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一章 飛空島

36 魔力の彩り

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クライン血族は、その人の魔力に彩りをもたらす。
クライン血族がその特別な魔法を扱うようになったのは、神々と人々の交流があった太古の昔の話。

エンダタールの恩恵を受けたクラインは青い魔力の色を。
水と空の色を宿す。
フロェンの恩恵を受けたクラインは、赤く燃える炎の魔力の色を。
天使の末裔が住まうエルナリアの恩恵を受けたクラインは、大地から黄金と緑の、2つの色の魔力を授かった。

まぁ、クライン血族の魔力が他の人との違いは、その魔力に色があるってところ。
普通の人の魔力は無色透明なんだよね。
神々の血が、いつかの時代に混ざったんじゃないか、ともとも言われている僕たちクラインは、特別な反面、その属性に縛りがあるのが欠点といえば欠点かな。
「……この橋の魔核は、やっぱりエルナリアの恩恵を受けたクライン血族の魔力が必要だなぁー。」
学生街の本屋で、ギーヴと買い物。でも、つい頭の中にある疑問や欲望が口から出てしまう。
「あぁ…そっか。お前の魔力は青系の魔核になるんだよな。俺は凄く好きだぞ!」
そう。僕の魔力は青系。水、氷、大気、それと、少しの光。
だから、噴水の修理は僕の得意分野だったんだ。
でも、橋は青系の魔核では足りない。
「えー…じゃあ、飛空島に居るクライン血族の協力を仰ぐとか…?それか、地上から呼ぶとかな。」
「う~…ん。だとしたら、エルナリア出身のクラインがいいなぁ。」
「エルナリアかぁ……。」
手にした本は、建築系の本。
橋の強化って一言で言っても、どこをどういうふうに強化しないといけないのか、全然分からなかったし。
建築は専門外だったんだよね…。アクセサリー型や生活魔道具なら得意なんだけど。
「なら、ヴォルカー様に聞いたらどうだ?」
「ヴォルカー様?どうして……あっ、そっか。エルナリアに住んでいたことがあったんだもんね!」
「神殿はクライン血族達のお得意様だって言うじゃねえか。エルナリア出身のクライン様が出入りしてもおかしくないだろ?」
「あぁ!そうだね!!サンキュ、ギーヴ。早速明日にでも聞いてみるよ!」


◇◆


「いい腕の…エルナリア出身のクライン…様ですか?」
「はい……。橋を修理する過程で…どうしても黄金の彩りを持つ魔核が必要で。僕には残念ながら青系しか作れないので…。」
「成程……。」
放課後の、寮の保健室。
僕はヴォルカー様が入れてくださったベリー紅茶を飲みながら相談していた。
「エルナリアは今…とある事情からクライン血族の反感を買うことがあって。それ以来城下町でも、取引していた技師様たちが一気に他国へ流れてしまい商売が出来ない者たちで溢れているそうです。民衆の不満が高まり、治安が悪くなっているそうですよ……。
ですから、神殿に問い合わせることはできますが…クライン血族の方が、まだエルナリアに留まっているとは考えにくいですね…。」
えぇ?エルナリアの技師…国から逃げちゃったの…?そっか……期待しないほうがいいかなぁ。
「そうなると……うーん……。」
父さんの工房のクライン達は絶対父さんの側から離れないだろうから、誘うだけ無駄になるよなぁ。
「いえ、大司教様に手紙を送ってみましょう。一人くらいなら、直接取引している方も見つかるかもしれません。」
「本当!?お願いします!」


◆◇


それから、一週間も経たずに大神殿から返事の手紙がヴォルカー様に届いた。
「それで、内容は……?」
「一人、良い腕の魔道具技師様がいらっしゃったそうです。話してみると、喜んで飛空島に行くとお約束してくれたそうです。」
「わぁっ!良かった……!…それで、その技師は誰ですか?」
僕の知ってる人かな?
「次の定期便の際に、こちらへ来るそうですよ。…次の定期便は三日後ですね。」
飛空島には、物資供給や、飛空島に住む人たちのために、定期的に転移装置が開かれる日を設けている。
2週間に一度くらい。
利用者は十人もいない、小規模なものだから、魔道具だけで十分なのだ。
「三日後……。」


そして、三日後。
僕とアールベル様、ヴォルカー様はツインタワーの一階にある転移装置の待合室に居た。
アールベル様は、研究機関の制服を着てた。
エンダタール国の色を示す濃紺の生地で出来ていて、軍服みたいでカッコいい。
ヴォルカー様も神官医の制服だし、僕も学園の制服を着ているよ。
こうしてきちっとした感じで出迎えるのは意味があって。
「調査班の協力者として、一応研究機関の職員として入ってもらうことになったからね。私の部下ということだ。君も特派員という立場であるしね。」
「私も、大司教様を伝手に探していただいた経緯がありますからね。」
ってことらしい。
「あ、来たようですね。」
転移装置が淡い光を放ち、門が開く。
この度の定期便で来島した数名の中に、目当ての人がいる。
「……あっ、エディオ!こっち!!」
エディオ=クライン。
聖エルナリア王国の若き当主の弟だ。
クラインの集まりでも、見かけたことがある。
当主の直系はみんな、天使の恩恵を受けたあの国を、誇りに思っていたはずだ。
国を出ることになるなんて、辛かっただろうな。
そして、僕はエルナリアで起こった事件についても、ヴォルカー様とアールベル様から聞かされた。
許されてはならないことだし、エルナリアが混乱に陥ったって事情も分かる。
「ティルエリー……まさか君からスカウトされるなんて思わなかった。…ありがとう、声をかけてくれて。」
少し疲れた顔をしていた。何を隠そう、この人があの毒姫から専属になれと、傅けと命令された張本人。
他国に渡っていたって言うし、慣れない生活が続いていたんだろうな。
強いストレス、慣れない生活……。クラインとしてはまずい環境に置かれていたに違いない。
「…………魔核は今も作れる?」
心に強いストレスや傷を負うと、その力は弱まり、消える。
クライン血族が、ある時代に激減した理由だ。
僕はそっとエディオの手を握り、魔力回路を確認する。
回路は、正常。
魔力も申し分ない程。
「あぁ。大丈夫だ。……この人のお陰で、な。」
エディオは、顔を後ろに向けて優しげな表情を見せる。
「……そちらは?」
エディオの後ろに控えているのは、美しい立ち姿の青年だった。
「オレを…救ってくれた、元聖エルナリア王国の騎士だよ。…今はオレの…護衛を、してくれてる。フェリクス、挨拶を。」
エディオに促され、フェリクスと呼ばれたお兄さんは胸に拳を当て騎士の礼をした。
「フェリクスと申します。元聖エルナリア王国近衛騎士団に所属しておりました。今は平民となり…エディオ様の護衛をさせていただいています。」
仕える主人である王女に、斬り殺せと命令され、それに従い追いかけるふりをして、エディオを城から逃がした王女の近衛騎士だった青年。
クライン殺しを命令されて、ふりとはいえ剣を向けてしまったことを不名誉とし自ら籍を抜いて平民と成り下がった。
彼の家門も、彼の主張を認めてくれたそうだ。
廃嫡後、即刻他国へと渡ったらしい、とまではアールベル様から聞いていたけど、その後エディオと偶然にも合流したそうだ。

…という話を誰もが信じている。
おそらく、フェリクスさん自身も。
(……偶然、って言ってるけどエディオ、絶対違うよね。……エディオ、優しいから必死に探し当てたんだろうな~。)
僕はエディオを見てニヤつくと、エディオはバツが悪そうに目をそらした。


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