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天使の条件
しおりを挟む『皆、楽にせよ。我が子の思い、受け取ってやってくれ。』
ディーテの言葉に、皆は顔を上げる。
『コレは本当に優しい子でな?
…これまで様々な世界を、他の者に任せてきたがね。ここまで人を思い、翼に選び取るだけのことに、このように涙を流す子を、見たことがない。
大抵は、神になれると思った瞬間、それらは傲慢になり人を人とも思わぬ存在と化す。人からすれば、それは非情で冷酷無慈悲。
ふふっ。たまったものではないだろうね。でも、翼に選ばれてしまったら、永遠に魂を捧げるしかない。天使とは、そんなものだから……。そういう意味では、この世界は幸せだね。』
『ママ…?』
ふわり、とヒースヴェルトを抱き上げて笑う。
『人間の方から望んで翼になりたがる世界など、余は初めて見るよ。ヒースヴェルトは良い子だね。』
『……?だって、ママの子だもの。』
何を言っているの?と本気で思っている彼に、ディーテも含め、皆が微笑む。
(ほら、そういうとこ。)
この素直すぎる、あまりにも無垢すぎる神様候補は。
『……はぁ。これだからね。皆、すまぬがコレを頼む。優しすぎ、無垢すぎる故苦しむことも多かろう。
これからは余がコレの管理者の心得を叩き込む。
しばらく…留守にする。そなたらも、覚悟を決め人の世と隔離する準備をしてこい。』
『『『はい!!』』』
『ママ…?管理者の心得って?』
『神力の使い方も含めた、準備だよ。…ヒースヴェルト…。一度天上界に行く。』
『えっ!?…でも、ぼくはまだ行けないんじゃ…っ?』
『正確に言えば、天上界と星々との狭間にある場所だよ。澱みの減った今なら、それ程苦しくはなかろう。』
苦しい、と聞いてヒースヴェルトは、うっ、と唸った。しかし、大好きな母親の言うことには従いたい。
『が、頑張る!!』
『よい心がけだ。…では、皆、下がれ。…あぁ、緋の眷属、そなたは少し待て。ヒースヴェルトも、皆と行くが良い。』
『………?分かった。ママ。』
言われたとおり、ディランだけ残って、他は皆広間から退場した。
それから少ししてヒースヴェルトは食堂でジャンニ特製のお菓子とカクテルをいただいていた。
沢山泣いたから、水分補給と、糖分補給だそうだ。
「ん~、美味しいっ!」
「ふふっ。元気でましたね!」
ジャンニの笑顔。ヒースヴェルトはほっこり笑う。
「ジャンニの笑顔が、ぼく大好きなの。だから、悲しくなるような、選択は…しないでね。」
うる、とまた涙が溜まる。
「ヒースヴェルトさま、大丈夫です。私だってちゃんと考えてますからね!
でも一人で決めては家族にも申し訳が立ちませんから。一度実家に戻ります。」
「ぁい。ご家族と、ちゃんとなはしてください…。」
「ヒー様、少し、良いですか?」
食堂に現れたのは、アシュト。
「へへっ。実は今朝から探索してて。これ、どうッスか?」
手のひらにコロン、と転がるのは、美しい白の砡の欠片。明らかに上質なものだ。
「……ッ!!これ!生まれてすぐの美味しいヤツです!!」
「やっぱり!なんとなく、ですけど、オレにもヒー様と同じように、砡の欠片、見分けがつくようになってきたッス。」
「ぇ……なに、それスゴい!」
「ヒー様を助けるのは、ディラン様みたいな強さとか、フォレン様の頭脳とか。そんなスゲェ力がないと無理なのかもって、ちょっと自信無くしてたッスけど…オレにも、ヒー様のこと、手伝えるって……自惚れても良いッスか。」
「……ママがね、翼は力のある強いものを選ぶと、良いって、教えてくれたけれど…。ぼくもそう思うけれど…本当はね、少し違ってね。」
白の砡の欠片を受け取り、目を細める。
「ぼくが、側にいて欲しいの。アシュトはぼくのお兄ちゃん、でしょう?これからも、沢山、世界のことを、世界に吹く風のことを、教えて。」
風が運んでくる、世界の様々なことを。
「ウッス!」
世界中を飛び回る、アシュトの自由な羽根は、まるでアルクスの象徴。世界中の様々な問題や情報も、風を操り、捕まえて来る。
『……加護を』
「っ!!」
ヒースヴェルトは、この日、アシュトに翠砡の加護を与えた。
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