41 / 73
ルシオの怒り
しおりを挟む「僕のディーテ様に、おあいしたの?」
「ひっ!」
もはや、その表情は恋人を盗られた時のような嫉妬にまみれた顔。
「るるる、ルシオ様こわいッス、顔こわいッス!ただでさえ冷たい印象で怖がられてるんすからー。」
(本当は貴方の理不尽な暴力が怖いんだけど!)
「どうでもいいよ、そんなの。大事なのは君たちがいつ、どこで、どういう理由で、その機械導具を眷属にしてもらったのかってこと。
それに皇弟殿下のソレなんて、本来の《緋》の眷属の色とも違う、なんて美しい煌めきなんだ。どこでそうなっちゃったの?詳しく説明して。じゃないと用件聞かないよ。」
「待て、ルシオ様。眷属の色を知っている?俺やフォレンだって知らなかったんだ。それは何故だ?」
「そんなの。僕も昔、ディーテ様に賜ったからさ。
僕が機械導具に詳しくて、いろいろ作れるのは《白》の砡に加護を賜ったからなんだよ。」
と、ルシオは自分の左腕に装着された腕輪を見せる。
「これは・・・白、というより、銀色?」
「眷属を示す砡の欠片は、色が濃くなる傾向にあるようだね。でもさぁ、納得いかないよ。どうして君たちの前に僕のディーテ様は顕現されたの?」
「それは・・・言えない。(ディーテ様とその子が)困るから。」
それを言えば、ヒースヴェルトのことが教会に知られてしまう可能性がある。
黙っていると、ルシオは静かにため息を溢して。
「ま、何か事情があるんじゃ仕方ないか。でもいつか聞かせてもらうからね。」
「すまない、その時が来るかは、分からないが・・・少なくとも今は、無理だ。」
「ふぅん?まぁいいや。で?聞きたいこと?なに?」
「あぁ。ルシオ様が転移装置の試作を作ったのは、どれくらい前になる?それがアルクスの外に・・・渡ってしまったとか、ないか?」
「転移装置?あれはまだ試作も試作。
便利だし、一応使って貰ってるけれど完成してないよ?ただでさえ使う度にどっか壊れるんだもんねぇ。まだ研究段階。でも最初に簡単な装置を作ったのは、八年前かな。」
八年前、と聞いて二人は安堵した。少なくともヒースヴェルトが大魔境へ追いやられた原因ではなかった。
「そうか・・・良かった。」
「?まぁ、ウチで作ったのは、八年前で間違いないけれどね。・・・あーイヤだ。嫌なことを思い出した。」
そう言うと、ルシオはその綺麗な顔を歪めて舌打ちする。
「嫌なこと、とは?」
「死都市って知ってる?」
「あぁ。」
死都市は、四千年前のあのときに、聖砡が奪われ、滅びた国の残骸。その場所だけは、四千年経った今でも、植物は育たないし、魔獣の他にどんな生物も寄り付かない。・・・人間以外は。
「あそこは、砡の欠片が生まれない、ディーテ様に見放された唯一の土地だよ。
なのにさ、近年妙なモノがそこから生まれてるんだよ。」
「妙なモノ?」
「あぁ。実物がある。見せることもできるけど、見る?」
くい、と上の階を親指をたてて示す。
開発棟ではなく、総括塔にあるらしい。
「死都市は、西の国の管轄だろ。西の国の報告書は目を通してる。だが、そんな話は・・・」
「秘匿してるんだ。アルクス西支部の開発者の一部が僕の功績を妬んでるんだけどさ、僕、一応開発部門の総責任者だよ?なのに僕を無視してナッシュに直接売り込んでんの。」
「売り、込む・・・?」
塔の七階まで昇ると、立ち止まる。
砡の欠片の収納庫。色ごとに分けられ、美しく並べられているそのフロアは、倉庫というより、美術館のような美しい広間。その奥に、物々しい黒い鐵扉があった。
「この中に?」
ルシオは管理責任者でもあり、鍵などは常備している。鐵扉の鍵を開け、中に入るよう促した。
「なっ・・・!これは?」
その異常な光景にディランもアシュトも、息をのむ。
「西の支部はねぇ、こんなものを新たな砡の欠片として認めろと言い続けてるんだよ。十年前からね。」
忌々しそうにそれらを見て、吐き捨てるように言う。
禍々しい空気を纏った、それは。
「黒い・・・砡の欠片?」
漆黒の拳大の、砡によく似たそれら。
数は少ないが、強化ガラスケースの中に納められ、厳重に保管されている。
そのケース自体が機械導具らしく、うっすら青く光っていた。
「ただの石屑だよ。何の価値もない。」
ルシオの声が怒りを孕んだ。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
元勇者、魔王の娘を育てる~血の繋がらない父と娘が過ごす日々~
