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予行演習! sideルシオ
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「…………………。」
「……………。」
「…ぅ。」
目が、覚めた。
そこは、白い白い世界。大地とか、空とか。そんな概念など存在すらしないような、ただ白い景色。
私は、浮遊感のある両足を必死に動かし、歩いてみるが、大して前進しない。
無音、無風…。誰もいない静寂に、少し恐怖を覚えた。
「ここは…?」
《良かった、気がついた!!成功だぁ!!!》
突然、頭の中に直接響いてくる、愛しい主の声。
「ヒースヴェルト様、あ、の…。」
ここは、何処?
《白天使の、試練の間。ぼくがあなたの、この世の命を終わらせる代わりに、天使としての命を吹き込むの。心臓…無くなった痛みは辛かったでしょ?》
「しっ…心臓…ッ?」
まさか、そんな物理的な方法で命を終わらせるとは想像もしてなかった。
《今、コール子爵邸のルシオさんは、吐血して倒れてるよ》
「…ッ!!」
そんな情報、聞きたくなかった。
《大丈夫、アルフィンが頑張って聖域で囲んでるから。ルシオさん腐らないよ。》
その情報も聞きたくなかったです…。
「ヒースヴェルト様、試練…というのは。」
《特に、やることは…ないんだよ。ただ、無くなった心臓のあった場所に…ぼくの虹の生命を埋めるだけ。少し違和感…でも、その後は、身体の進化を、感じる…らしい、です。》
らしい…?
《ふふっ。初、体験、です~。本当はディランが初めの翼って決まってるの。だから、ルシオさんは予行演習、ですw》
「予行演習って!!」
予行演習で、心臓を物理的に盗られるなんて。
《勝手に翼になる自信なくした罰です。ぼくの翼は、ぼくが選んだの。替えは効かないの。》
声に、トゲがあります…。きっと怒ってらっしゃるんですね…。
《怒ってるのは、教会に対して、です。ルシオさんと同じです!》
…そう言っていただけるだけで…。
《さて。アルフィンの聖域も、消えかかってます…。急いで虹の生命、授けます!》
ヒースヴェルト様は、そう仰られると、白い世界に見たこともないような美しい虹と金色のスパイラルが広がる。楽園というものが存在するなら、きっとこの光景だ。
美しい…。
虹と金色の粒子が合わさり、凝固していく。私の目の前には、白の砡の欠片の色によく似た、球体ではない、それ。
ゆっくりと形を変えながら、それでも個体としてあろうと動いている。まるで一つの生命体のような、美しいものだった。
《これが、ヴィータ。ぼくの神力と、ママの神力で出来ているよ。ぼくと、ママが死なない限り、あなたは生き続ける…。ぼくの意思となれ!》
とぷん、と私の体内に入り込んだヴィータは、熱く。…胸の辺りに留まる。
すると、身体中の血管を、神力が物凄い勢いで巡りだしたのが分かった。
これが、翼になる、ということなのか。
身体の中に。常に神の存在を感じている、この素晴らしい状態が。
《…ぼくが神化すれば、その何倍も神力が巡るよ。今は…半分だけ天使の状態。
……とにかく、ルシオさんは、ぼくの翼だということを…忘れないで。》
御意……。
声が途絶えると、白い景色がだんだんと薄れて行き、私の意識は一気に現実に引き戻された。
目を覚ましたら、そこはコール子爵邸の、あの部屋で。
(血の味…。)
吐血した、と言われていた…。床を見ると、見事にぶちまけている。
「……、ヒースヴェルト、さま」
起き上がり、目の前にお立ちになられる主を見ると。
「…ふふっ。起きたね。」
ヒースヴェルトは疲れはてて眠っているアルフィンを抱え、ほっと息を吐いた。
そんなに優しく微笑まれたら…。
私は許されたのかと勘違いしてしまいそうだ。
「可笑しなことを言うね。ぼくは初めから、ルシオさんのことは許して、ます。」
「えっ!?今…声に出ていましたか…っ?」
「ヴィータは、ぼくの意識と共有されるから…ルシオさんの心の中の声も聞こえるの。」
何てことーーー!!!!!
