34 / 73
疑問
しおりを挟む
「えーっとねぇ、しゅーべりだぃとねぇ、プクプクのあわあわふんしゅいお風呂がねぇ、お気に入りのの~!」
のんびりと神泉に向かう道を散策するヒースヴェルト。その隣を歩くのはディラン。
少し遅れてフォレンと護衛騎士らが続いていた。
ヒースヴェルトはディランに、大浴場の素晴らしさを目を輝かせ、興奮した様子で語っていた。
「俺も、小さい頃遊びましたよ。楽しかったみたいで、良かった。」
「うん!!とーっても楽しかったーの。次はねぇ、ディランと遊ぶのよ?いいぇしょ?約束、もんねぇ~?」
「んっ?あはは、そうでしたね。よし、じゃあ明日は俺と遊びましょう。」
昨晩の沈没していたアシュトを思い出しながら心のなかで苦笑いした。
「わぁーーーい!」
そんなディランのことなど知る由もなく、ぴょんぴょんと跳びはねて喜ぶヒースヴェルトを、フォレンは背後から見守る。
相変わらず、不健康には見えないものの、細く小さい身体。見た目は十歳程度にしか見えない彼が本当は十四歳で、どこかは分からないがおそらくギュゼリア地方の《村》に住んでいたということを考えると。
(十年前・・・ヒースヴェルト様を捨てた者は、どうやって大魔境まで連れていったんだ?)
ギュゼリアは、この世界の中心に位置する大魔境からかなり離れている。にも関わらず、彼が眠っている間に大魔境の奥地に捨て置くことなど、可能なのだろうか。
「ディラン、少し、いいか?」
「なんだー?」
歩くペースを落として、フォレンに並ぶ。ヒースヴェルトはそれに気づかず、前の方をスキップしながら進むので、護衛を前に行かせた。
「ギュゼリアはエンブルグ皇国の端の端だよねぇ。その領地の村なんて、中央から更に離れてるよね。」
「んー?あぁ。そうだな。ギュゼリアは辺境伯だからな。北の国・・・ダスティロスに接しているぜ。」
「・・・十年前、転移装置は完成していたっけ?」
「ぁあ?何でそんなこと・・・。」
と、言いかけてディランもハッとする。
「おいおい、まさかヒー様を大魔境に送り込むのに、機械導具が使われたとか言うつもりか?
そんな使われ方・・・ッ。」
許されるはずない。
というか、アルクスがそれを許さない。
ディランは怒りに震えたが、冷静さを取り戻して今後について組み立てはじめた。
「本部に帰って・・・ルシオ様に聞く。今も昔も、機械導具を一番作って世に出しているのは、あの人だ。何か知っているかもしれない。
当時の資料も、調べてみよう。
・・・アシュトを連れて行くぞ。あいつにはギュゼリアを探らせる。いいよな?」
「もちろん。あぁ、そうだ。本人の意見も聞いてよ?」
「お前が言うなよ。さんざんこき使ってやがったくせに。」
「はははっ。確かに。」
なんて、軽口を叩くような調子で会話をするが、内心、焦りもあった。
もしかしたら、自分たちが知らないだけで
考えたくもない事が起こっていたのだとしたら、それを見逃すわけにはいかない。
ヒースヴェルトは大魔境に追いやられ、魔獣によって命を奪われかけた。
彼が偶然、遺跡にたどり着かなければ。
そこでディーテ神に拾われなければ。
確実に死んでいたのだ。
彼を見る度に、心臓が痛んだ。
加護を多く受けて何が悪い?神に愛されている証拠じゃないのか。
危険だから?
ならば周りが守ってやればいい。
「あ~、フォレンー、あのピラピラ浮いてるの、はー、チョー、でしょ?」
ヒースヴェルトに聞かれて、ぐっと握られた拳の緊張が一瞬で解ける。
「はい、蝶ですよ。」
「ちょう~♪ピラピラとんで~ゆねーぇ♪」
「・・・。」
ヒースヴェルトは絶望の先に、偶然幸せを得た。
だが、彼を絶望の淵に突き落とした奴がいるならば。
それを明らかにしたかった。
のんびりと神泉に向かう道を散策するヒースヴェルト。その隣を歩くのはディラン。
少し遅れてフォレンと護衛騎士らが続いていた。
ヒースヴェルトはディランに、大浴場の素晴らしさを目を輝かせ、興奮した様子で語っていた。
「俺も、小さい頃遊びましたよ。楽しかったみたいで、良かった。」
「うん!!とーっても楽しかったーの。次はねぇ、ディランと遊ぶのよ?いいぇしょ?約束、もんねぇ~?」
「んっ?あはは、そうでしたね。よし、じゃあ明日は俺と遊びましょう。」
昨晩の沈没していたアシュトを思い出しながら心のなかで苦笑いした。
「わぁーーーい!」
そんなディランのことなど知る由もなく、ぴょんぴょんと跳びはねて喜ぶヒースヴェルトを、フォレンは背後から見守る。
相変わらず、不健康には見えないものの、細く小さい身体。見た目は十歳程度にしか見えない彼が本当は十四歳で、どこかは分からないがおそらくギュゼリア地方の《村》に住んでいたということを考えると。
(十年前・・・ヒースヴェルト様を捨てた者は、どうやって大魔境まで連れていったんだ?)
