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一章 飛空島
42 変わらぬ未来線には
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「では、展開する。」
アールベル様は、氷の剣を橋に突き立てて、魔法を展開した。
以前噴水の地下で作った階段だ。
今日は橋の下に足場を作るために来てもらったの。
「うーわー…相変わらず凄いな…。父さんの魔道具ですよね、その剣!」
「えぇ。ジョシュア様に公式に王族として請求し、買い求めた一振りです。…あの時はいくつかの剣を候補に作って頂いたのだが、この剣は一目惚れだった。…兄上には無用の長物と罵られたがね。」
剣の魔核はエンダタール公認色で、父さんの、王家用の紋章が刻まれている。
普通は、《王家公認》の印といえば王家に認められたものと思うけど、クラインの場合は、逆。
《エンダタールの地の現クライン当主が王家を認めている》という印。
認められないと、王族として支持しない…謀反されても仕方ない、と思われる。
だから、王家は、エンダタールの印が刻まれた魔道具を必ず当代クラインから賜る必要がある。
勿論、王様も、王妃様も、第一王子様も、そしてアールベル様も皆、父さんの魔道具を持っている。
父さんは、今の王家とは良好な関係を築いてるんだろうな。
僕が当主になったら、僕は今の王家を、認められるだろうか。
◆◇
(………それこそ、未来のことは分からないよね。)
みるみるうちに出来上がっていく氷の階段と廊下を見ながら、僕は苦笑を漏らした。
「ティル様、どうかしました?ってか、その表情も憂いがあって大変ご馳走さまです!」
「シャルル。あはは。相変わらず変なこと言ってるの?……ねぇ、シャルル。僕が当主にならない未来は、一体誰が、父さんの跡を継ぐことになってたのかな。」
「………え?」
「僕は、君が救ってくれたから、今こうして魔道具を作れたり、前を向いて生きていけているでしょう?……クラインとしての能力を失った僕は、きっと当主になどなれないし、そうしたら誰が……と、思ったんだ。」
「ティル様は…きっと当主になってたと思います。……だって、ティル様のエンディングでは、飛空島で見つける、ハウザー様のアーティファクトで、最後に、遂にその怪我を完治させるんです。」
また、知らない未来の話……。だけど、その言葉はすんなり僕の中で理解できた。
「ハウザー様の、アーティファクト……。」
「はい!ハウザー様は、この飛空島にいくつかの魔道具を隠しているんです。ティル様は、ヒロインと一緒に……それを見つけて、改良して…と、ティル様は徐々にクライン血族である誇りを取り戻していく、っていうストーリーなのです!!」
ぐっ、と拳を握り、シャルルは興奮して語ってくれた。
「でも、私はティル様が大怪我を負うことが嫌で…その未来が来ないように……フラグ折っちゃったんですけどね……。」
シャルルが何か…言ってたけど、それより気になる言葉が。
「ハウザー様の……隠したアーティファクトが、この飛空島に…?」
とくん。
心臓が、飛び跳ねた。
クライン血族の血が。
ううん。それよりも、もっと大事な……。
「見つけたい……。シャルル、僕、それ見つけたい!!」
「は、はいっ!!!お付き合いしますですー!!」
ハウザー様の魔道具なら、ヴォルカー様にあげる槍の参考にもなるはず……!!
「エリィ…?今しがた、お付き合いがどうの…と聞こえましたが。」
ひぇっ!?
温度がぐぐっと下がった気がする!
声がした方には、不機嫌を全開で顔に貼り付けたヴォルカー様。
やっぱりヴォルカー様の神聖力って温度が下がる!?
「ち、違うよ!ハウザー様のアーティファクトが、飛空島に隠されてるんだって!!だから、シャルルに在り処とか知っているなら教えてもらおうと思って……。魔道具作りに凄く参考になるんじゃないかって思うと気になって……。」
「そうですよ~、ヴォルカー様って心狭いです!そんなことじゃ、ティル様が自由に過ごせませんよ!」
「うっ……エリィ…そうですよね。エリィは生粋のクライン血族。魔道具とあらばその血が騒ぐのは否めません。……私も、その魔道具探しにお付き合いします。いいですね?」
「勿論です!ヴォルカー様のためだもん。」
「私の……?」
「…血を護る者の試練に臨むため。最高傑作を作る参考にしたいから。」
ヴォルカー様は、ハッとしたように目を見開いて、その後めちゃくちゃ格好いい笑顔を向けてくれたんだ。
「愛しています、エリィ。力を取り戻して、必ず貴方をお守りすると誓います。」
「はい。頼りにしています、未来の我が血を護る者。」
手を取って、見つめ合う。
カッコいい…素敵……。
「……御二方。いい加減降りてきてくださいませんー?ヴォルカー!イチャラブするのはコレ終えてから!!」
アールベル様に怒られた。
「す、すみません~!!!」
気を取り直して、氷の足場を降りていく。
エディオとアールベル様は先に行ってて、僕とヴォルカー様、シャルルが続く。
フェリクスさんとギーヴは、橋の上で警備を任してるんだ。危険だし、人が入ってこないように。
そして、三つの魔核を嵌め込めるように改良した橋の下の魔道具に、それぞれ嵌め込んでいく。
1つ目は、重力を軽くする魔法を。
2つ目は、橋を媒体に飛空島と離れ島を接続して離さない、吸着の魔法を。
最後は橋本体の強度を倍にする硬化の魔法を。
これら全ては黄金色の魔力から紡がれる。
サポート系っていうのかな?補助したり、強化したり、とか。
僕の魔力でも似たようなことは出来るけど、エディオ程じゃない。
