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幸せでも…
しおりを挟む結局、鼻血を吹き出し、気絶したルシオは別室へ運ばれた。
フォレンに頭を撫でられる。
「ヒー様、改めて、目覚められて良かったです。御体に不調はないですか?」
「少し、気だるい、です。でも、あたまは、スッキリです!」
得意気に丁寧な言葉を使おうとがんばるヒースヴェルトに、ジャンニは先程からクスクスと小さく笑い、応援してくれている。
「ヒースヴェルト様がお好きな、青のカクテルをらお持ちしましたよ。飲まれます?」
「きゃあ!青いキラキラのやつ!ぼく、大好きです!!」
ぱあっ、と明るく笑い、グラスを受け取る。この様子をみる限り、とても調子はいいように見えるが、フォレンとリーナは、三日前にディーテ神から聞かされた彼の魂の澱みについて、心配していた。
消したい記憶の蓋が開いた、といわれても、見た限りではあまり変わらないように思える。
「ヒー様、その、大丈夫、ですか。本当に…?」
「……。どう、したの?ぼく、何か……あったの?」
不思議そうにたずねるヒースヴェルトに、フォレンは、彼が眠る前に起きたことについて話した。すると、意外にも、落ち着いた様子で口を開いた。
「…ママが、夢の中で、言って、いたの。ママのお手伝い、できるようになるには、ぼくの、たましいのよどみを、消さないと…いけないって。よどみ、ってなぁに?みんなにも、あるの?」
ヒースヴェルトがそう言ったとき、皆の表情が曇る。
「ヒー様の場合は、悲しい…過去が原因で、心に生まれた病のようなものだと、ディーテ様が仰っておられました。
もちろん、人間誰しも魂の澱みは、あるそうです。そして、ディーテ様がお育てになられた、ヒースヴェルト様だけは…生まれてすぐの砡の欠片に触れることで、澱みは消えていく、と…も。」
ふいに、ヒースヴェルトの顔を見ると、いつもの雰囲気が違うことに、気づく。
「あれ…ヒー様、瞳の色が…いつもより…。」
「ひとみ?…目?どぅしたのー?」
ぱちり、と瞬きをした。
(そうだ、瞳の色が違う。いつもは灰紫色なのに…今は単色の灰色だ。澱みが、瞳の色に出ている?)
ヒースヴェルトの身体は、既に人のものとは違うと言っていた。砡を取り込むことで、様々な異常が生じてもおかしくない。
「いえ、大丈夫ですよ。私の方が、少し疲れていたようですね。」
「フォレン、少しお疲れ、ね。ぼくも、たくさん休みました。フォレンも、お休み、してね。」
心配させて、ごめんなさい、と困った風に笑うと、フォレンも同じような顔をした。
「あぁ、それで、ヒー様の《澱み》は、生まれてすぐの、新しい砡の欠片で治せるから、一度アルクスの本部に行きませんか。
そこには、世界中で発見された質の高い砡の欠片が集められているんです。きっと、ヒー様の役に立つから。」
「あ、るくす…って、リーナとかディラン達が働いてるところ?
ママの飴で、不思議な道具を作ったり、その道具を使って、魔獣をやっつけたり、たくさんの人たちのことをたすけて、世界をまもるお仕事ですっ、て、トリシャ先生が、言って、ました。」
トリシャがヒースヴェルトに行った世界の仕組みの授業では、そのように説明したようだった。
世界を守る。それはまだまだ理想であって、追いついていない。
少し落ち込んでいたフォレンを横目に、ディランが続けた。
「俺らがヒー様を見つけられたのも、アルクスでの調査で大魔境に入ったからなんです。
でも結局、その調査対象って、ヒー様の非常食だった訳ですが、ね。」
「あっ、ぼくの、ごはんを調べに来ていたの?あ~、あのとき、アシュトが、フォレンに怒られてたの。」
声をたてて笑うヒースヴェルトに、アシュトは気まずそうに頭をかく。
「ほんの数週間前の事なのに、懐かしく思いますね。」
リーナはくすりと笑った。
「本当に。ヒー様といると、毎日が楽しくなったっす。」
アシュトも、笑ってくれる。
「!ぼくも!!ぼくもね、ママとおうちに居たときはね、幸せたくさん、だったけれどね、やっぱりね、寂しかったよ。だけどね、みんなが、ぼくを見つけてくれた、でしょう?
お外に、連れてね、出してくれた、でしょう?だから、だからねっ!!」
そこまで言うと、彼の瞳に涙の膜が張った。
ぽろり、と大粒の涙が溢れる。
「ぼくを見つけてくれて、ありがとう。」
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