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一章 飛空島
1 入学式前日のこと。
しおりを挟む僕はティルエリー=クライン。
クライン一族って言えば、この世界では大昔に偉業を成した大貴族………だったんだけど、ほんと、大昔。
千年近くも前の話。
今では細々と魔道具の制作やメンテナンス、修理なんかを生業にしながら生活している、ほぼ平民と変わらない貧乏貴族だ。
そんな僕も、ついに憧れの飛空島で生活することに!
飛空島の構造や仕組みなんかは、研究機関が日々解き明かそうとしているけれど、殆ど不明なんだって!
千年前に失われた技術…。
ん~!ロマンだよね!
しかも、僕のご先祖様、ハウザー=クライン様が作ったんだ。
でも、何故かその時の設計図や記録のようなものは殆ど無くなっていて、今は各国が協力して、この飛空島を研究をしているんだ。
でも飛空島の謎解明の成果は全然で、いくら世界規模の研究だからって、なんの成果もないんじゃぁ、ってことで、この百年ほどでパトロンだった有力貴族も手を引いてしまった。
そして飛空島の研究予算はだんだん縮小されて、国際事業なのに実は火の車なんだよね。
そんな予算の付かない研究の舵取りを任されたのが、エンダタール王国の王子さま。
貧乏くじ引かされたって、悲観してるんだとか。
ほんと、我が祖先が謎な物を作ってしまってごめんなさいって感じだよね。
何で作った後で資料や記録を遺さなかったのかな。
そして、この僕はというと!
明日から住む学生寮の一室で荷物を解いている。
この世界では、国境のないこの飛空島に学園を作り、今年十五歳になる子供らが、3年間滞在して、魔法を学ぶ機会を与えられる。
国同士の偏見や、格差を調整し合う政治的な観点からも、この国境なき飛空島での3年間は意味のあるものなんだってさ。
飛空島の動力は、自然界の万物が保有している魔力だ。
この島の浮遊する機能と推進力はね、星の魔力を糧に動いていることは分かっているの。
世界中をゆっくりと回遊しながら、動力に必要な魔力を満遍なく少しずつ。
そんな効率的な、しかも空に浮かぶ人工島を作ってしまった千年前の偉人、それがハウザー=クライン。
ぼくのご先祖さま。
ハウザー様が完成させた、この謎な魔力回路が張り巡らされた、この人工島自体が、魔力操作をとてもしやすい環境となっていて、生まれながらにして少なからず魔力を保有する人々は、魔力の安定してくる十五歳~十八歳くらいまでをこの飛空島に作られた魔法学園で過ごす。
魔力の使い方を、ここで学ぶんだ。
僕もようやく十五歳。
魔法は自信ないけど、「いつか、趣味を職業に!」が夢である僕にとっては、魔道具を作るだけじゃなくって、使い手のことも学ばないとならないからね。
将来のためにもしっかり勉強しなきゃ!
あ、僕の夢は、世界一の魔道具技師になること!
クラインの名に恥じぬような!
「は~、荷解きもこんなもんかな。腹減ったし、食堂に降りてみようかな!」
なんとなく片付いた感じだし、学生寮の食堂に向かった。
僕と似たような考えの子たちが何人かいた。
「こんにちは、今って、ご飯食べれますか?」
厨房で作業しているおばちゃんに声をかけると、おばちゃんは元気よく笑って、メニュー表をくれた。
おっ、ハンバーグ定食っていつもあるの!?
グランドメニュー結構多いなぁ。これは嬉しいかも!
「じゃあ…パルクの甘辛焼き定食お願いします!」
「あいよ!」
パルクってのは、白い毛の獣。
耳が長くて跳ねて逃げ回るすばしっこいヤツだけど、食べると美味いんだよね。
ただ、貴族連中が市場ルートを制限してるからさ、平民同然な僕の家の食卓には出てきたことないんだよね。
「…隣、いいか?」
パルク定食を受け取って、端の席に座るとさ、誰かが声をかけた。
「もちろん。僕、ティルエリー。明日入学式だよな。お前も新入生?」
「あぁ!俺はギーヴだ。ギーヴ=ビルチェ。」
ん?ビルチェ、っていう名前には覚えがあるな。
「もしかして、ビルチェ伯爵様の息子さん?」
ビルチェ伯爵は、僕が趣味で作って下町の魔道具屋に卸してる魔道具を、伯爵家の使用人のためにって、たくさん買ってくれた超お得意様だ!
おかげで、この学園の入学費用が工面できたんだよー!
恩人って言っても過言じゃないかも!!
「でも、貴族だからってあまり気負わないで接してほしいな。」
気さくな感じで、好感持てる。
貴族っていうとさ、何かと鼻にかけて偉そぶるから苦手なんだけど…。ギーヴは違うのかな。ビルチェ伯爵も、平民が買うようなお店で普通に魔道具を買ってくれたし、そういう家庭で育ったなら、イイヤツかも。
あ、僕も一応、貧乏だけど侯爵令息なんだよ!
パルクさえ買えない貧乏貴族。
……畜生っ!
でも面倒くさいし、曖昧に笑って返した。
「こちらこそ、宜しく。」
そして、パルクの甘辛焼きを一口ほうばる。
「うまっ!」
ここの食堂、かなり美味い!これから3年間はこの美味い食事を、食べれるのか!幸せだー!!
