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疑問
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「えーっとねぇ、しゅーべりだぃとねぇ、プクプクのあわあわふんしゅいお風呂がねぇ、お気に入りのの~!」
のんびりと神泉に向かう道を散策するヒースヴェルト。その隣を歩くのはディラン。
少し遅れてフォレンと護衛騎士らが続いていた。
ヒースヴェルトはディランに、大浴場の素晴らしさを目を輝かせ、興奮した様子で語っていた。
「俺も、小さい頃遊びましたよ。楽しかったみたいで、良かった。」
「うん!!とーっても楽しかったーの。次はねぇ、ディランと遊ぶのよ?いいぇしょ?約束、もんねぇ~?」
「んっ?あはは、そうでしたね。よし、じゃあ明日は俺と遊びましょう。」
昨晩の沈没していたアシュトを思い出しながら心のなかで苦笑いした。
「わぁーーーい!」
そんなディランのことなど知る由もなく、ぴょんぴょんと跳びはねて喜ぶヒースヴェルトを、フォレンは背後から見守る。
相変わらず、不健康には見えないものの、細く小さい身体。見た目は十歳程度にしか見えない彼が本当は十四歳で、どこかは分からないがおそらくギュゼリア地方の《村》に住んでいたということを考えると。
(十年前・・・ヒースヴェルト様を捨てた者は、どうやって大魔境まで連れていったんだ?)
ギュゼリアは、この世界の中心に位置する大魔境からかなり離れている。にも関わらず、彼が眠っている間に大魔境の奥地に捨て置くことなど、可能なのだろうか。
「ディラン、少し、いいか?」
「なんだー?」
歩くペースを落として、フォレンに並ぶ。ヒースヴェルトはそれに気づかず、前の方をスキップしながら進むので、護衛を前に行かせた。
「ギュゼリアはエンブルグ皇国の端の端だよねぇ。その領地の村なんて、中央から更に離れてるよね。」
「んー?あぁ。そうだな。ギュゼリアは辺境伯だからな。北の国・・・ダスティロスに接しているぜ。」
「・・・十年前、転移装置は完成していたっけ?」
「ぁあ?何でそんなこと・・・。」
と、言いかけてディランもハッとする。
「おいおい、まさかヒー様を大魔境に送り込むのに、機械導具が使われたとか言うつもりか?
そんな使われ方・・・ッ。」
許されるはずない。
というか、アルクスがそれを許さない。
ディランは怒りに震えたが、冷静さを取り戻して今後について組み立てはじめた。
「本部に帰って・・・ルシオ様に聞く。今も昔も、機械導具を一番作って世に出しているのは、あの人だ。何か知っているかもしれない。
当時の資料も、調べてみよう。
・・・アシュトを連れて行くぞ。あいつにはギュゼリアを探らせる。いいよな?」
「もちろん。あぁ、そうだ。本人の意見も聞いてよ?」
「お前が言うなよ。さんざんこき使ってやがったくせに。」
「はははっ。確かに。」
なんて、軽口を叩くような調子で会話をするが、内心、焦りもあった。
もしかしたら、自分たちが知らないだけで
考えたくもない事が起こっていたのだとしたら、それを見逃すわけにはいかない。
ヒースヴェルトは大魔境に追いやられ、魔獣によって命を奪われかけた。
彼が偶然、遺跡にたどり着かなければ。
そこでディーテ神に拾われなければ。
確実に死んでいたのだ。
彼を見る度に、心臓が痛んだ。
加護を多く受けて何が悪い?神に愛されている証拠じゃないのか。
危険だから?
