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ルシオの怒り

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「僕のディーテ様に、おあいしたの?」

「ひっ!」
もはや、その表情は恋人を盗られた時のような嫉妬にまみれた顔。
「るるる、ルシオ様こわいッス、顔こわいッス!ただでさえ冷たい印象で怖がられてるんすからー。」
(本当は貴方の理不尽な暴力が怖いんだけど!)
「どうでもいいよ、そんなの。大事なのは君たちがいつ、どこで、どういう理由で、その機械導具を眷属にしてもらったのかってこと。
それに皇弟殿下のソレなんて、本来の《緋》の眷属の色とも違う、なんて美しい煌めきなんだ。どこでそうなっちゃったの?詳しく説明して。じゃないと用件聞かないよ。」
「待て、ルシオ様。眷属の色を知っている?俺やフォレンだって知らなかったんだ。それは何故だ?」
「そんなの。僕も昔、ディーテ様に賜ったからさ。
僕が機械導具に詳しくて、いろいろ作れるのは《白》の砡に加護を賜ったからなんだよ。」
と、ルシオは自分の左腕に装着された腕輪を見せる。
「これは・・・白、というより、銀色?」
「眷属を示す砡の欠片は、色が濃くなる傾向にあるようだね。でもさぁ、納得いかないよ。どうして君たちの前に僕のディーテ様は顕現されたの?」
「それは・・・言えない。(ディーテ様とその子が)困るから。」
それを言えば、ヒースヴェルトのことが教会に知られてしまう可能性がある。
黙っていると、ルシオは静かにため息を溢して。
「ま、何か事情があるんじゃ仕方ないか。でもいつか聞かせてもらうからね。」
「すまない、その時が来るかは、分からないが・・・少なくとも今は、無理だ。」
「ふぅん?まぁいいや。で?聞きたいこと?なに?」
「あぁ。ルシオ様が転移装置の試作を作ったのは、どれくらい前になる?それがアルクスの外に・・・渡ってしまったとか、ないか?」
「転移装置?あれはまだ試作も試作。
便利だし、一応使って貰ってるけれど完成してないよ?ただでさえ使う度にどっか壊れるんだもんねぇ。まだ研究段階。でも最初に簡単な装置を作ったのは、八年前かな。」
八年前、と聞いて二人は安堵した。少なくともヒースヴェルトが大魔境へ追いやられた原因ではなかった。
「そうか・・・良かった。」
「?まぁ、ウチで作ったのは、八年前で間違いないけれどね。・・・あーイヤだ。嫌なことを思い出した。」
そう言うと、ルシオはその綺麗な顔を歪めて舌打ちする。
「嫌なこと、とは?」
「死都市って知ってる?」
「あぁ。」
死都市は、四千年前のあのときに、聖砡が奪われ、滅びた国の残骸。その場所だけは、四千年経った今でも、植物は育たないし、魔獣の他にどんな生物も寄り付かない。・・・人間以外は。

「あそこは、砡の欠片が生まれない、ディーテ様に見放された唯一の土地だよ。
なのにさ、近年妙なモノがそこから生まれてるんだよ。」
「妙なモノ?」
「あぁ。実物がある。見せることもできるけど、見る?」
くい、と上の階を親指をたてて示す。
開発棟ではなく、総括塔にあるらしい。
「死都市は、西の国の管轄だろ。西の国の報告書は目を通してる。だが、そんな話は・・・」
「秘匿してるんだ。アルクス西支部の開発者の一部が僕の功績を妬んでるんだけどさ、僕、一応開発部門の総責任者だよ?なのに僕を無視してナッシュに直接売り込んでんの。」
「売り、込む・・・?」
塔の七階まで昇ると、立ち止まる。
砡の欠片の収納庫。色ごとに分けられ、美しく並べられているそのフロアは、倉庫というより、美術館のような美しい広間。その奥に、物々しい黒い鐵扉があった。
「この中に?」
ルシオは管理責任者でもあり、鍵などは常備している。鐵扉の鍵を開け、中に入るよう促した。
「なっ・・・!これは?」
その異常な光景にディランもアシュトも、息をのむ。
「西の支部はねぇ、こんなものを新たな砡の欠片として認めろと言い続けてるんだよ。十年前からね。」
忌々しそうにそれらを見て、吐き捨てるように言う。
禍々しい空気を纏った、それは。

「黒い・・・砡の欠片?」
漆黒の拳大の、砡によく似たそれら。
数は少ないが、強化ガラスケースの中に納められ、厳重に保管されている。
そのケース自体が機械導具らしく、うっすら青く光っていた。


「ただの石屑だよ。何の価値もない。」

ルシオの声が怒りを孕んだ。




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