虹色の子~神さま候補、世直しします!~

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痛み止め

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村に牢屋などはないため、商人らは護衛兵士に連れられ村をおりた。
麓の町の憲兵の詰所で預かり、そのまま皇国の城の地下牢に繋ぐことになるだろう。
宿屋は魔獣が暴れたため、最早使い物にならない。
ヒースヴェルトたちも急遽村長宅へ身を寄せた。
フォレンの手当てをするため、リーナは自分の荷物から救急セットを持ち出す。
改めて傷口を見て、溜め息混じりに手を進めるが。
「はぁ…。いくら作戦だからって、こんな出血サービスしなくてもいいんじゃないですか。万が一傷痕なんて残したらどうするんです!」
「男の傷なんて勲章じゃないか。構わないさ。ヒー様が無事ならね。」
手当てを受けるフォレンの横にちょこんと座り、申し訳なさそうに肩を落とすヒースヴェルトの頭を、ぽん、と撫でた。
「こんなに酷いお怪我…ぼくが治したらダメですか。ぼく、こんなことになるなんて、想像してなくて…フォレン、ぼくを庇って怪我させて…ごめんなさい。」
「平気です。心配しないで下さい?それに、怪我が完治していない方が良いのです。これからロレイジアを潰すのに、手札は多い方がいい。」

教会から渡された、ロレイジア軍部経由の穢黒石。家族を人質に、他国の孤児を誘拐させ、奴隷として売った事実。
ロレイジア王国の商団による、エンブルグ皇国貴族に対する傷害事件。
そして、商団とコルディウス村の取引に、機械導具が《利権》ごと商団に奪われ、使われていること。
アルクスの機械導具は、基本的には全て貸与制。ルシオの管理する使用者盤に、全ての使用者が記録されているにも関わらず、ファル・ファム商会はアイテムボックスをアルクス西支部から利権ごと奪っているのだ。西支部の不正と、ロレイジア王家からの圧力が明るみに出れば、本部が動ける。
神泉の水の取引も、できなくなるだろう。

「これで、アルクスとしても、エンブルグ皇国としても無関係でいられなくなりました。干渉せざるを得ない状況は作れた。今回の事件を国家間会議で報告し…死都市の調査権を得ることが目的です。」
「っ!!」
「それまでに、疑似聖砡を作りましょう、ねっ?」

「ね?じゃない!!!」

バァン!!!

勢い良く村長宅の扉が開く。
そこにいたのは。

「ぇ?あ…ルシオ様…。」
激オコエルフの登場に、フォレンは目を丸くした。
そして、ヒースヴェルトは思い出したかのように顔色を悪くして口に手を当てた。
「…あっ、ルシオさんにお知らせしとくの、忘れてた…です。」
神泉の調査に先行して行っていたルシオが、村の方での騒ぎに気づいて急いで戻ってきたはいいが、宿屋はボロボロ、護衛兵士たちとリアンは麓の町まで下りているし、狭い村ながら主を探して回り、村長宅にいるぞ、という話を聞き付けてようやく追い付いたということだ。
「全く、君ともあろう者が、なんって無謀なことを!!!」
村人から、貴族の青年が大怪我をした、と聞いてルシオは額に青筋を浮かべて怒鳴りこんできたのだ。
ヒースヴェルト以外のことで、ここまでキレるなぞ、珍しい。
「まぁ、お陰で死都市に介入できそうですし。当然ですが、ヒー様も無事でしたし。」
ルシオは、落ち込んでいるヒースヴェルトをちらりと見やり、溜め息を漏らす。
「ヒースヴェルト様、お怪我は?」
「ぁい…ない、です。」
フォレンの痛々しい包帯だらけの腕を見て、またしゅんとなる。
「では、この阿呆だけですね?…まったく…。」
ルシオは、ポケットから小さな瓶を取り出し、フォレンに放り投げた。
「おっと。ルシオ様、これは?」
「痛み止めだ。その傷、今は残しておくのだろう?ならば、それくらいは使っても支障ないだろう。」
「ははっ。感謝します、ルシオ様。」
「…様は、いい。君は同じ翼となるのだ。主を守る者に、上も下も無いわ。」
ぶす、とむくれながらもそう言い放つルシオに、フォレンはつい笑みを溢した。
「ありがとうございます、ルシオ。」
「…ふん。」
「ルシオさん、ありがとう!」
ヒースヴェルトも、フォレンのために薬をくれたルシオに、お礼を言った。
「いいんです。わざととは言え、ヒースヴェルト様をお守りするために負った傷だからです。その辺りで自分で転んだ怪我だとしたら、絶対あげませんから。」
ルシオは、空いている椅子に腰掛け、何枚か書類を取り出した。そして、白の砡の欠片を取り出すと、軽く手を翳す。
「わっ、何?」
「先ほど見てきた神泉の様子です。映像記録、とでも言いましょうか。通信機と似たような機能で、その場所を映し、記録できます。」
「わ、ぁ…っ!ママの光がたくさんっ!」
砡の欠片から、ルシオが撮影した様子が見てとれる。夜の風景は幻想的で、落ち込んでいたヒースヴェルトも、ようやく目を輝かせて喜んだ。
「…ありがとうございます、ルシオ。」
ヒースヴェルトに対するルシオのささやかな心遣いに、フォレンは心外にも素直に礼を言えたのだった。


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