「あはは。だから、さすがにいつもは声を遮断しておくの。ママと、ぼくのように…。」
「で、ではヒースヴェルト様がいつも、ディーテ様をお呼びになり、すぐにお応えいただいておられるのは…。」
いつも、不思議に思っていたのだ。
ヒースヴェルト様が神力に通じておられるからといっても、あれほど確実にディーテ神が降りて来たり、意志疎通できるのは異常なことだと感じてはいたのだ。
「ぼくの場合は…失くした両腕と、瞳だよ。」
「……ッ!!!」
フォレンたちに聞いてはいたのだ。
大魔境に落とされた時、魔獣に腕を食い千切られ、ディーテ様のお話では視力も失われていたと。
後に、もう片方の腕は砡の欠片を投げた際に暴発に巻き込まれ吹き飛んだのだと、分かったとヒースヴェルト様が仰っていた。
欠損を補うために、ディーテ様は神力でその腕や瞳を構築したのだ。
たった四歳だった彼が、突然、牙で喰い千切られる痛みはどれだけのものだっただろう。
必死の抵抗で、手元の砡の欠片を投げつけたとき、自らの腕が爆発する痛みは、どれ程だったか。
視力を失ったと言っていた。
瞳に、強酸のような魔獣の血を浴びたか。
幼子が、凄まじい痛みと暗闇の中に突然放り出された絶望は、計り知れない。
そんな中で、救われたなら。
「…ぼくもね、ママに救われた。
ママの力になりたいって思うことは、自然なことでしょう?だから、どんな貴方でも、ママを思うぼくの思いと、あなたの心の根源は一緒だよ。…あなたが何を思っても、ぼくはあなたを、必要としています。」
あぁ、やはり私は……貴方のために。
貴方と共にありたい。
必要としてくださる限り、永遠を誓いましょう。
「……………。」
「…ぅ。」
目が、覚めた。
そこは、白い白い世界。大地とか、空とか。そんな概念など存在すらしないような、ただ白い景色。
私は、浮遊感のある両足を必死に動かし、歩いてみるが、大して前進しない。
無音、無風…。誰もいない静寂に、少し恐怖を覚えた。
「ここは…?」
《良かった、気がついた!!成功だぁ!!!》
突然、頭の中に直接響いてくる、愛しい主の声。
「ヒースヴェルト様、あ、の…。」
ここは、何処?
《白天使の、試練の間。ぼくがあなたの、この世の命を終わらせる代わりに、天使としての命を吹き込むの。心臓…無くなった痛みは辛かったでしょ?》
「しっ…心臓…ッ?」
まさか、そんな物理的な方法で命を終わらせるとは想像もしてなかった。
《今、コール子爵邸のルシオさんは、吐血して倒れてるよ》
「…ッ!!」
そんな情報、聞きたくなかった。
《大丈夫、アルフィンが頑張って聖域で囲んでるから。ルシオさん腐らないよ。》
その情報も聞きたくなかったです…。
「ヒースヴェルト様、試練…というのは。」
《特に、やることは…ないんだよ。ただ、無くなった心臓のあった場所に…ぼくの虹の生命を埋めるだけ。少し違和感…でも、その後は、身体の進化を、感じる…らしい、です。》
らしい…?