「ははっ。ほんと美味そうに食べるな。」
「だってさ、うちって貧乏だから飯も自給自足なわけ!パルクなんて、狩りにでも出なきゃ食べれないんだぜ?それがこの食堂ならグランドメニューだろ!?最高じゃん!!」
「…そっか、パルクは貴族ぐらいしか食べられないもんなぁ。」
「それに、パルク捕まえても食べるより売ったほうが金になるじゃん。」
真面目に答えたつもりだったけど、ギーヴは目を丸くした後、大笑いしやがったんだ!
「あはははっ!!!おもしれーヤツ!!」
「なっ!何だと!?失礼なヤツだなっ!」
「ごめんごめん。しかし、パルク狩って売るとか…。」
「ムッ。僕だって狩りくらいできるさ!魔道具使えばパルクだろうがジェーオンだろうが訳ないよ!」
ジェーオンってのは、草原地帯に出るトサカ付きのトカゲのこと。これも、美味いんだ。
「魔道具か!俺もいくつか持ってるぜ。だけど、やっぱりエンダタール王国の青のクライン印が一番だよな!」
ギーヴの推しは、やっぱ青か!分かってるじゃん!!
「だよねー!分かってんじゃーん!」
ふふん。そうだろ?何せ、今代は僕の父さんが作ってんだからさ!
エンダタールの公式色は濃い青色。
エンダタール公式の印を付けた魔道具は世界的にも人気で、隣国、フロェンの公式の赤色クライン印よりも高値で売れるんだ。
…あー、嫌なこと思い出したな。
クラインの血を引いている一族って、世界中に散らばって各国の魔道具業界を率いてるんだけど、その一族の集まりが年に数回あるんだ。
そこで、互いの跡取り同士、遊んだりもするんだけどさ。
フロェンのクライン次期当主のレガーノってやつが、ほんっとムカつくの!
いちいち突っかかってきてさ。
僕の魔道具、壊されたことも一度や二度じゃない。
才能が無いからって八つ当たりしないでほしいんだよね。
しかも僕より一つ年上だから、今2年生クラスにいるんだよね。出会いたくないなぁ~…。
なんて考えていると、ギーヴがため息ついでに
「あー、でも、確か2年生にさ、フロェン国のクライン次期当主様が在席されているんだよな。…赤のも買っといた方がいいのかな…。」
なんて言うんだ。
ギーヴは、あのムカつくヤツ…レガーノのご機嫌を取りたいのかな…。
そう思うと、友達になれたと思ったのに何だか寂しくて、もやもやした。
「…赤より青が好きなんだろ?自分が気に入った魔道具を買えばいいよ。別に、赤だからってレガーノが作ったわけじゃないんだし。」
だから、つい本音で毒づいたんだ。
そうしたら、ギーヴは難しい顔をしてた。
「こら、飛空島でクライン一族の血縁者様を呼び捨てたら駄目だ。ここ飛空島ではクライン家は王族よりも尊ばれるんだぞ!」
がちゃん!と食事トレーをテーブルに置いて、そう叱責したのは、多分同じ一年生の子。
誰だろ…?
「誰だよ、いきなりさぁ…。」
「俺はマルス。フロェン国出身だ!お前、さっきレガーノ様のことを悪く言ったな?」
ギッと睨んできたもんだから、僕もつい言い返す。
「別に悪く言ったつもりはないよ。気に入った魔道具を買えばいいって言っただけじゃん。」
こいつもレガーノ信者か。
くそ、つまんないなぁ。
僕はだんだん気持ちが落ち込んで、パルクも半分ほど食べたところで食欲も無くなっちゃった。
「…もう行くね。ギーヴ、また明日ね。」
ギーヴは何かを言いたそうにしてたけど、気づかないふりしてそのまま食堂を出た。
寮の部屋に戻って、ベッドに突っ伏す。
やっぱり、もやもやするー!!
がばりと起き上がり、机に無造作に重ねた紙とペン、定規と魔石を揃えた。
落ち込んだときは、設計図を描く!!これに限るな。
僕は喧嘩が弱いから、魔法使いとして早くから学んできたレガーノには、いつも勝てなかった。
魔道具作りなら、誰にも負けないのに…。
カリカリと紙に線を描いていく。こうしている時が一番落ち着くんだ。
図面に起こした設計図の線に、僕の身体に流れるクラインの魔力を紡いで流し込む。
図面は、それに呼応するように回路を自動的に繋げてくれるんだ。
ぱぁぁ、と青く涼やかな魔力が部屋に満ちた。
図面に起こした設計図は、さながら魔法陣。
僕の魔力で青く染まった図式を、石ころみたいな魔石に閉じ込めると、魔道具の核が出来上がる。
設計の緻密さによって、石ころの魔石は宝石みたいに透明度を増すから不思議だよね。
この核は明るい水色。
図式は「守護」。
つまり、簡単なお守りってとこかな。
ペンダントなんかにして身につけると、弱い攻撃なんかから守ってくれる。
「ピン付けてブローチにして、ギーヴにあげようかな…。」
エンダタールの青色の核だから、喜んでくれるかな。
せっかく話しかけてくれてのに変な別れ方しちゃったしな。
ギーヴも同じ寮だよね?
よし、探しに行ってみるか!!
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