上 下
28 / 119

side ヒースヴェルト~恩返し~

しおりを挟む
焼きたてのパンを、フォレンとルシオさんとリーナに配って回わることにした。
ジャンニと一緒に、初めてのパン作り、とーっても楽しかった!!
途中からリアンも一緒にこねこねしたから、もっと楽しかった!


「ヒースヴェルト様が、ご自分でお作りに!?」
「ぁい~!ジャンニと、こねこねしました!見て?ルシオさんのパンはね、アルフィンの形なのよ!かわいい、ね!」
熱々のパンは、ウサギの形。ルシオさんのお耳とおんなじ、アルフィンみたいなふわふわパンなの!
「一生大事にいたします!!!」
えっ?まさか食べずに置いておくつもり!?だめ!カビちゃうじゃん!
「んぇっ!?だめ!焼きたて、食べてほしいのっ!また、作ってあげるね~。」
だから、食べて?とお願いすると、ルシオさんは耳まで赤くして何度も頷いた。

つぎは、フォレン。
「フォレン、初めてぼくが作ったです!粉から、こねこねして~、まるーくなるの!凄いねっ、焼いたらふぁふぁになるんだよ!!凄いよねっ!!」
フォレンには、大きな丸い形のパンを。
「ヒー様が作った…?本当に!?光栄です、ヒー様。早速頂きますね。」
フォレンも、嬉しそう。よかった!

「リーナっ!さっきはお風呂ありがとう~!これ、出来立てなのよ、ふあふあでね、美味しいよ!」
「ヒー様の手作りパンっ!!!」
リーナに渡したのは、小鳥の羽の形にしたかったんだけれど、焼いたら膨らんでしまって、ちょっとなが丸みたいな形になっちゃったの。
でも、リーナはすっごく喜んでくれた!!
もっと練習しないと!

みんなにパンを渡し終えて、ぼくはジャンニからぼく用のパンを貰った。
「リアン、中庭の木の上で食べたい!」
「おっ、天気もいいし気持ちいいかもな。行こうぜ!」
 ぼくの初めての友達!リアンと木の上で食べるんだ。
リアンは、木登りは遅いけれど、ぼくが引っ張ってあげると、大きな枝に腰かけて、小さくサンキュって言ってくれた!
「食べる、です!」
ジャンニからもらった、可愛いまるまるパン。頬張ると、甘ーいお味が口のなかに広がるの。どんなお料理にも合う、飽きないパンだから、ぼくは大好き。
こうして、人の食べ物に《似せて》作ってくれるジャンニの技術は、とても特殊。普通にお料理するのとは、違うみたい。
リーナもお料理上手だけれど、ぼく用のご飯は、結局作れなかったんだって。
ぼくは、ママの虹砡の欠片だけでも、きっと生きていけるけれど…それでも、ママのいないときや、もし死都市のことでなにかがあったら、ぼくの身体は、弱ってしまうと思う。
だから、ジャンニのご飯はぼくの生命線。これから死都市を管理するためには、ぼくの身体的安定が必須なんだ…。
きっとぼくは、もうジャンニを手放せない。

「なぁ、ヴェル。」
「なぁに?」
「………本当にジャンニ姉様を、連れていくのか?…ウチから、切り離してまで……さ。」
「………ん。ごめんね。ぼくの望みは、もう決まったから、ジャンニは、絶対必要なの。」
「…もう、会えなくなる…わけじゃ、ないよな?」
「…!それは大丈夫だよ!ぼくの住んでいる神殿がね、もうすぐアルクスの転移ステーションに行き先が追加されるのっ!」
「どういうこと?」
「つまり、アルクスに行けば、ジャンニが働いてる神殿へいつでも行けるってことなの。」
「ほ、本当に!?会いに行けるのか!なんだ…。ははっ、なーんだ!俺、もう会えなくなっちまうのかと思って……。良かったーっ!ヴェル、もちろん、お前にも会えるんだよな?その神殿?に行けばさ!」
「…勿論だよ!ぼくのお家だもん。ねぇ、今度うちにきてねっ!」
友達を自分の家に招く。
そんな、素敵なこともしてみたいと思ったんだ。
「あぁ!招待してくれよな!」
「その時は、ジャンニに教わって、クッキー作って待ってる!!」
「また粉だらけになるんじゃねぇぞ?」
「あはははっ。」

あぁ、楽しいな。
ぼくは…ほんとは、こんな穏やかな日々を過ごしていきたかったのかな。
もし、お父さんが外国の騎士でなければ。
もし、ぼくの展開率が人並みだったなら。
もしかしたら。
そんなあり得ないことを考えたって無駄なんだけれど。

それでも命を繋いでくれたディーテ神を母と思い込むことで、どうにか今日まで生きてきた。生かされた。
…愛を、知った。

そして、十年ぶりに出会った人たちに、ぼくの心は更に暖かいもので満たされた。

恩は、返さなければ。


もうすぐ、ぼくは浄化が終わる。
そうすれば、次の段階へ。

…フレイド様が言っていた。

人の澱みを受け取る辛さを。

ママが言っていた。

人の澱みは、悲しいと。

もうすぐ、ぼくは翼候補たちの澱みを受け取る。
彼らの辛さに…悲しみに、耐えなければ、恩は返せないよね、ママ。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛

Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。 全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

私はあなたの母ではありませんよ

れもんぴーる
恋愛
クラリスの夫アルマンには結婚する前からの愛人がいた。アルマンは、その愛人は恩人の娘であり切り捨てることはできないが、今後は決して関係を持つことなく支援のみすると約束した。クラリスに娘が生まれて幸せに暮らしていたが、アルマンには約束を違えたどころか隠し子がいた。おまけに娘のユマまでが愛人に懐いていることが判明し絶望する。そんなある日、クラリスは殺される。 クラリスがいなくなった屋敷には愛人と隠し子がやってくる。母を失い悲しみに打ちのめされていたユマは、使用人たちの冷ややかな視線に気づきもせず父の愛人をお母さまと縋り、アルマンは子供を任せられると愛人を屋敷に滞在させた。 アルマンと愛人はクラリス殺しを疑われ、人がどんどん離れて行っていた。そんな時、クラリスそっくりの夫人が社交界に現れた。 ユマもアルマンもクラリスの両親も彼女にクラリスを重ねるが、彼女は辺境の地にある次期ルロワ侯爵夫人オフェリーであった。アルマンやクラリスの両親は他人だとあきらめたがユマはあきらめがつかず、オフェリーに執着し続ける。 クラリスの関係者はこの先どのような未来を歩むのか。 *恋愛ジャンルですが親子関係もキーワード……というかそちらの要素が強いかも。 *めずらしく全編通してシリアスです。 *今後ほかのサイトにも投稿する予定です。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

処理中です...