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神様からのご褒美

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謁見の部屋に、フォレンとリーナが入ってきた。
それぞれの国の者が対応するべき、とヒースヴェルトが側に付くよう、お願いをしてきたのだ。
リーナはヒースヴェルトの着替えをすませた後ディランにヒースヴェルトを託してきた。
ディーテ神の授けた《神纏》は、神化した際に汗で汚れてしまったのだ。
ディーテ神のサービスで、もう一着、美しい純白の纏を貰った。デザインの違うもう一着のそれには、右袖に緋色の砡の欠片が飾られていた。
言わずと知れた、ディランが司る、緋砡。
(ディラン様は、ヒー様のお側…。ルシオ様は新たな二神教の最高指導者というお立場をディーテ様より任命されたわ。だからもうすぐヒー様をここへお連れする手筈になっていて、アシュトは鍛練場にいる人々の整理、ジャンニは…宴会の準備ね。)
ジャンニは、この後の誕生祝賀会の準備を隣の屋敷で行っている。
ジャンニの家族やコール領の料理人総出で、準備を行っているのだ。
リーナはそれぞれの仕事を確認して、遺漏ないか脳内で整理させた。
「リーナ、お前は神のお側にいなくて良いのか?」
エカルドの疑問に、リーナは頷く。
「叔父様。ヒースヴェルト様からこちらで叔父様と共にいるよう直接お願いされたのです。それに、ヒースヴェルト様は既に神化されておいでです。天使にもなっていない私は、…望んでも勝手にお側にいられません。」
これまではアルクスの中での配属だった。これからはルシオのようにヒースヴェルトか、ディーテ神によりその役目を拝命しなければならない立場。
「そうか…。早く翼とやらになれれば良いな。」
エカルドの心からの言葉に、リーナは落ち込んだ。
ヒースヴェルトの力となる翼は、ヒースヴェルトが苦しみ、痛みに耐えて生まれるものだった。
天使になる自分は、せいぜい心臓をヴィータに交換する時の、一瞬の痛みだけ。
(ヒー様の方が何倍も、何十倍もお辛いなんて…。もっと、ヒー様が苦しまずに天使化できる方法はないのかしら。)
天使化は、神の仕事。手を貸せないことはディーテ神からも言われている。
(…ルシオ様に相談してみよう…。)
何か、ヒースヴェルトの負担が軽くなる方法を探したかった。





『皆、静まれ。我等が新たな神、ヒースヴェルト様が参られる。』

ルシオの声に、謁見室の四人は跪き頭を垂れる。
静かに、待つ。

『…顔を上げよ。』
声がかかり顔を上げると、玉座に座っている、少年の姿。
アドルファウスと、エカルドも、詳しい外見などを聞いていなかったため、こんなに幼い子が神に選ばれたことが信じられなかった。
『……っ。』
しかし、彼の姿に息を飲む。
白金の真っ直ぐな髪を下ろし、煙るような同じプラチナの睫に縁取られた瞳は澄んだ鮮やかな紫色。健康的な肌色に、桃色の頬。
全てが完璧な造形。
(…この方が、この世界を統べる方。)
そして、その横に立つのは、見慣れた弟の姿。ただ、彼の背には見事な羽根が生えており、人とは違う存在であることを見せつけられたようで。
(弟よ、私はお前を誇りに思うぞ。)

『創造神ディーテより、そなたらに褒美を預かっている。』
ふわ、と手を翳すと、アドルファウスとエカルドのそれぞれの目の前に、大砡の欠片が現れた。
ただ、その欠片は色が特殊で深い翠の中に金色と虹色の光の粒が渦巻いているものと、藍色の中に同じように光が渦巻いているもの。
一目で、それらが特別な存在であることが分かった。
『それは特別な欠片。創造神と余の加護を与えたもの。それぞれに一つずつ授ける…が。』
そこまで告げると、
『余の願う世界は、すべての大地が調和した世界。』
そう続けて、ヒースヴェルトは両手を大きく広げる。
(ヒー様、何をされるおつもりかしら…?)
(…大地の調和…。そうか、ヒー様は国交を復活させることを望まれておられると、以前リアンが言っていた…。)
エンブルグ皇国とランゼ諸島国、二人の王が賜った砡の欠片が、一つに融合した。
過去にディランの持つ緋砡の欠片と、虹の砡の欠片とが融合したことは知っている。だが、虹色以外の欠片が融合したのを見るのは、これが初めて。

『まずは、その二色のように世界を混ぜてみせて。どうすれば良いかは、分かるよね?』
蒼と翠が、まるで液体のように混ざりあい、それでも別の色になるわけではなく、そこに共にある。
そして、ゆっくりと大砡の欠片が再び二つに別つ。
『調和……。』
フォレンの呟きが聞こえたのか、ヒースヴェルトは微笑みを深めた。
『二人の長には、この砡の欠片を…神の加護を与える。大地は神気で満たされる。長き安寧を約束しよう。』
『『有り難き幸せに存じます』』
二人の王は美しい砡の欠片を《稀砡》と呼ぶことにし、神が授けた唯一の贈り物として永代大切にすると約束をした。

謁見の時間が終わって、ヒースヴェルトは神殿にある自室に戻り、ソファーベッドで伸びていた。
「つかれた………。」
二人の王様を跪かせて、偉そうに。なんて思われてないか内心不安でいっぱいだった。
「だってルシオさんもフォレンも…っていうかみんなそうするのが当然だーみたいなこと言っちゃって…。
まぁ、ママも人に舐められちゃいけないよって、凄く言ってたんだよね…。」
(だから、嫌でも、ちゃんとしようって思ってルシオさんの言う通りに動いた。
それでも、自分の望みは世界の調和だってことは分かってくれていて…嬉しかったな。)
ルシオが、提案したのだ。
二つの砡の欠片を、ヒースヴェルトの神術で融合できないか、と。

◇◆◇◆◇

「相手の質量に合わせることができる特性を持つ虹の砡の欠片とは違うから…質量が2倍になっちゃう。今のぼく、きっと安定させることはできないよ?」
「…では、融合させた後に…混ざりあった砡の欠片を、もとの質量に戻すことは…?」
「また二つに分ける…?」
『神果の構築式を、読み解かれた今なら…きっと分かるはず。…ですよね?ディーテ様。』
『…砡の欠片同士を合わせ、再び分ける、か。面白いことを言う。』


◇◆◇◆◇


そして、二つの砡の欠片をあわせ、わけることができて。

(ルシオさん、どうして分かったんだろう…。)

時々、神になった自分よりも、砡や神力についての知識が深いことを目の当たりにすることがあり、驚く。

単純に、神様が好きすぎて研究を千年以上続けていたから、ということであったが、ヒースヴェルトは未だ彼の神様オタクぶりを見誤っているようであった。


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