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無理な計画?

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「……すっ……げぇ、壮大な話だな……。」
今後、新たな二神教を国教として信仰するにあたり、皇家と公爵家には、事情を知っておいて欲しい、とフォレンはヒースヴェルトの立場を話した。
レイモンドにも、ディランが皇家を降りる時に説明し、全て陛下の意向を汲むことを明確にした。ならば、アイザックも反対する理由もないし、寧ろこれからの公爵家の重責に緊張していた。
「はは。大丈夫だよ。しばらくは、おそらくヒースヴェルト様も我々も人のフリをして世界を整えて行くつもりだからね。」
「しばらくは、って、どれくらい?」
「ヒースヴェルト様が正式に神になられた瞬間、我らは老いを失うそうだ。
不老不死、というのは人間から見れば畏怖の存在だろう…。
人間の外見をしているのに、エルフのように老いない身体。それで政治に関われる限界まではね。」
それまでに、何とか死都市の問題を解決したいところ。
「それで、ヒー様は私に何のご相談があって、此方に?」
温かい紅茶を飲みながら、フォレンは尋ねた。
「実はね…。」
ヒースヴェルトは全て話した。
星の寿命のことも、加護を得られなかったがために、穢黒石の産地となってしまった大地のことも、その澱みを受け、自ら浄化していくのが神の仕事であることも。
「ぼくは、残念ながらママの加護の無い場所には、飛んで行けないの。行くとしたら、自分の足で行かなきゃ、なの…。でも、それは今は難しいでしょう?旅行などで国境を越えることは難しい、とトリシャ先生も言ってました。」
「そう、ですね。…うーん。」
ヒースヴェルトが直接死都市に出向くことはできないし、死都市で生まれた穢黒石を誰かに持ってこさせるにしても、いちいち国境を越えなければならないのは、煩わしい。
正式に輸送させるとしたら、あの石の存在を強く認めさせようとしている国とディーテ神教会が黙ってないだろう。
「それでね、まず、穢黒石の方からぼくのところに来れるように、と思って、アルフィンみたいな生き物にすればどうかなって、ぼくの神力と掛け合わせたら、やっぱり凶暴な魔獣になっちゃって、ルシオさんに倒して貰ったの。
一度目は魔獣が死んだときに石が死都市に帰っちゃった。二度目は、成功。ディランが倒して、澱みだけ、受け取れた。」
「しかし、死都市を魔獣で溢れかえさせるわけにはいきませんしね。」
うんうんと唸っていると、アイザックが口を挟む。
「いや、むしろ溢れさせたら良いんじゃないか?」
「何だって?」
「だって、ただの石ころだから、ああやって悪い奴らが犯罪に使ったり、危ねぇ考えの国が変な研究したり、しだしたって話だろ?」
「まぁ…。今のところ、壊れさえしなければ、発動しない石屑だ…。」
「それが、突然魔獣になってみろよ。悪い連中はそれが魔獣の卵だったって分かれば慌てるだろうぜ?」
「そうか…多少危険ではあるが…死都市で捕らえられている子供たちをどうにか助け出した後ならば、ヒー様の力で一気に魔獣化させても…。」
「そんな!一気には無理です!ぼく、浄化の数値より多くの澱みは受け取れないです…。」
「あぁっ。そうですよね。そうすると…定期的に魔獣化させていくのはどうですか?」
「定期的に…魔獣化?」
「言葉通り、澱みの管理をするのです。魔獣化すれば、冒険者やロレイジアの兵士らが討伐するでしょう?定期的に魔獣を出現させ、ウェーブが来ると…思わせる。」
通常の魔獣も、活性化していつも潜んでいる森から溢れ出る時期がある。その習性を、ヒースヴェルトの虹魔獣にも作為的に起こさせる。
「あぁ!成る程な!それ面白いな。あんな商売を黙認してるロレイジアの奴らに、一泡吹かせてやれる。」
「で、でも…他の人たちに迷惑かからない?近くに村とかあったら…。」
「そこは、私たちアルクスの出番でしょう。国境関係なく、人々のためにあるのが、砡術士ですよ。被害が出ぬよう、死都市周辺の地域を守りましょう。
虹魔獣を相手にするのは…そうですね。ディランの言っていた《神翼》らにやらせるのはいかがでしょう?すでに候補生が十数名、同意のとも訓練を始めているそうですよ。…貴方様の、翼に選ばれるために…。」
「わぁ、《神翼》が守ってくれるなら、安心です。とても、心強いです!
いつか…ぼくの魔獣を《神翼》の皆さんが直接対処してくれるようになったら…それが一番、ぼくには嬉しい。
翼はぼくのための存在。…浄化と世界の維持には、この死都市の管理が欠かせない、です!翼たちに、浄化を手伝って貰うです。」
ヒースヴェルトの望む形に。フォレンは目を細めて口角を上げた。
(ヒースヴェルト様のお心のままに。)
最終目標か見えた。…死都市の管理権をアルクスが握る。そうすれば、自然とヒースヴェルトの手中に治まるのだ。

「でもね、一つ問題があってね…。」
ヒースヴェルトは、申し訳なさそうに続ける。
「死都市に神力の源が無いと…死都市の穢黒石と神力を融合させた虹魔獣は、離れた場所からの…構築がね、できないの。
ぼくが死都市に住むとか、そういうことしなきゃ無理なの…。ママの加護がないところに、ぼくは住めないよ…。」
それは、致命的だ。
何より、あんな地獄のような土地に、神力の及ばない場所に、ヒースヴェルトを住まわすなどあり得ない。
「……例えば…死都市に、砡の欠片を設置すると、どうなりますか?」
フォレンがたずねる。
「…澱みが強すぎて、通常より早く砕け散るよ。ディランの剣の砡の欠片のように、強化しない限りは…。」
「強化…。では、世界で一番上質な大砡の欠片を、ヒー様の神力で強化したなら?」
「そ、れは……たぶん、聖砡並みの力を持つことに……あぁ!そっか!擬似聖砡を作ってしまえばいいんだね!それを死都市の奥深くに埋めちゃうんだ!!誰にも見つからないような場所に!!」
ヒースヴェルトは創造神ではないため、砡は生み出せない。だが、調和や融合を得意とする神力がある。
「答えが見えてきたみたいだな!」
「アイザックさん。」
「ザックでいいですよ、ヒー様?」
「ザック!あは、相談しに来て、良かった!!今度、神殿で会議します。それまでに、まとめておこうね。」
「御意。」
胸に手を当て、フォレンは微笑んだ。

話し終わって、ヒースヴェルトは中庭を散歩してくる、と小走りで小路を散策しに行った。
ふわふわと舞うプラチナの髪の毛を垣根から見るのは、一年ぶりか。
「なぁ、フォレン兄さん。」
「どうした?ザック。」
「兄さんが、何故あの子についていくのか、わかった気がした。…あの子、良い子だね。世界を維持するのに、多少の被害なんか考えなくてもいいだろうに。周りの村とか心配しちゃってさ。
彼が新しい神さまになるんなら、オレ応援するよ。あの子のことも、兄さんも…叔父上のことも。」
「…ありがとう。良い弟ができて、嬉しいよ。」




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