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期待してしまう。
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新たな神を祝う、生誕祭は夜中中続いて、みんなホールで寝てしまったり、夜通し歌い踊り、楽しんでいた。
レイモンドはアドルファウスと近衛たちを連れて皇城へ転移装置で帰り、エカルドたちも国へと戻っていった。
それぞれ、やることは多々あった。
ヒースヴェルトもディーテを見送ったあと自室に戻り、リーナにお風呂を入れてもらうと、のんびりと過ごしていた。
(…疲れたなぁ。)
ディランの魂の根源を繋げ、まずは一人目の手足となる翼を手に入れた。
人の命を奪い、自分の駒にする術。神とは、まるで悪魔のようだ。
そして、ダスティロスには、ルシオの父親の命を狩りに。
(どうか、ルシオさんのお父さんが、救われますように…。)
他の神たちは、どんな気持ちなのだろう。
『ディラン、ごめんね…。』
そう、呟くと。
バサッ。
窓の外に、白金の翼の彼が現れる。
「お呼びですか、ヒー様。」
口にするだけで、こうして側に来てくれる。
来て、しまう。
「………ッ。ううん。ごめん。何でも無い、です。今日は、お疲れ様…。あした、いなくなった子達の魂を追いかける。朝、地下の神聖陣の前に…候補達を集めておいて。」
「分かりました。…あの、ヒー様。」
「…んぇ?」
「さっき、俺に謝った?」
「ぁ……。ん、と。…ぅん。」
「あのな、翼になったのは、俺の意思。
それに、あれ程の痛みに耐えて、頑張ってくれたのは、ヒー様です。
俺は苦しむ貴方に、何も出来なかった。俺の方こそ…俺らの方が、きっとそういう意味では辛かった。
…だけど、貴方の力になって、世界を守りたいって気持ちは皆同じ。
だから謝ることはありません。…約束、守ってくれてありがとう、ヒー様。絶対、守るから。安心して世界を見てろ!!!」
たんっ、と窓辺から飛び立つ。
「えっ?ディラン!?」
「魔境の魔獣相手に、神力のコントロールの練習してきます!」
なんて楽しそうに笑うんだ。
まるでぼくの不安や、贖罪の心を嘲笑うかのような、傲慢な笑み。
だけど暖かい。
安心して、世界を見てろ。
お前に振りかかる悪意も、お前自身の不安も全て凪払ってやるから。
そう言ってくれている気がした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして、翌日。
結局、あまりよく眠れずに少し寝ぼけ眼でリーナを通信機で呼んだ。
「リーナ、ぼく、目が覚めないの~。お風呂準備して?」
《ヒー様おはようございます!すぐ準備しますね♪》
寝室の隣の部屋が、浴室になっている。
反対側にある扉はリーナやアシュトたちが使う、詰め所のような共同の部屋に繋がっていて、日頃は
皆そこに集まっている。
少し待つと、浴室側からリーナが来てくれる。
「ヒー様、準備できましたわよ。こちらにどうぞ!」
「ぁい~!」
ポンポンポンポンっ、とパジャマを脱ぎ捨てて素っ裸になる。
(ヒー様ったら、やっぱりあの頃と変わらない。神様になられても、ヒー様はヒー様だわ。)
彼が、いつもと変わらないで、そこにいる。
リーナはそれだけで、どこか、ほっとしていた。
「…リーナ、あのね…」
真っ白な泡に包まれて、ヒースヴェルトはちら、とリーナを見上げる。
「どうされました?」
「昨日、ぼく、ディランの魂を見つけるのに、とても苦しんだでしょう?」
「…っ。」
「ぼ、ぼくは大丈夫なんだよ。とっても苦しいけど、それでもお仕事だから、耐えられるの。それでも…リーナがもし…もしもね、嫌だと思うならね…。」
天使にならなくても…。
言いかけると、リーナはぱしゃん、と湯船の縁を握りしめた。
「昨日は驚いて…ヒー様が傷つくのを黙ってみているしかないなんて、どんな地獄だって思いましたよ。
それでも…ディラン様が……あんな美しい羽根を授かって…ヒー様と時を共にする権利を一番に得て…羨ましいって思ったに決まってます!」
「リーナ…。」
「私も、早くキレイな羽根を貰いたいです。…実は、ヒー様が苦しまれないように、何か手立ては無いものか、ルシオ様に相談してたんです。」
「へ…?ぼくの、ために?」
「神様の仕事だから、手は貸せないって、ディーテ様にもキツく言われてますけど!それでも、天使化の試練を、うまく切り抜ける方法だってあるかもしれない。ヒー様の助けに、なれるかもしれないって思うと…。何かしたいんです。」
リーナが、そんなことを考えてくれていたなんて思ってもいなくて、ヒースヴェルトは紫色の瞳を潤ませた。
「あぁっ、ほらっ。泣いてしまったらせっかくお顔洗って差し上げたのに、涙で汚しちゃダメですよ。」
「ご、ごめ~ん!」
リーナはいつも、ぼくのことを大切に考えてくれるから、きっと苦しむ姿を見たくない、それこそ、天使になることをあきらめまうんじゃないかと、思っていた。
(ぼくが、痛くないように…苦しまないような方法なんて…。そんなもの、あるはず無、い……。)
無い、なんて誰が決めたの?
ぼくが知らないだけってことはないかな?
