話完結。以降番外編。

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)

かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。 はい? 自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが? しかも、男なんですが? BL初挑戦! ヌルイです。 王子目線追加しました。 沢山の方に読んでいただき、感謝します!! 6月3日、BL部門日間1位になりました。 ありがとうございます!!!

弟いわく、ここは乙女ゲームの世界らしいです

BL
――‥ 昔、あるとき弟が言った。此処はある乙女ゲームの世界の中だ、と。我が侯爵家 ハワードは今の代で終わりを迎え、父・母の散財により没落貴族に堕ちる、と… 。そして、これまでの悪事が晒され、父・母と共に令息である僕自身も母の息の掛かった婚約者の悪役令嬢と共に公開処刑にて断罪される… と。あの日、珍しく滑舌に喋り出した弟は予言めいた言葉を口にした――‥ 。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

処理中です...