だから、きっと血を護る者の武器は…複数の魔核を使って作るはずなんだ。
(……赤い魔核が……絶対に必要。)
僕の苦手な、レガーノの一族が扱う、フロェンの赤の魔力が。
アールベル様は、氷の剣を橋に突き立てて、魔法を展開した。
以前噴水の地下で作った階段だ。
今日は橋の下に足場を作るために来てもらったの。
「うーわー…相変わらず凄いな…。父さんの魔道具ですよね、その剣!」
「えぇ。ジョシュア様に公式に王族として請求し、買い求めた一振りです。…あの時はいくつかの剣を候補に作って頂いたのだが、この剣は一目惚れだった。…兄上には無用の長物と罵られたがね。」
剣の魔核はエンダタール公認色で、父さんの、王家用の紋章が刻まれている。
普通は、《王家公認》の印といえば王家に認められたものと思うけど、クラインの場合は、逆。
《エンダタールの地の現クライン当主が王家を認めている》という印。
認められないと、王族として支持しない…謀反されても仕方ない、と思われる。
だから、王家は、エンダタールの印が刻まれた魔道具を必ず当代クラインから賜る必要がある。
勿論、王様も、王妃様も、第一王子様も、そしてアールベル様も皆、父さんの魔道具を持っている。
父さんは、今の王家とは良好な関係を築いてるんだろうな。
僕が当主になったら、僕は今の王家を、認められるだろうか。
◆◇
(………それこそ、未来のことは分からないよね。)
みるみるうちに出来上がっていく氷の階段と廊下を見ながら、僕は苦笑を漏らした。
「ティル様、どうかしました?ってか、その表情も憂いがあって大変ご馳走さまです!」
「シャルル。あはは。相変わらず変なこと言ってるの?……ねぇ、シャルル。僕が当主にならない未来は、一体誰が、父さんの跡を継ぐことになってたのかな。」
「………え?」
「僕は、君が救ってくれたから、今こうして魔道具を作れたり、前を向いて生きていけているでしょう?……クラインとしての能力を失った僕は、きっと当主になどなれないし、そうしたら誰が……と、思ったんだ。」
「ティル様は…きっと当主になってたと思います。……だって、ティル様のエンディングでは、飛空島で見つける、ハウザー様のアーティファクトで、最後に、遂にその怪我を完治させるんです。」
また、知らない未来の話……。だけど、その言葉はすんなり僕の中で理解できた。
「ハウザー様の、アーティファクト……。」
「はい!ハウザー様は、この飛空島にいくつかの魔道具を隠しているんです。ティル様は、ヒロインと一緒に……それを見つけて、改良して…と、ティル様は徐々にクライン血族である誇りを取り戻していく、っていうストーリーなのです!!」
ぐっ、と拳を握り、シャルルは興奮して語ってくれた。
「でも、私はティル様が大怪我を負うことが嫌で…その未来が来ないように……フラグ折っちゃったんですけどね……。」
シャルルが何か…言ってたけど、それより気になる言葉が。
「ハウザー様の……隠したアーティファクトが、この飛空島に…?」
とくん。
心臓が、飛び跳ねた。
クライン血族の血が。
ううん。それよりも、もっと大事な……。
「見つけたい……。シャルル、僕、それ見つけたい!!」
「は、はいっ!!!お付き合いしますですー!!」
ハウザー様の魔道具なら、ヴォルカー様にあげる槍の参考にもなるはず……!!
「エリィ…?今しがた、お付き合いがどうの…と聞こえましたが。」
ひぇっ!?
温度がぐぐっと下がった気がする!
声がした方には、不機嫌を全開で顔に貼り付けたヴォルカー様。
やっぱりヴォルカー様の神聖力って温度が下がる!?
「ち、違うよ!ハウザー様のアーティファクトが、飛空島に隠されてるんだって!!だから、シャルルに在り処とか知っているなら教えてもらおうと思って……。魔道具作りに凄く参考になるんじゃないかって思うと気になって……。」
「そうですよ~、ヴォルカー様って心狭いです!そんなことじゃ、ティル様が自由に過ごせませんよ!」
「うっ……エリィ…そうですよね。エリィは生粋のクライン血族。魔道具とあらばその血が騒ぐのは否めません。……私も、その魔道具探しにお付き合いします。いいですね?」
「勿論です!ヴォルカー様のためだもん。」
「私の……?」
「…血を護る者の試練に臨むため。最高傑作を作る参考にしたいから。」
ヴォルカー様は、ハッとしたように目を見開いて、その後めちゃくちゃ格好いい笑顔を向けてくれたんだ。
「愛しています、エリィ。力を取り戻して、必ず貴方をお守りすると誓います。」
「はい。頼りにしています、未来の我が血を護る者。」
手を取って、見つめ合う。
カッコいい…素敵……。
「……御二方。いい加減降りてきてくださいませんー?ヴォルカー!イチャラブするのはコレ終えてから!!」
アールベル様に怒られた。
「す、すみません~!!!」
気を取り直して、氷の足場を降りていく。
エディオとアールベル様は先に行ってて、僕とヴォルカー様、シャルルが続く。
フェリクスさんとギーヴは、橋の上で警備を任してるんだ。危険だし、人が入ってこないように。
そして、三つの魔核を嵌め込めるように改良した橋の下の魔道具に、それぞれ嵌め込んでいく。
1つ目は、重力を軽くする魔法を。
2つ目は、橋を媒体に飛空島と離れ島を接続して離さない、吸着の魔法を。
最後は橋本体の強度を倍にする硬化の魔法を。
これら全ては黄金色の魔力から紡がれる。
サポート系っていうのかな?補助したり、強化したり、とか。
僕の魔力でも似たようなことは出来るけど、エディオ程じゃない。
だから、きっと血を護る者の武器は…複数の魔核を使って作るはずなんだ。
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