ギュゼリアは、この世界の中心に位置する大魔境からかなり離れている。にも関わらず、彼が眠っている間に大魔境の奥地に捨て置くことなど、可能なのだろうか。
「ディラン、少し、いいか?」
「なんだー?」
歩くペースを落として、フォレンに並ぶ。ヒースヴェルトはそれに気づかず、前の方をスキップしながら進むので、護衛を前に行かせた。
「ギュゼリアはエンブルグ皇国の端の端だよねぇ。その領地の村なんて、中央から更に離れてるよね。」
「んー?あぁ。そうだな。ギュゼリアは辺境伯だからな。北の国・・・ダスティロスに接しているぜ。」
「・・・十年前、転移装置は完成していたっけ?」
「ぁあ?何でそんなこと・・・。」
と、言いかけてディランもハッとする。
「おいおい、まさかヒー様を大魔境に送り込むのに、機械導具が使われたとか言うつもりか?
そんな使われ方・・・ッ。」
許されるはずない。
というか、アルクスがそれを許さない。
ディランは怒りに震えたが、冷静さを取り戻して今後について組み立てはじめた。
「本部に帰って・・・ルシオ様に聞く。今も昔も、機械導具を一番作って世に出しているのは、あの人だ。何か知っているかもしれない。
当時の資料も、調べてみよう。
・・・アシュトを連れて行くぞ。あいつにはギュゼリアを探らせる。いいよな?」
「もちろん。あぁ、そうだ。本人の意見も聞いてよ?」
「お前が言うなよ。さんざんこき使ってやがったくせに。」
「はははっ。確かに。」
なんて、軽口を叩くような調子で会話をするが、内心、焦りもあった。
もしかしたら、自分たちが知らないだけで
考えたくもない事が起こっていたのだとしたら、それを見逃すわけにはいかない。
ヒースヴェルトは大魔境に追いやられ、魔獣によって命を奪われかけた。
彼が偶然、遺跡にたどり着かなければ。
そこでディーテ神に拾われなければ。
確実に死んでいたのだ。
彼を見る度に、心臓が痛んだ。
加護を多く受けて何が悪い?神に愛されている証拠じゃないのか。
危険だから?
ならば周りが守ってやればいい。
「あ~、フォレンー、あのピラピラ浮いてるの、はー、チョー、でしょ?」
ヒースヴェルトに聞かれて、ぐっと握られた拳の緊張が一瞬で解ける。
「はい、蝶ですよ。」
「ちょう~♪ピラピラとんで~ゆねーぇ♪」
「・・・。」
ヒースヴェルトは絶望の先に、偶然幸せを得た。
だが、彼を絶望の淵に突き落とした奴がいるならば。
それを明らかにしたかった。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…
三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった!
次の話(グレイ視点)にて完結になります。
お読みいただきありがとうございました。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
実家が没落したので、こうなったら落ちるところまで落ちてやります。
黒蜜きな粉
ファンタジー
ある日を境にタニヤの生活は変わってしまった。
実家は爵位を剥奪され、領地を没収された。
父は刑死、それにショックを受けた母は自ら命を絶った。
まだ学生だったタニヤは学費が払えなくなり学校を退学。
そんなタニヤが生活費を稼ぐために始めたのは冒険者だった。
しかし、どこへ行っても元貴族とバレると嫌がらせを受けてしまう。
いい加減にこんな生活はうんざりだと思っていたときに出会ったのは、商人だと名乗る怪しい者たちだった。
騙されていたって構わない。
もう金に困ることなくお腹いっぱい食べられるなら、裏家業だろうがなんでもやってやる。
タニヤは商人の元へ転職することを決意する。
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ
Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」
結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。
「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」
とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。
リリーナは結界魔術師2級を所持している。
ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。
……本当なら……ね。
※完結まで執筆済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる