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神託の意味、ルシオの過去

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その日の午後、邸に帰り中庭でランチを済ませて、そのまま中庭で遊んで過ごしていたら、ジャンニがおやつに生クリームたっぷりのケーキを持ってきてくれた。
ヒースヴェルトは、そのままリーナとジャンニを座らせて、おやつの時間を楽しんでいたところ、アシュトが転移装置で戻ってきて、その時また故障して、再びアルクスから白の砡術士を派遣してもらった、なんてこともあって、なかなか落ち着いた午後とは言いがたかった。
「ヒー様、これ、お土産ッス!」
もう夕方に近かったが、転移装置を駆使して、どうにか本物の華護りを買ってきたらしい彼は、中庭でお茶を楽しんでいるヒースヴェルトに真っ先に会いに来た。
そして、ヒースヴェルトに渡した華護りは、ひときわ大きく、美しいもので、ヒースヴェルトは驚きを隠せなかった。
「ふおおぉぉぉ!!?この華護り、ママの力を、物凄く感じる、の!!ママの、泉の側に立ってるときみたい!」
目をキラキラと輝かせ、幸せそうな笑顔を見せた。
「良かった!一番大きくて綺麗なのを、買ってきたんです。髪の毛につけると、いいッスよ!」
大きく頷き、ヒースヴェルトはすぐに、リーナのもとへ走った。
「リーナ!これ、つけてください!一番のお気に入り、です~!!」
「はいっ!すぐに結って差し上げます~!」
リーナはヒースヴェルトを椅子に座らせると、器用な手付きで髪の毛を編み込んでいく。やはり、華護りの定位置はヒースヴェルトの肩にかかるところ。
「うん、完璧です!アシュトにしては、センスの光る逸品を選びましたわね!」
「オレにしてはって、余計じゃね?」
「おほほ。」
「…ったく。ま、いーけど。それより、ディラン様は?約束の品を渡さないと。」
「あぁ、多分フォレン様の執務室です。行かれるなら、ヒー様も連れて行って差し上げてくださいな。私はジャンニとここを片付けておきますから。」
「了解ッス~、ヒー様、行きましょ?」
「ぁい~。」
アシュトの横を、ぴょこぴょこと跳ねるように歩く。
「ルシオ様は、まだアルクスにいますか?」
「うん。なんかね、神殿に、置くための転移装置を作る、て。
あと、ぼくの、お願いしたものも、作るです。だから、しばらくは、アルクスだそーぅです!」
「へぇ、ルシオ様って盲目的にヒー様やディーテ様を崇拝されてるのかと思ったんだけどなぁ…。」
「ルシオさんは、ママのお気に入り、です。」
「お気に入り…すか?」

ルシオは、世界が創造されて数千年を過ぎた頃に、死都市か現れて千年後に生まれた。
ディーテ神は世界は創造するが、それ以上の何かをすることはない。ただ、そこに住む生き物たちが、どのように暮らし、歴史を刻み、滅びていくか。それを見るだけである。
だが、あまりにも生き物たちが愚かしくも欲に溺れ醜い世界を歩む未来を見たならば、そこに管理者を置く。
その世界も、愚かな人間の手により、聖砡が盗まれた。生まれたばかりで不安定だった世界は、基盤を移動され、生態系を崩された。そしてその歪みが、死都市を生んだ。慌てて元の場所に戻したところで、一部の歪みは残ってしまった。
死都市は、謂わば世界の澱みだ。
その澱みが生じ、人々の心に不安が少なからず生まれると、本能的に守りに入る。必要以上の干渉せず、静観する、鎖国時代。それが今である。その行動が正解か否かは分からないが、世界の基盤がようやく整ったのも、この頃。
世界の様子を見に、天上界から下界に降り立つことが増えた時のこと。
一人、純粋な涙を流しながら静かに佇むエルフを見つけた。
記憶を覗けば、以前神託を授けた神子の恋人であった。

確か、今後新たな神が世界を統べる旨を伝えた。

神託と人々が呼ぶ、ディーテ神の言葉は、用は通達なのだ。決まりきった事柄を、神力に通ずる幾人かの人間に伝えるだけのこと。
たまに、遠き未来の話をすることもある。
ただ、その事実は多くの人々には受け入れがたかったのだろう。
彼女はその通達を当時の教会の上司に、そのまま伝えた。それがいけなかった。その上司はディーテ神以外を認めず、その神託を闇に葬った。
ディーテ神が、唯一神。それが世界の常であると、嘘を吐いた。

さすがに、ディーテは悲しみを覚えた。愚かしい人により、通達は伝わらず、人々の私欲の赴くままに歩み出そうとしていた。

「何故です、父上。何故、神の言葉を賜っただけの彼女が殺されねばならなかったのか!!」
「うるさい!!!創造神以外の神など、おらぬ!!
世迷い言をほざく神子など、神子ではないわ。死して神のもとへ逝けるのだ、感謝して欲しいものだ。唯一創造神のみを信じるのが教会のあり方。私は正しい…私が正しいのじゃ!」
「その信じる神の御言葉でしょう!?ならば、新たな神はいつか顕現される。私は言葉を信じます!!!」
ある親子の会話を、途切れ途切れ聞いた。涙を流し、神託を信じると言い切るエルフが、とても愛おしく思えてならなかった。
『その心、貫くが良い。』
その声が聞こえたかどうかは知らないが。それから千年もの間、ルシオはただひたすらに神託を信じた。親が捩じ伏せようとも、自分だけは信じて、そのように行動した。全ては、神託を疑われた彼女のために。
そして数百年が過ぎ、父親の画策で教会に嫌われ、疎遠になり、ルシオはついに教会を出た。やさぐれていた時に出会ったのが、ナッシュ・アトレイ。アルクスの首領となる人物だった。
彼の言葉はいつも、真っ直ぐで、ディーテ神が言ったことなら、それは絶対だろ?と1ミリの疑いもなく信じてくれた。
彼に出会えた日の夜、ルシオは声を聞く。
『やっと、君の思いを支える人に出会えたね。そなたの生き方を証明してごらん。世界への理解を深め、人々の役に立て。…そなたに眷属の砡の欠片を与える。邁進しなさい。』
それが、ルシオが眷属を賜ったときの話である。

ヒースヴェルトは、ディーテから鏡の設計図を預かるときに、その話を聞いた。

『ママが直接、眷属を与えた最初の人だよ、ルシオさん。だから僕もね、信頼してるの。』
アシュトは、華護りを買ったブランシュ工房でのことを思い出した。
「ルシオ様、その華護りを作った職人のことも、昔助けてあげていたッスよ。
なんだか、めっちゃイイ人だよ、ルシオ様~…なんか複雑ッス。」
「へぇ!!そうなんだ~!ぼく、これ、だぁい好きだよ。」
そっと触れて、ニヨニヨと笑う。
「似合ってるッス!」
そんな会話をしながら、フォレンの執務室に着いたのであった。



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