雪野湯
ファンタジー
勇者ジルドランは少年勇者に称号を奪われ、一介の戦士となり辺境へと飛ばされた。
新たな勤務地へ向かう途中、赤子を守り戦う女性と遭遇。
助けに入るのだが、女性は命を落としてしまう。
彼女の死の間際に、彼は赤子を託されて事情を知る。
『魔王は殺され、新たな魔王となった者が魔王の血筋を粛清している』と。
女性が守ろうとしていた赤子は魔王の血筋――魔王の娘。
この赤子に頼れるものはなく、守ってやれるのは元勇者のジルドランのみ。
だから彼は、赤子を守ると決めて娘として迎え入れた。
ジルドランは赤子を守るために、人間と魔族が共存する村があるという噂を頼ってそこへ向かう。
噂は本当であり両種族が共存する村はあったのだが――その村は村でありながら軍事力は一国家並みと異様。
その資金源も目的もわからない。
不審に思いつつも、頼る場所のない彼はこの村の一員となった。
その村で彼は子育てに苦労しながらも、それに楽しさを重ねて毎日を過ごす。
だが、ジルドランは人間。娘は魔族。
血が繋がっていないことは明白。
いずれ真実を娘に伝えなければならない、王族の血を引く魔王の娘であることを。
来世にご期待下さい!〜前世の許嫁が今世ではエリート社長になっていて私に対して冷たい……と思っていたのに、実は溺愛されていました!?〜
百崎千鶴
恋愛
「結婚してください……」
「……はい?」
「……あっ!?」
主人公の小日向恋幸(こひなたこゆき)は、23歳でプロデビューを果たした恋愛小説家である。
そんな彼女はある日、行きつけの喫茶店で偶然出会った32歳の男性・裕一郎(ゆういちろう)を一眼見た瞬間、雷に打たれたかのような衝撃を受けた。
――……その裕一郎こそが、前世で結婚を誓った許嫁の生まれ変わりだったのだ。
初対面逆プロポーズから始まる2人の関係。
前世の記憶を持つ恋幸とは対照的に、裕一郎は前世について何も覚えておらず更には彼女に塩対応で、熱い想いは恋幸の一方通行……かと思いきや。
なんと裕一郎は、冷たい態度とは裏腹に恋幸を溺愛していた。その理由は、
「……貴女に夢の中で出会って、一目惚れしました。と、言ったら……気持ち悪いと、思いますか?」
そして、裕一郎がなかなか恋幸に手を出そうとしなかった驚きの『とある要因』とは――……?
これは、ハイスペックなスパダリの裕一郎と共に、少しずれた思考の恋幸が前世の『願望』を叶えるため奮闘するお話である。
(🌸だいたい1〜3日おきに1話更新中です)
(🌸『※』マーク=年齢制限表現があります)
※2人の関係性・信頼の深め方重視のため、R-15〜18表現が入るまで話数と時間がかかります。
冥界の仕事人
ひろろ
ファンタジー
冥界とは、所謂 “あの世” と呼ばれる死後の世界。
現世とは異なる不思議な世界に現れた少女、水島あおい(17)。個性的な人々との出会いや別れ、相棒オストリッチとの冥界珍道中ファンタジー
この物語は仏教の世界観をモチーフとしたファンタジーになります。架空の世界となりますので、御了承下さいませ。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
英雄の孫は見習い女神と共に~そしてチートは受け継がれる~
GARUD
ファンタジー
半世紀ほど前、ブリガント帝国は未曾有の危機に陥った。
その危機を救ったのは一人の傭兵。
その傭兵は見たこともない数々の道具を使用して帝国の危機を見事に救い、その褒美として帝国の姫君を嫁に迎えた。
その傭兵は、その後も数々の功績を打ち立て、数人の女性を娶り、帝国に一時の平和を齎したのだが──
そんな彼も既に還暦し、力も全盛期と比べ、衰えた。
そして、それを待っていたかのように……再び帝国に、この世界に魔の手が迫る!
そんな時、颯爽と立ち上がった少年が居た!彼こそは、その伝説の傭兵の孫だった!
突如現れた漆黒の翼を生やした自称女神と共に、祖父から受け継がれしチートを駆使して世界に迫る魔の手を打ち払う!
異色の異世界無双が今始まる!
この作品は完結済の[俺のチートは課金ショップ?~異世界を課金アイテムで無双する~]のスピンオフとなります。当たり前ですが前作を読んでいなくても特に問題なく楽しめる作品に仕上げて行きます
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる