上 下
3 / 73

剣と盾

しおりを挟む
ディランと、フォレンは幼い頃からよく一緒に遊んでいた。
 歳離れた皇太子の弟として、大事に育てられたディランには、友人と呼べる存在もなく、寂しい宮殿生活を強いられていた。
しかし、5歳のときに宮殿に親に連れられて来たフォレンと出会い、意気投合する。
そして、ディランの傍らには、少し年下の、可愛らしい少女も。
少女は、フォレンの妹で、名前はグレイシアといった。

フォレンと同じ、透き通るような金色の髪の毛と深い翠色の瞳。一目で、恋をした。

 グレイシアもディランに一目惚れし、すぐに婚約し二人は愛を育んだ。
幼馴染みとしてずっと一緒に過ごしていくうち、決まって三人が誓った台詞がある。

『おれは、グレイシアのために戦う剣になるんだ!』
『じゃあ、私は兄としてグレイシアを守る盾になるよ。』
『それなら、私は二人が傷ついても絶対に癒す女神様になるのよ!』

ずっと、そんな日々が続くと思っていた。でも。



『グレイシアが、死んだ。』




ディランとフォレンが、十五歳になった秋のこと。あまりにも突然の訃報に、ディランは言葉を失った。


なんで?


あんなに元気だった。
自分が成人したら、改めてプロポーズして、グレイシアの卒業を待って、結婚する予定だったのに。
フォレンも、グレイシアの死は到底受け入れられず、人間らしい感情を失った。
それでも、公爵家の子息という役割を重要視した父親によって性根を叩き直され、何とか自我を保っていた。

しかし、ディランは。

無気力な傀儡殿下。
貴族の間で、そんな風に囁かれた。
社交場にも出ず、食事も満足にとらない。
見かねた母親が、縁談を複数持ってきたが、何の未来も見えなくなったディランにとって、自分の結婚など、どうでもよかった。

そして、数年が経過した、ある日。

疎遠になっていたフォレンが、ディランの部屋に訪ねてきた。

『私と一緒に行かないか?』

ーアルクスへ。

 フォレンもまた、雁字搦めの環境の中、懸命に足掻いていた。
 そんな中、フォレンは世界機関アルクスの存在を知った。
そこでは、平民貴族関係なく皆が支え合い、国境すらも隔てることなく人々を救っているという。
 グレイシアの死因は、砡の欠片の暴走に巻き込まれた事故だった。
暴走させた本人も、グレイシアを巻き添えに爆死したと聞かされていた。

暴走さえしなければ。

限度を越えた加護の持ち主が、制御の仕方を知っていれば。
グレイシアのことを思うと後悔ばかりだったが、それでも。

  グレイシアのような犠牲者をだしてはいけない。

『俺が剣で、お前は盾だ。』

随分と昔の情景を思い出した。

(あぁ、そうか。俺は。俺にも、できることがある。)
ディランの瞳に、再び光が灯った。
それから、アルクスへ入門し、二人はその才能を開花させた。一年足らずで本部のトップクラスの砡術士となり、フォレンにいたっては、その話術や頭脳も役立ち、アルクスの頭脳と呼ばれるほどの地位に収まっている。

今回の調査は、フォレン自ら行くことを強く希望した。
未開の地に、単純に興味があったことも理由のひとつだが、本当の理由は。
(ディランのガス抜きには丁度良い場所だったしな。)
実際のところ、ディランの強さはエンブルグ皇国で一番だ。
他の三国にも、ディランほどの使い手が、そうそういるとは考えにくい。
ほんの小さなトラブルや喧嘩の仲裁程度で、彼が満足できるわけがない。
それなら、思い切りがむしゃらに戦える場所を与えてやれば、気分転換になるだろうと。
大魔境に、アルクスがついに踏入れる。
それを実現させたのは間違いなくディランの剣の力があったからだ。
(愚痴を吐きながらも、あんなに楽しそうなディランの顔は久しぶりに見た。・・・。)
夕食を終え、青い結界の外へと走って行くディランを視線だけで見送り、深い森からでは殆ど見えない夜空を想像して、夜の狩りに出掛けた彼の無事を祈った。

そして、翌朝。
夜中のうちにディランが大物を狩りつくしたお陰で、アシュトは早朝から広範囲の偵察が可能になった。
アシュトが、戻ってくるなり報告した、内容は。
「遺跡です!ここより東に一キロ先、旧ディーテ神殿の遺跡を発見したっす!」
「!!」
「でかした!アシュト、案内しろ。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

実家が没落したので、こうなったら落ちるところまで落ちてやります。

黒蜜きな粉
ファンタジー
ある日を境にタニヤの生活は変わってしまった。 実家は爵位を剥奪され、領地を没収された。 父は刑死、それにショックを受けた母は自ら命を絶った。 まだ学生だったタニヤは学費が払えなくなり学校を退学。 そんなタニヤが生活費を稼ぐために始めたのは冒険者だった。 しかし、どこへ行っても元貴族とバレると嫌がらせを受けてしまう。 いい加減にこんな生活はうんざりだと思っていたときに出会ったのは、商人だと名乗る怪しい者たちだった。 騙されていたって構わない。 もう金に困ることなくお腹いっぱい食べられるなら、裏家業だろうがなんでもやってやる。 タニヤは商人の元へ転職することを決意する。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…

三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった! 次の話(グレイ視点)にて完結になります。 お読みいただきありがとうございました。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

処理中です...