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魂の記憶を読む。
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『顔を上げよ。』
若く、それでいて凛とした声に、パメラは顔を上げ、正面から聖神子の姿をその目にを捉える。
(なんて綺麗な装い…。この世のものとは思えないわ…。)
『そなたが、ディランと共に行く者か。』
『はっ。アルクス所属のパメラと、申します!!蒼の砡術士として、先般《神翼》への配属を許されました。』
パメラは、神語を使うのは初めてであった。それもあり、思ったより早口になってしまい、羞恥で顔が赤くなる。
『………。』
黙ってしまった聖神子に、パメラは失言があったのかと思い、青ざめてしまうが。
『…パメラ、大丈夫だよ。』
フォレンが小声でフォローする。フォレンは、この時ヒースヴェルトが笑いを堪えているだけだということが分かっていたから。
『ディラン、ここへ。』
『はっ。』
ヒースヴェルトに呼ばれ、脇に控えていたディランがフォレンに並び、跪く。
『この度の案件は、内容次第で未来は大きく変わる。…そなたの働きにかかっている。頼んだぞ。』
『御意。』
そう言うと、ヒースヴェルトはゆらりと手を翳し、虹の神力を集めだした。
『……ッ!!!?うっ…』
突如部屋に増えた神気に、パメラは心臓を抑え、姿勢を崩した。
『気をしっかり持て。《神翼》ならば耐えられるはずだよ。』
『は……ッ、はいっ!』
ぐっ、と気合いを入れて耐える。
神気が集まり、虹色の輝きが治まると、そこには漆黒の豹が鎮座していた。
『ディランに神獣を与える。彼は緋色の風爪。そなたの思い通りに働く。…良い名を与えてやって欲しい。』
ディランの側まで音もなく歩いて行き、クルル、と喉を鳴らす。
『ぁ…、有り難き幸せ。』
黒豹の爪は、ディランの髪の色と同じ深紅。瞳は金色だった。
(しっ…神獣!!?聖神子様はとんでもない御方なのだわっ。あんなに膨大な神力をお持ちだとは…。やはりこの世の至高の御方なのね…。)
『パメラ、と言ったか。少し…近くに。』
突如呼ばれ、パメラはあわてて立ち上がると、玉座の手前まで進む。
(うあああっ!すっごく良い匂いがするっ!)
と、赤面してパニックに陥っていると、ふと妙な気配に首をかしげる。まるで、誰かにじっとりと見られているような感覚。
『……………ぁぁ。亡命するときに、お祖父様が亡くなったんだね。…でも、ほかの家族は元気だ。家族の笑顔を守ってね。…潜入捜査で無理だけはしないで。そなたも笑顔でなければ、家族も余も悲しいよ。…ディランの言うことをよく聞いてね。』
小声で、優しげな口調でそう言われ、パメラは全身に泡立ったような気分に陥る。
『っ…!!』
その得体の知れない感覚に不安を覚えたものの、それが聖神子に心を覗かれたのだと分かると、不思議と不快感は無くなった。
逆に、見守られているという安心感さえ、芽生えたのだ。
これが、神眼。
ディーテはすべての命を、その瞳で天上界から常に見つめ続けている。ヒースヴェルトには、まだまだ出来ない芸当だ。
『あぁ…っ。聖神子様…。私は…わたしは…っ!』
優しい言葉に、パメラは感動して涙を流す。
『…パメラ、退出しなさい。宿舎に戻り、体をやすめるように。』
神気にあてられ、精神が昂っているこで、これ以上は無理と判断し、フォレンが引き下がるよう促す。
『はい…。あ、あの、お会いできて、良かったですっ!あの、ありがとうございます!』
フォレンに連れられ退出する際にも、パメラはヒースヴェルトにお礼の言葉を述べていた。
そして、パメラが退出し、しばらくしてフォレンが戻ってきて。
『それで、見えましたか?…ダスティロスのこと。』
ディランの問いかけに、ヒースヴェルトはヴェールを取って、深くため息を吐いた。
「つ……。」
「?つ?」
「つっかれた~!!ママって、凄いね…。神眼ってこんなに疲れるものだったなんて。ぼくもいつかは天上界からこの星のすべての命を見なきゃならないんだよね…。うわぁ…。」
「それは…はい。そう、ですよね。ディーテ様には、そう伺っております。」
フォレンも苦笑いで答える。あまりにも膨大な数の命に目を配ることは、おそらく尋常ではないくらいの仕事量になるのだろう。
「あははっ。頑張らなきゃ、だねぇ。
……フォレン、ディラン。少し、調査の幅を広げて欲しいのだけど。」
「はっ。」
「…王さま、お城に居ない。どこかに隠れてるみたいなの。…探して、助けて欲しいの。ダスティロスが荒れたのは、第一王子に王さまが暗殺されかけて、身を隠したから、みたい。」
「…!!」
思いもよらぬ発言に、ディランは目を見開く。
「パメラの魂が、それを記憶していた、のですか?」
「ううん…正確には、パメラが一度出会ってるんだよ。逃げ隠れてる、王さま本人に。」
若く、それでいて凛とした声に、パメラは顔を上げ、正面から聖神子の姿をその目にを捉える。
(なんて綺麗な装い…。この世のものとは思えないわ…。)
『そなたが、ディランと共に行く者か。』
『はっ。アルクス所属のパメラと、申します!!蒼の砡術士として、先般《神翼》への配属を許されました。』
パメラは、神語を使うのは初めてであった。それもあり、思ったより早口になってしまい、羞恥で顔が赤くなる。
『………。』
黙ってしまった聖神子に、パメラは失言があったのかと思い、青ざめてしまうが。
『…パメラ、大丈夫だよ。』
フォレンが小声でフォローする。フォレンは、この時ヒースヴェルトが笑いを堪えているだけだということが分かっていたから。
『ディラン、ここへ。』
『はっ。』
ヒースヴェルトに呼ばれ、脇に控えていたディランがフォレンに並び、跪く。
『この度の案件は、内容次第で未来は大きく変わる。…そなたの働きにかかっている。頼んだぞ。』
『御意。』
そう言うと、ヒースヴェルトはゆらりと手を翳し、虹の神力を集めだした。
『……ッ!!!?うっ…』
突如部屋に増えた神気に、パメラは心臓を抑え、姿勢を崩した。
『気をしっかり持て。《神翼》ならば耐えられるはずだよ。』
『は……ッ、はいっ!』
ぐっ、と気合いを入れて耐える。
神気が集まり、虹色の輝きが治まると、そこには漆黒の豹が鎮座していた。
『ディランに神獣を与える。彼は緋色の風爪。そなたの思い通りに働く。…良い名を与えてやって欲しい。』
ディランの側まで音もなく歩いて行き、クルル、と喉を鳴らす。
『ぁ…、有り難き幸せ。』
黒豹の爪は、ディランの髪の色と同じ深紅。瞳は金色だった。
(しっ…神獣!!?聖神子様はとんでもない御方なのだわっ。あんなに膨大な神力をお持ちだとは…。やはりこの世の至高の御方なのね…。)
『パメラ、と言ったか。少し…近くに。』
突如呼ばれ、パメラはあわてて立ち上がると、玉座の手前まで進む。
(うあああっ!すっごく良い匂いがするっ!)
と、赤面してパニックに陥っていると、ふと妙な気配に首をかしげる。まるで、誰かにじっとりと見られているような感覚。
『……………ぁぁ。亡命するときに、お祖父様が亡くなったんだね。…でも、ほかの家族は元気だ。家族の笑顔を守ってね。…潜入捜査で無理だけはしないで。そなたも笑顔でなければ、家族も余も悲しいよ。…ディランの言うことをよく聞いてね。』
小声で、優しげな口調でそう言われ、パメラは全身に泡立ったような気分に陥る。
『っ…!!』
その得体の知れない感覚に不安を覚えたものの、それが聖神子に心を覗かれたのだと分かると、不思議と不快感は無くなった。
逆に、見守られているという安心感さえ、芽生えたのだ。
これが、神眼。
ディーテはすべての命を、その瞳で天上界から常に見つめ続けている。ヒースヴェルトには、まだまだ出来ない芸当だ。
『あぁ…っ。聖神子様…。私は…わたしは…っ!』
優しい言葉に、パメラは感動して涙を流す。
『…パメラ、退出しなさい。宿舎に戻り、体をやすめるように。』
神気にあてられ、精神が昂っているこで、これ以上は無理と判断し、フォレンが引き下がるよう促す。
『はい…。あ、あの、お会いできて、良かったですっ!あの、ありがとうございます!』
フォレンに連れられ退出する際にも、パメラはヒースヴェルトにお礼の言葉を述べていた。
そして、パメラが退出し、しばらくしてフォレンが戻ってきて。
『それで、見えましたか?…ダスティロスのこと。』
ディランの問いかけに、ヒースヴェルトはヴェールを取って、深くため息を吐いた。
「つ……。」
「?つ?」
「つっかれた~!!ママって、凄いね…。神眼ってこんなに疲れるものだったなんて。ぼくもいつかは天上界からこの星のすべての命を見なきゃならないんだよね…。うわぁ…。」
「それは…はい。そう、ですよね。ディーテ様には、そう伺っております。」
フォレンも苦笑いで答える。あまりにも膨大な数の命に目を配ることは、おそらく尋常ではないくらいの仕事量になるのだろう。
「あははっ。頑張らなきゃ、だねぇ。
……フォレン、ディラン。少し、調査の幅を広げて欲しいのだけど。」
「はっ。」
「…王さま、お城に居ない。どこかに隠れてるみたいなの。…探して、助けて欲しいの。ダスティロスが荒れたのは、第一王子に王さまが暗殺されかけて、身を隠したから、みたい。」
「…!!」
思いもよらぬ発言に、ディランは目を見開く。
「パメラの魂が、それを記憶していた、のですか?」
「ううん…正確には、パメラが一度出会ってるんだよ。逃げ隠れてる、王さま本人に。」
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