リーナは、優しくても、弱いだけの人じゃない。
ぼくのために必死に考えて、動いてくれる。
だから、その足掻きの先に望む答えがあることを、期待してしまうんだ。
レイモンドはアドルファウスと近衛たちを連れて皇城へ転移装置で帰り、エカルドたちも国へと戻っていった。
それぞれ、やることは多々あった。
ヒースヴェルトもディーテを見送ったあと自室に戻り、リーナにお風呂を入れてもらうと、のんびりと過ごしていた。
(…疲れたなぁ。)
ディランの魂の根源を繋げ、まずは一人目の手足となる翼を手に入れた。
人の命を奪い、自分の駒にする術。神とは、まるで悪魔のようだ。
そして、ダスティロスには、ルシオの父親の命を狩りに。
(どうか、ルシオさんのお父さんが、救われますように…。)
他の神たちは、どんな気持ちなのだろう。
『ディラン、ごめんね…。』
そう、呟くと。
バサッ。
窓の外に、白金の翼の彼が現れる。
「お呼びですか、ヒー様。」
口にするだけで、こうして側に来てくれる。
来て、しまう。
「………ッ。ううん。ごめん。何でも無い、です。今日は、お疲れ様…。あした、いなくなった子達の魂を追いかける。朝、地下の神聖陣の前に…候補達を集めておいて。」
「分かりました。…あの、ヒー様。」
「…んぇ?」
「さっき、俺に謝った?」
「ぁ……。ん、と。…ぅん。」
「あのな、翼になったのは、俺の意思。
それに、あれ程の痛みに耐えて、頑張ってくれたのは、ヒー様です。
俺は苦しむ貴方に、何も出来なかった。俺の方こそ…俺らの方が、きっとそういう意味では辛かった。
…だけど、貴方の力になって、世界を守りたいって気持ちは皆同じ。
だから謝ることはありません。…約束、守ってくれてありがとう、ヒー様。絶対、守るから。安心して世界を見てろ!!!」
たんっ、と窓辺から飛び立つ。
「えっ?ディラン!?」
「魔境の魔獣相手に、神力のコントロールの練習してきます!」
なんて楽しそうに笑うんだ。
まるでぼくの不安や、贖罪の心を嘲笑うかのような、傲慢な笑み。
だけど暖かい。
安心して、世界を見てろ。
お前に振りかかる悪意も、お前自身の不安も全て凪払ってやるから。
そう言ってくれている気がした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして、翌日。
結局、あまりよく眠れずに少し寝ぼけ眼でリーナを通信機で呼んだ。
「リーナ、ぼく、目が覚めないの~。お風呂準備して?」
《ヒー様おはようございます!すぐ準備しますね♪》
寝室の隣の部屋が、浴室になっている。
反対側にある扉はリーナやアシュトたちが使う、詰め所のような共同の部屋に繋がっていて、日頃は
皆そこに集まっている。
少し待つと、浴室側からリーナが来てくれる。
「ヒー様、準備できましたわよ。こちらにどうぞ!」
「ぁい~!」
ポンポンポンポンっ、とパジャマを脱ぎ捨てて素っ裸になる。
(ヒー様ったら、やっぱりあの頃と変わらない。神様になられても、ヒー様はヒー様だわ。)
彼が、いつもと変わらないで、そこにいる。
リーナはそれだけで、どこか、ほっとしていた。
「…リーナ、あのね…」
真っ白な泡に包まれて、ヒースヴェルトはちら、とリーナを見上げる。
「どうされました?」
「昨日、ぼく、ディランの魂を見つけるのに、とても苦しんだでしょう?」
「…っ。」
「ぼ、ぼくは大丈夫なんだよ。とっても苦しいけど、それでもお仕事だから、耐えられるの。それでも…リーナがもし…もしもね、嫌だと思うならね…。」
天使にならなくても…。
言いかけると、リーナはぱしゃん、と湯船の縁を握りしめた。
「昨日は驚いて…ヒー様が傷つくのを黙ってみているしかないなんて、どんな地獄だって思いましたよ。
それでも…ディラン様が……あんな美しい羽根を授かって…ヒー様と時を共にする権利を一番に得て…羨ましいって思ったに決まってます!」
「リーナ…。」
「私も、早くキレイな羽根を貰いたいです。…実は、ヒー様が苦しまれないように、何か手立ては無いものか、ルシオ様に相談してたんです。」
「へ…?ぼくの、ために?」
「神様の仕事だから、手は貸せないって、ディーテ様にもキツく言われてますけど!それでも、天使化の試練を、うまく切り抜ける方法だってあるかもしれない。ヒー様の助けに、なれるかもしれないって思うと…。何かしたいんです。」
リーナが、そんなことを考えてくれていたなんて思ってもいなくて、ヒースヴェルトは紫色の瞳を潤ませた。
「あぁっ、ほらっ。泣いてしまったらせっかくお顔洗って差し上げたのに、涙で汚しちゃダメですよ。」
「ご、ごめ~ん!」
リーナはいつも、ぼくのことを大切に考えてくれるから、きっと苦しむ姿を見たくない、それこそ、天使になることをあきらめまうんじゃないかと、思っていた。
(ぼくが、痛くないように…苦しまないような方法なんて…。そんなもの、あるはず無、い……。)
無い、なんて誰が決めたの?
ぼくが知らないだけってことはないかな?
リーナは、優しくても、弱いだけの人じゃない。
ぼくのために必死に考えて、動いてくれる。
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