虹色の子~神さま候補、世直しします!~

an

文字の大きさ
86 / 119

救えない魂

しおりを挟む
その昔、世界樹には《梯子》が架かっていた。


しかし、世界樹は、消えた。


世界樹の消失は、聖砡が盗まれたことが影響し起こった。

世界のバランスが整う前に崩された影響で、徐々に神力を失い、回復できずに枯れ絶えたのだ。

世界樹と共に生きて、その森で一生を終えるエルフにとって、それは受け入れがたい現実。

世界樹の麓で生まれ生活していたエルフたちは、枯れ始めた世界樹の森を捨て、方々に散った。

ディーテ神はエルフたちを憐れに思い、《種族》に対して加護を与えた。
今後生まれてくる子孫のエルフ達は、砡の加護を高く受けるように。

それは、世界樹と共生した場合に得られていた恩恵そのもの。

そして、エルシオンは、その加護を受け生まれた、初めての子だった。そして、世界樹が枯れ果てる時の、最後の子。

エルフ達は喜んだ。世界樹の側に居るとき以上に恩恵を受けることになったのだから。

しかし、ギネルはそうは思わなかった。
世界樹の消失により多くの仲間を失った責任、他のエルフからの族長であったギネルに対する誹謗中傷。彼の精神は壊れ始めていた。
それなのに、あの神の与えた加護一つで片付けられてしまった。

《この者達は…故郷が滅びようと、そこに住まう命が消えようと、自分さえ恩恵を受けられればどうでもよいのだ。私がどのような暴言を吐かれ傷ついたとしても、なんとも思っていない。》


同族から、酷く責め立てられた。
まるで世界樹の消失は私の過ちであるかのように。

他の者は加護を得てディーテ神を信仰し、それまでの気持ちを精算したのだろうが、私は違う。

《お前らが私に一体何をしてくれた?》

その思いとは裏腹に、彼らは族長であったギネルを教会の中枢にと担ぎ出そうとした。

自分達がこれまでどんな酷い言葉を投げつけてきたか、まるで忘れたように。


いいだろう。
私がお前らを利用してやる。
これまで好き勝手に私を悪者にしてきた連中を、今度は私が…。

ギネルの魂は既に澱みで満ちていた。深く傷つき、癒されることもなく。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




(可哀想な人…。ぼくも疎まれていたけれど、お父さんが側に居てくれたから…。)
ディーテ神がヒースヴェルトの言葉を借りることで、ヒースヴェルトの意識ははっきりとしていた。そして、ディーテ神の彼にかかわる記憶が流れ込んでくる。
(救えるなら、救いたかったな…。)
ヒースヴェルトは心の中でしゅんとする。
「そなたが苦しみの中、人々にそこまで恨みを募らせたことは残念でならぬ。…それでも人々に寄り添い、より良い方向へ導けるならば…そなたも天上人となる資格は十分にあったのだ。」

「………何…?」
「そなたが余の跡を継ぐ未来もあった。…だが、それは…断たれた。もはやその魂に余の力は届かぬ。」

ディーテ神は、世界を創造し、見守るだけの存在であった。

ヒースヴェルトを梯子の袂で気まぐれに拾い、親となった後は、人々の心の有り様が分かるようになった。
そして、ギネルを救済できなかった後悔を、ディーテはそっとその表情に浮かべた。
『すまなかった。せめて、私の元で浄化をさせてほしい…。』
ディーテ神自ら、彼の苦しみを背負うと決めた。

そして、ぴた、とヒースヴェルトの口が動かなくなった。

ふわりと金の光がヒースヴェルトから離れると、瞳の色はいつもの紫色に戻ると。

『ディラン、準備はいい?』
ヒースヴェルトが静かに呟く。
『何時でも。』
ディランはスッと立ち上がると、剣を抜く。

そして、満月が降り注ぐ窓辺に、その姿が確認できると一人の教徒が悲鳴を上げる。

「きゃあああー!!?ば、化け物が!!!」

その声に反応するように、魔獣は窓を割り襲いかかった。
「《蒼砡結界》!!」
聖堂に集まっていた人々の中から、透き通るような、張りのある声がした。
キィン!
と、周囲が清涼な空気に包まれた。

聖堂に紛れ込んでいた、《神翼》たちの中でも、蒼砡の扱いに長けた存在。
「パメラ!連続展開しとけよ、教会じゅうの人たちをそこへ避難させる!」
「はい!」

「くそっ、何が《闇》だ…!!ディーテ神は悪だ!!!私を救ったことなど、一度もなかったではないか!」
魔獣の姿を確認したギメルは真っ先に逃げようと走り出したが、ディランが首もとに剣を突き付けて阻止する。
「逃がすかよ。お前の断罪だ。ディーテ神は既に決定された。…魂を返還せよと仰せだ。」
「くっ…!」
もはや試練は無い。
せめて救えぬ魂を余にに還せ。自ら、その痛みを癒すから、と。

「ヒー様、結界の中へ。ディーテ様に、この者の魂をお返しいたします。」
「わかった。ディラン、ママ…お願いします!!」
ギメルを抑えているため動けないディランからそっと離れ、ヒースヴェルトは結界の中へと走っていった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
 農家の四男に転生したルイ。   そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。  農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。  十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。   家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。   ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる! 見切り発車。不定期更新。 カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

処理中です...