《ふふっ。初、体験、です~。本当はディランが初めの翼って決まってるの。だから、ルシオさんは予行演習、ですw》
「予行演習って!!」
予行演習で、心臓を物理的に盗られるなんて。
《勝手に翼になる自信なくした罰です。ぼくの翼は、ぼくが選んだの。替えは効かないの。》
声に、トゲがあります…。きっと怒ってらっしゃるんですね…。
《怒ってるのは、教会に対して、です。ルシオさんと同じです!》
…そう言っていただけるだけで…。
《さて。アルフィンの聖域も、消えかかってます…。急いで虹の生命、授けます!》
ヒースヴェルト様は、そう仰られると、白い世界に見たこともないような美しい虹と金色のスパイラルが広がる。楽園というものが存在するなら、きっとこの光景だ。
美しい…。
虹と金色の粒子が合わさり、凝固していく。私の目の前には、白の砡の欠片の色によく似た、球体ではない、それ。
ゆっくりと形を変えながら、それでも個体としてあろうと動いている。まるで一つの生命体のような、美しいものだった。
《これが、ヴィータ。ぼくの神力と、ママの神力で出来ているよ。ぼくと、ママが死なない限り、あなたは生き続ける…。ぼくの意思となれ!》
とぷん、と私の体内に入り込んだヴィータは、熱く。…胸の辺りに留まる。
すると、身体中の血管を、神力が物凄い勢いで巡りだしたのが分かった。
これが、翼になる、ということなのか。
身体の中に。常に神の存在を感じている、この素晴らしい状態が。
《…ぼくが神化すれば、その何倍も神力が巡るよ。今は…半分だけ天使の状態。
……とにかく、ルシオさんは、ぼくの翼だということを…忘れないで。》
御意……。
声が途絶えると、白い景色がだんだんと薄れて行き、私の意識は一気に現実に引き戻された。
目を覚ましたら、そこはコール子爵邸の、あの部屋で。
(血の味…。)
吐血した、と言われていた…。床を見ると、見事にぶちまけている。
「……、ヒースヴェルト、さま」
起き上がり、目の前にお立ちになられる主を見ると。
「…ふふっ。起きたね。」
ヒースヴェルトは疲れはてて眠っているアルフィンを抱え、ほっと息を吐いた。
そんなに優しく微笑まれたら…。
私は許されたのかと勘違いしてしまいそうだ。
「可笑しなことを言うね。ぼくは初めから、ルシオさんのことは許して、ます。」
「えっ!?今…声に出ていましたか…っ?」
「ヴィータは、ぼくの意識と共有されるから…ルシオさんの心の中の声も聞こえるの。」
何てことーーー!!!!!
「あはは。だから、さすがにいつもは声を遮断しておくの。ママと、ぼくのように…。」
「で、ではヒースヴェルト様がいつも、ディーテ様をお呼びになり、すぐにお応えいただいておられるのは…。」
いつも、不思議に思っていたのだ。
ヒースヴェルト様が神力に通じておられるからといっても、あれほど確実にディーテ神が降りて来たり、意志疎通できるのは異常なことだと感じてはいたのだ。
「ぼくの場合は…失くした両腕と、瞳だよ。」
「……ッ!!!」
フォレンたちに聞いてはいたのだ。
大魔境に落とされた時、魔獣に腕を食い千切られ、ディーテ様のお話では視力も失われていたと。
後に、もう片方の腕は砡の欠片を投げた際に暴発に巻き込まれ吹き飛んだのだと、分かったとヒースヴェルト様が仰っていた。
欠損を補うために、ディーテ様は神力でその腕や瞳を構築したのだ。
たった四歳だった彼が、突然、牙で喰い千切られる痛みはどれだけのものだっただろう。
必死の抵抗で、手元の砡の欠片を投げつけたとき、自らの腕が爆発する痛みは、どれ程だったか。
視力を失ったと言っていた。
瞳に、強酸のような魔獣の血を浴びたか。
幼子が、凄まじい痛みと暗闇の中に突然放り出された絶望は、計り知れない。
そんな中で、救われたなら。
「…ぼくもね、ママに救われた。
ママの力になりたいって思うことは、自然なことでしょう?だから、どんな貴方でも、ママを思うぼくの思いと、あなたの心の根源は一緒だよ。…あなたが何を思っても、ぼくはあなたを、必要としています。」
あぁ、やはり私は……貴方のために。
貴方と共にありたい。
必要としてくださる限り、永遠を誓いましょう。
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