上 下
8 / 119

天使の条件

しおりを挟む



『皆、楽にせよ。我が子の思い、受け取ってやってくれ。』
ディーテの言葉に、皆は顔を上げる。

『コレは本当に優しい子でな?
…これまで様々な世界を、他の者に任せてきたがね。ここまで人を思い、翼に選び取るだけのことに、このように涙を流す子を、見たことがない。
大抵は、神になれると思った瞬間、それらは傲慢になり人を人とも思わぬ存在と化す。人からすれば、それは非情で冷酷無慈悲。
ふふっ。たまったものではないだろうね。でも、翼に選ばれてしまったら、永遠に魂を捧げるしかない。天使とは、そんなものだから……。そういう意味では、この世界は幸せだね。』
『ママ…?』
ふわり、とヒースヴェルトを抱き上げて笑う。
『人間の方から望んで翼になりたがる世界など、余は初めて見るよ。ヒースヴェルトは良い子だね。』
『……?だって、ママの子だもの。』
何を言っているの?と本気で思っている彼に、ディーテも含め、皆が微笑む。

(ほら、そういうとこ。)

この素直すぎる、あまりにも無垢すぎる神様候補は。

『……はぁ。これだからね。皆、すまぬがコレを頼む。優しすぎ、無垢すぎる故苦しむことも多かろう。
これからは余がコレの管理者の心得を叩き込む。
しばらく…留守にする。そなたらも、覚悟を決め人の世と隔離する準備をしてこい。』
『『『はい!!』』』
『ママ…?管理者の心得って?』
『神力の使い方も含めた、準備だよ。…ヒースヴェルト…。一度天上界に行く。』
『えっ!?…でも、ぼくはまだ行けないんじゃ…っ?』
『正確に言えば、天上界と星々との狭間にある場所だよ。澱みの減った今なら、それ程苦しくはなかろう。』
苦しい、と聞いてヒースヴェルトは、うっ、と唸った。しかし、大好きな母親の言うことには従いたい。
『が、頑張る!!』
『よい心がけだ。…では、皆、下がれ。…あぁ、緋の眷属、そなたは少し待て。ヒースヴェルトも、皆と行くが良い。』
『………?分かった。ママ。』

言われたとおり、ディランだけ残って、他は皆広間から退場した。


それから少ししてヒースヴェルトは食堂でジャンニ特製のお菓子とカクテルをいただいていた。
沢山泣いたから、水分補給と、糖分補給だそうだ。
「ん~、美味しいっ!」
「ふふっ。元気でましたね!」
ジャンニの笑顔。ヒースヴェルトはほっこり笑う。
「ジャンニの笑顔が、ぼく大好きなの。だから、悲しくなるような、選択は…しないでね。」
うる、とまた涙が溜まる。
「ヒースヴェルトさま、大丈夫です。私だってちゃんと考えてますからね!
でも一人で決めては家族にも申し訳が立ちませんから。一度実家に戻ります。」
「ぁい。ご家族と、ちゃんとなはしてください…。」

「ヒー様、少し、良いですか?」
食堂に現れたのは、アシュト。
「へへっ。実は今朝から探索してて。これ、どうッスか?」
手のひらにコロン、と転がるのは、美しい白の砡の欠片。明らかに上質なものだ。
「……ッ!!これ!生まれてすぐの美味しいヤツです!!」
「やっぱり!なんとなく、ですけど、オレにもヒー様と同じように、砡の欠片、見分けがつくようになってきたッス。」
「ぇ……なに、それスゴい!」
「ヒー様を助けるのは、ディラン様みたいな強さとか、フォレン様の頭脳とか。そんなスゲェ力がないと無理なのかもって、ちょっと自信無くしてたッスけど…オレにも、ヒー様のこと、手伝えるって……自惚れても良いッスか。」
「……ママがね、翼は力のある強いものを選ぶと、良いって、教えてくれたけれど…。ぼくもそう思うけれど…本当はね、少し違ってね。」
白の砡の欠片を受け取り、目を細める。
「ぼくが、側にいて欲しいの。アシュトはぼくのお兄ちゃん、でしょう?これからも、沢山、世界のことを、世界に吹く風のことを、教えて。」
風が運んでくる、世界の様々なことを。
「ウッス!」

世界中を飛び回る、アシュトの自由な羽根は、まるでアルクスの象徴。世界中の様々な問題や情報も、風を操り、捕まえて来る。

『……加護を』
「っ!!」
ヒースヴェルトは、この日、アシュトに翠砡の加護を与えた。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛

Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。 全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

私はあなたの母ではありませんよ

れもんぴーる
恋愛
クラリスの夫アルマンには結婚する前からの愛人がいた。アルマンは、その愛人は恩人の娘であり切り捨てることはできないが、今後は決して関係を持つことなく支援のみすると約束した。クラリスに娘が生まれて幸せに暮らしていたが、アルマンには約束を違えたどころか隠し子がいた。おまけに娘のユマまでが愛人に懐いていることが判明し絶望する。そんなある日、クラリスは殺される。 クラリスがいなくなった屋敷には愛人と隠し子がやってくる。母を失い悲しみに打ちのめされていたユマは、使用人たちの冷ややかな視線に気づきもせず父の愛人をお母さまと縋り、アルマンは子供を任せられると愛人を屋敷に滞在させた。 アルマンと愛人はクラリス殺しを疑われ、人がどんどん離れて行っていた。そんな時、クラリスそっくりの夫人が社交界に現れた。 ユマもアルマンもクラリスの両親も彼女にクラリスを重ねるが、彼女は辺境の地にある次期ルロワ侯爵夫人オフェリーであった。アルマンやクラリスの両親は他人だとあきらめたがユマはあきらめがつかず、オフェリーに執着し続ける。 クラリスの関係者はこの先どのような未来を歩むのか。 *恋愛ジャンルですが親子関係もキーワード……というかそちらの要素が強いかも。 *めずらしく全編通してシリアスです。 *今後ほかのサイトにも投稿する予定です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...