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一章 飛空島

26 噴水の復活

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「これを、ここに装着して…っと。」
折れた梯子をギーヴと一緒に撤去して、床にはめ込み式の魔道具を装着した。
これは、天上の噴水の魔道具に、手が届くようにするための梯子。
これまでは噴水と連動していたみたいだけど、独立させたほうが管理しやすいと思うんだよね。
床のタイルの並びに設置したから、踏み込めば起動するようにしたんだ。
「面白いな、コレ。どんな原理だよ」
ギーヴが踏み込んで梯子を出現させる。
よし、動きもスムーズ。及第点だなっ!
「へっへー、折れた梯子を見たときから、何となく頭の中には思い浮かんでたんだよ。独立して動くように改良したんだ!こういう魔道具沢山作って、からくり屋敷とか作ったら、子供達にウケそうじゃない?」
「面白そうだな!城下町…にはそんな土地なさそうだけど、俺の領地なら好き放題やってもいいぞ!」
「…っ!!マジで!?ビルチェ伯爵領!?嬉しい!!!」
そんな話で盛り上がっていたら、アールベル王子がクスクス笑ってるんだ。
「あなたという人は本当に…発想が、自由過ぎるね。最高峰の魔道具の技術を、子どもたちの遊具に……!」
「えぇ。ですが、素敵ですね。私も、ティルエリー様が作った施設で遊ぶ子供達の姿を見てみたい。」
本当に?よーっし、本気でやっちゃおうかな。
「ふふっ。楽しみにしててください!」
卒業したら、ギーヴの言うようにビルチェ伯爵領で好きなことするのも良いな。

みんなが喜ぶ遊び場…遊技場とか…。

うん。何か…楽しそうだな。

なんて、夢を膨らませながら作業していた。そして、最後の手順。
噴水が復活する魔核を嵌め込む。
「アールベル王子、ヴォルカー様。上でシャルルの連れてきた学園の生徒達が、噴水の復活を待ってます。大丈夫とは思うんですが、一応水の放出量を見たいからどちらか上で待機してもらえますか?」

「了解した。」
アールベル王子は公園の噴水前まで移動してくれたんだけど、発動時間の誤差を確認したくて、つい先日完成させた通信魔道具(ケータイデンワ)を使った。
シャルルが名付け親なんだ。

『ティルエリー様、噴水前に着きましたよ。お願いします。』
アールベル王子からの通信。うん、感度も良好!
「了解です!じゃあ…いきます!!!」
嵌めた魔核の動力が、石の柱を通じて地上に伝わる。
「んっ。発動した!王子…どうですか?」


『………あぁ。清らかな水が溢れ出て美しいよ。すぐに水も溜まるだろう。量も勢いも問題ないようだ。』
ケータイデンワからは、公園の観客たちの歓声も聞こえてきた。
「…よっし!!大成功~!」
僕はギーヴとハイタッチして喜んだ。
「ティルエリー様、ここはこのままで宜しいのですか?」
ヴォルカー様が梯子から降りるのを手伝ってくれる。うわぁ…さりげない感じでサポートしてくれるなんてカッコ良すぎ……。
「あっ、はい!このままで。魔核は決まった量の水を生み出してます。この柱の中にある管を通って魔核に戻り、水は浄化されて、再び噴水へ…っていう循環システムです。」
この回路を構築するのに、ここにあった前の魔核をものすごく参考にしたんだ。
僕の技術をはるかに凌駕するものだった。
ハウザー様のお弟子さん…だったのかも。

でも、悪いけどこの魔核は今の飛空島には…過ぎた技術。
再現できる人が継続的に管理に携わらなきゃ、飛空島は廃れるだけだ。

ん?
何か…引っかかるなぁ…。

午後、離れ島庭園にも行くし、そこで何かわかるかもしれないか。
それに、ヴォルカー様と二人…!
「……ふふっ。」
「ティルエリー様?とうされました?」
「あっ…いえ、午後はヴォルカー様と離れ島庭園に行けるので…楽しみで、つい。」

……って!
うわぁぁっ。
僕、何で正直に口走って…。調査のために時間を割いてくださったのに…呆れられたかな…?
チラ、とヴォルカー様を見上げると、ぱぁっと眩しいくらいの笑顔!!
「では、庭園デートをしてから、調査しましょう?」
「でっ!!!?」
ナニ!?
デートって言った?ヴォルカー様がデートって言った?言ったよね、言った!!
僕の願望から来る幻聴かな。
頬が熱い。僕は風で冷やしたくて急ぎ足で地上へ向かった。



◆◇


「あ~ぁ、嬉しそうな顔しちゃって。…ヴォルカー先生、あんまりティルエリーをからかわないでくださいよ。俺、こんな純粋培養のクライン血族様とか、見たことないッスから…。簡単に騙されますよ、アレじゃ。」
帰り際、残されたヴォルカーとギーヴは、駆け足で階段を行くティルエリーを見送りながら、話し込む。
「からかうだなんて。…私は常に本気ですよ?」
「…………マジですか。」
「彼は…私の理想、そのものだったのです。憧れの人に近づきたいと……。そう思うのは自然でしょう?」
「憧れ……ですか。じゃあ、そういう意味で好意を抱いてるんじゃないんですか。」
「そういう意味…とはどういう意味を言っているのか分かりかねますが…そうですね。今は…出来得る限り、側で支えて差し上げたいと心から思っていることは、確かですよ。」
「それは…エンダタールの貴族として、ですか?」
「………。」
ギーヴの質問に、ヴォルカーは黙った。
「……私は……。」
ギーヴは、ヴォルカーが実家とは絶縁同然でこの飛空島に来た事情を知らない。
だが、貴族籍も無いも同然なのに、側で守る権利があるのか。
そこに立ち返ってしまったのだ。
「…まぁ、あいつはそんなの、嫌がりそうだけど。本音でぶつかったほうが、生き生きしてて良い顔してるもんな。」
「……本音で……。」
真っ直ぐに。
本当に、ティルエリーが好みそうな言葉だとヴォルカーは微笑んだ。
「そうですね。…私も、もう少し気持ちを整理してみましょう…。この気持ちが、単なる憧れなのか…。」

(あの日、本当は紫丁香花リラを差し上げたかった。でも、貴方を勝手に想う私を疎ましく思われたら…?………私は、それを恐れていた……。だから、感情に蓋をしていたのかもしれない。)
毒姫の一件以降、恋愛に対してはかなり後ろ向きなヴォルカーが、そんな感情を芽生えさせたことに戸惑っていたのも確かで。

望まぬ好意を抱かれても、迷惑なだけ。
それは自身で経験済みだ。
俯き、困惑している様子のヴォルカーに、ギーヴは苦笑いした。
「いい大人なのにヘタレっすね、先生。どう見てもティルエリーは先生のこと好きなのに。」

「…………………はい?」

「だから、ティルエリーは、先生にゾッコンですよ。自信持って口説き落とすと良いですよ。既に見てわかるくらい相思相愛なんですって。先生のティルエリーを見る目が熱いのなんの。恋してる顔が丸わかりですし。」

「……………こっ……恋ッ!!!?」

「午後のデートが楽しみですね!朗報お待ちしてます、先生~♪」

「…~~~ギーヴ君っ!」
「おっと、先行ってまーす!」
走り去るギーヴをジト目で見送るが、

「……生意気な生徒ですね。」

毒づきながらも、手で覆うように隠した口元は僅かに緩んでいた。
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