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それは、まるで。

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手のひらには、先ほど子どもから手渡された、オパールのような虹色の輝きを秘めた美しい欠片。
「虹色の・・砡の欠片、か。美しいな。」
小さな砡の欠片なのに、それから溢れる力は底知れない。これを扱える術士はいるのだろうか。
「よし、この辺りを調べよう。砡に関する何かがあるかもしれん。」
「「「はいっ!」」」
それを合図に、フォレン以外の3人は方々へ散った。
フォレンは男の子の側で、彼の様子を観察する。

髪は土や埃でもはや本来の色など分からなかったが、おそらく色素は薄い色。
瞳は、朝の霞を思わせるような灰紫色だった。
「ねぇ、君の名前は?お名前」
「ぉ、な・・・まぃぇ?」
「!そう!お、な、ま、え。」
「おなまぃぇ、ひ~たん、よ!」
出会ってから、ところどころ彼とは通じる会話と、そうでない会話とがある。
通じるものは、そう、まるで。
(まるで言葉を覚えたての年頃の子どものような。)
彼と話してみて、分かってきたことがある。
まず、「ママ」という存在がかつて側にはいたであろうということ。

「お名前は?」と訪ねられ、「ひーたんよ。」と答えた。
これは、おそらく「ひーちゃん、だよ。」と伝えたかったのではないだろうか。
おそらく、彼が幼い頃の周囲の誰かは、その呼び方で彼を呼んでいた、と。

しかし、この外見でこれ程語学力が乏しいとなると。
「そっか。ひーちゃん、どうして、ここにいるの?」
そうと分かれば、3歳児と会話する要領で、ゆっくりと、優しく。
「◇●&§―kjpux/・・・」


無理でした。

きっと、こちらの質問の意味は分かっているのだろう。
ただ、それに答えるには、我々の使う言葉を知らなさすぎるのだ。
「ひーちゃん、これ、ありがとう。」
でも、何か会話をしたくて。
虹色の砡の欠片を見せて、微笑む。
すると、彼も微笑む。
「ふふっ。お友達になれたら、いいねぇ。」
「ぉ、と、も、ち?」
「うん、お、と、も、だ、ち!」
和やかな空気の中。
「フォレン!!なにサボってんだよ!
その子といい感じに和んでんじゃねぇよ!
リーダーだろがてめぇはよ!」
ディランの怒鳴り声に、フォレンは苦笑い。
その様子を見て、ひーちゃんは。
「あははははっ!」
可笑しくて、声をあげて笑った。
その可愛らしさに、ディランも毒気を抜かれ、長いため息を吐く。
「はぁ~・・・。ったく。
なぁ坊主。この遺跡はさっきの祭壇と、この大広間以外は何もないのか?
ざっと見てきたが、扉も階段もねぇし」
ガシガシ、と頭をかきながらぼやく。
通じてないと知っていながらも、愚痴りたくもなる。
大魔境に立ち入ることは、狂暴な魔獣を常に倒し続けながらの旅。
しかも夜だからと休むことすらも許されず、警戒し続けるという最悪の探索だ。
それでこそフォレンの結界術に助けられているとはいえ、魔境探索は一ヶ月は続けていた。
一ヶ月探し続け、漸くたどり着いたのだ。
「ひーたん、◇●&§―k,ま、ま**g◎―▪️・・・●&―kjpux。」
「・・・悪ぃ、わかんねぇわ!」
フォレンが意外にも子どもと意志疎通しているので、自分もできると思ったが間違いだったことを理解する。
「ディラン、仕方ないよ。
とにかく、この遺跡はおそらく4000年前のディーテ神殿の遺跡だ。
その証拠に、その頃の彫刻の特徴が、このディーテ神像には顕著に表れている。
これ以上の調査には、ディーテ神教の専門家と、砡検査の導具も必要だ。
一度本部に帰る。」
「はぁー。やっぱそうなるよなぁ。
くそ、また大魔境の魔獣どもと戦いながらかよ。厳しいぜ。」
フォレンの、「帰る」の単語に、少年はピクッと肩を震わせた。
「おい、どうした?」

「う、ぅわあああーーーーーんっ!!!!」

灰紫色の瞳から、大粒の涙が溢れ出てくる。

「なっ、ちょ、どうしたんだ一体!!」
大声で泣きわめく彼を心配して、調査途中だったメンバーも慌てて戻ってくる。
「フォレン!何泣かせてるんだよ!」
「ひ、ひーちゃん?」
あわあわと、彼の涙を拭いながら困り顔で覗き込むと。

「か、ぇる、イヤぁ・・・うぉれ、カエ、ぃゃーの!ふわぁああん。」

うん。これは、4人とも理解できた。


「フォレン(様)は遺跡に待機(です)ね。」


「何だとーーー!!!?」
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