ならば周りが守ってやればいい。
「あ~、フォレンー、あのピラピラ浮いてるの、はー、チョー、でしょ?」
ヒースヴェルトに聞かれて、ぐっと握られた拳の緊張が一瞬で解ける。
「はい、蝶ですよ。」
「ちょう~♪ピラピラとんで~ゆねーぇ♪」
「・・・。」
ヒースヴェルトは絶望の先に、偶然幸せを得た。
だが、彼を絶望の淵に突き落とした奴がいるならば。
それを明らかにしたかった。
のんびりと神泉に向かう道を散策するヒースヴェルト。その隣を歩くのはディラン。
少し遅れてフォレンと護衛騎士らが続いていた。
ヒースヴェルトはディランに、大浴場の素晴らしさを目を輝かせ、興奮した様子で語っていた。
「俺も、小さい頃遊びましたよ。楽しかったみたいで、良かった。」
「うん!!とーっても楽しかったーの。次はねぇ、ディランと遊ぶのよ?いいぇしょ?約束、もんねぇ~?」
「んっ?あはは、そうでしたね。よし、じゃあ明日は俺と遊びましょう。」
昨晩の沈没していたアシュトを思い出しながら心のなかで苦笑いした。
「わぁーーーい!」
そんなディランのことなど知る由もなく、ぴょんぴょんと跳びはねて喜ぶヒースヴェルトを、フォレンは背後から見守る。
相変わらず、不健康には見えないものの、細く小さい身体。見た目は十歳程度にしか見えない彼が本当は十四歳で、どこかは分からないがおそらくギュゼリア地方の《村》に住んでいたということを考えると。
(十年前・・・ヒースヴェルト様を捨てた者は、どうやって大魔境まで連れていったんだ?)
ギュゼリアは、この世界の中心に位置する大魔境からかなり離れている。にも関わらず、彼が眠っている間に大魔境の奥地に捨て置くことなど、可能なのだろうか。
「ディラン、少し、いいか?」
「なんだー?」
歩くペースを落として、フォレンに並ぶ。ヒースヴェルトはそれに気づかず、前の方をスキップしながら進むので、護衛を前に行かせた。
「ギュゼリアはエンブルグ皇国の端の端だよねぇ。その領地の村なんて、中央から更に離れてるよね。」
「んー?あぁ。そうだな。ギュゼリアは辺境伯だからな。北の国・・・ダスティロスに接しているぜ。」
「・・・十年前、転移装置は完成していたっけ?」
「ぁあ?何でそんなこと・・・。」
と、言いかけてディランもハッとする。
「おいおい、まさかヒー様を大魔境に送り込むのに、機械導具が使われたとか言うつもりか?
そんな使われ方・・・ッ。」
許されるはずない。
というか、アルクスがそれを許さない。
ディランは怒りに震えたが、冷静さを取り戻して今後について組み立てはじめた。
「本部に帰って・・・ルシオ様に聞く。今も昔も、機械導具を一番作って世に出しているのは、あの人だ。何か知っているかもしれない。
当時の資料も、調べてみよう。
・・・アシュトを連れて行くぞ。あいつにはギュゼリアを探らせる。いいよな?」
「もちろん。あぁ、そうだ。本人の意見も聞いてよ?」
「お前が言うなよ。さんざんこき使ってやがったくせに。」
「はははっ。確かに。」
なんて、軽口を叩くような調子で会話をするが、内心、焦りもあった。
もしかしたら、自分たちが知らないだけで
考えたくもない事が起こっていたのだとしたら、それを見逃すわけにはいかない。
ヒースヴェルトは大魔境に追いやられ、魔獣によって命を奪われかけた。
彼が偶然、遺跡にたどり着かなければ。
そこでディーテ神に拾われなければ。
確実に死んでいたのだ。
彼を見る度に、心臓が痛んだ。
加護を多く受けて何が悪い?神に愛されている証拠じゃないのか。
危険だから?
ならば周りが守ってやればいい。
「あ~、フォレンー、あのピラピラ浮いてるの、はー、チョー、でしょ?」
ヒースヴェルトに聞かれて、ぐっと握られた拳の緊張が一瞬で解ける。
「はい、蝶ですよ。」
「ちょう~♪ピラピラとんで~ゆねーぇ♪」
「・・・。」
ヒースヴェルトは絶望の先に、偶然幸せを得た。
だが、彼を絶望の淵に突き落とした奴がいるならば。
それを明らかにしたかった。
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