初恋の人と結婚したけど夫は私を妹としかみていない~~喧嘩して家出したら敵国の捕虜になりました~~

藤花

文字の大きさ
上 下
41 / 45

40.軍事機密(3)

しおりを挟む
 「個別設計していないのですか?それでは効率が――」

 艦船を動かすために使う魔力は膨大だ。だから、ある程度それを動かす人間の魔力に合わせて調節した設計がされる。帝国軍の旗艦は司令官個人に与えられ、それはすなわちその司令官用に完全に設計・設定がされた艦であることを表す。
 魔力はそれぞれに違った特徴をもつので、個別の設計がされていないと無駄に消費される分が多くて戦闘どころではない
 緊急避難的に複数人で魔力供給を行うことはあるが、初めから何人もの魔力を受け入れる設計など、無駄が多すぎて使い物になるとは思えない。
 自分ではない別人用の設計であっても、複数人の魔力を受け入れる設計よりはまだ良い方だ。

 「一人の魔力ではとても足りないんだよ。最近は、亡命しようって貴族が少ない上に、潤沢な魔力がありゃ帝国を離れたくはない。内乱で、もっと高位の貴族が亡命してくるかと思ったが……皇帝陛下はそんな甘いことを許す方ではなかったな」
 
 亡命の隙を与えず、内乱に加担した貴族を粛清したカルロへの非難を含む言い方だ。

 「わかりました。ですが、魔力のサポートは不要です。私一人で」

 混ざる魔力が増えれば増えるほど、流した魔力を辿って構造を理解するのは難しくなる。
 シルヴィアの真意を知ってか知らずか、一歩下がって手を出さないことを表したヴォルフが、周りの研究員にも手を出さないよう視線を送る。

 シルヴィアが、ゆっくりと魔力を供給し始める。
 領地内への魔力供給は、貴族の義務として行うけれど、ヴォルフが言っていたように艦船等特殊な魔力の使い方は、一般の貴族子女は行わないし訓練もしない。シルヴィアは、兄たちが戦争に行ってから、共和国共通語の勉強とともに、バルトロメオが使っていた訓練器具を使った魔力供給の訓練をこっそり行っていた。そのため、恐らく魔力の回路としては艦船を参考にしているであろう目の前の機体についても、ある程度は動かせるだろうと思っていた。
 しかし、実際に乗り込まずに遠隔で魔力供給をするのはロスが大きい。その上汎用タイプの設定とあって、構造を探りながらのそれは想定以上に急激な魔力消費だった。

 機体がぴくりとも動かないうちに既に魔力切れの兆候を見せているシルヴィアに、声がかかる。

 「おい、時間かけすぎだ」
 「大丈夫です。黙って」

 ヴォルフの声かけに集中を乱されたシルヴィアは言葉を取り繕うこともできない。
 ようやく全体の構造を把握できて、魔力出力が落ち着いたシルヴィアが機体を浮かすと、周囲がどよめく。

 「おい、よせ」

 数mほど機体を浮かせた段階でよろめいたシルヴィアを、ヴォルフが制止する。しかし、シルヴィアはそのまま20mほどまで機体を上昇させ続けた。
 
 意図しない急激な魔力切れは負荷が大きすぎる
 艦船を動かすような場合には当然魔力切れの対処も訓練するものだが、シルヴィアは家での独学でそこまでの経験はない。
 着陸させる前に倒れる、と予測したヴォルフが、慌てて横に立って魔力を供給する。

 ――瞬間、爆発音がして浮いていた機体の胴体部から煙が上がる。

 「てめえ……っ!」

 隣のシルヴィアを怒鳴りつけようとしたヴォルフが、意識を失って倒れる寸前の彼女を見て舌打ちする。片手にシルヴィアを支えて、上空でバランスを崩した機体に魔力を注いで着陸を試みる。

 「おまえらも手伝え!」

 周りの魔力持ちの研究員に怒鳴りつけると、それぞれから魔力が供給され、機体は墜落を免れ着陸に成功する。何とか機体以外の被害を出さず、胴体の一部を焼いただけで済んだ。

 「閣下!」

 シルヴィアを抱えたヴォルフが、この状況でなんら焦りを見せずに状況を観察していたフリッツに叫ぶ。

 「彼女を医務室へ。ヴォルフ、今のは彼女が?」

 他の所員によって医務室に運ばれるシルヴィアを見送って、フリッツがヴォルフに問いかける。

 「……いえ、彼女が一人で制御しているところに急に割り込んだので、一部分に魔力が集中して焼ききれたのだと。申し訳ありません。初めから複数人で行うべきでした」

 フリッツはそれには言葉を返さず、頭を下げるヴォルフを興味深げに観察する。

 「実験中の事故で処理する。その方針で報告書を」
 「承知いたしました」

 頭を下げたまま、ヴォルフは答えた。

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

悪妻と噂の彼女は、前世を思い出したら吹っ切れた

下菊みこと
恋愛
自分のために生きると決めたら早かった。 小説家になろう様でも投稿しています。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」 結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は…… 短いお話です。 新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。 4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

【完結】私は側妃ですか? だったら婚約破棄します

hikari
恋愛
レガローグ王国の王太子、アンドリューに突如として「側妃にする」と言われたキャサリン。一緒にいたのはアトキンス男爵令嬢のイザベラだった。 キャサリンは婚約破棄を告げ、護衛のエドワードと侍女のエスターと共に実家へと帰る。そして、魔法使いに弟子入りする。 その後、モナール帝国がレガローグに侵攻する話が上がる。実はエドワードはモナール帝国のスパイだった。後に、エドワードはモナール帝国の第一皇子ヴァレンティンを紹介する。 ※ざまあの回には★がついています。

初恋の兄嫁を優先する私の旦那様へ。惨めな思いをあとどのくらい我慢したらいいですか。

梅雨の人
恋愛
ハーゲンシュタイン公爵の娘ローズは王命で第二王子サミュエルの婚約者となった。 王命でなければ誰もサミュエルの婚約者になろうとする高位貴族の令嬢が現れなかったからだ。 第一王子ウィリアムの婚約者となったブリアナに一目ぼれしてしまったサミュエルは、駄目だと分かっていても次第に互いの距離を近くしていったためだった。 常識のある周囲の冷ややかな視線にも気が付かない愚鈍なサミュエルと義姉ブリアナ。 ローズへの必要最低限の役目はかろうじて行っていたサミュエルだったが、常にその視線の先にはブリアナがいた。 みじめな婚約者時代を経てサミュエルと結婚し、さらに思いがけず王妃になってしまったローズはただひたすらその不遇の境遇を耐えた。 そんな中でもサミュエルが時折見せる優しさに、ローズは胸を高鳴らせてしまうのだった。 しかし、サミュエルとブリアナの愚かな言動がローズを深く傷つけ続け、遂にサミュエルは己の行動を深く後悔することになる―――。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

処理中です...