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33.帝国にて(4)
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「なぜ、シルヴィアと喧嘩を?」
当面の共和国への出方を一通り話し終えて、部下に指示を出した後、執務室のソファーに完全に背を預け、ぐったりと天井を仰ぐようにしているカルロに、正面に座ったバルトロメオが声をかける。
「スフォルツァ公爵の娘のことで……いや、違う。結婚してから窮屈な生活をさせていることと……なぜ、結婚したのかと聞かれた」
視線を天井に向けたまま、シルヴィアとの最後の会話を思い出す。
「――どうして私と結婚したの?」
微妙な立場なまま、今までより窮屈になった王宮での生活への不満をカルロにぶつけたあと、シルヴィアは視線を少し横にずらして、目を合わせないまま問うた。
本当なら、カルロが執務を終えて私室に戻ってから聞くはずだった。けれど、結婚してからというもの、カルロはその時間の多くを、執務室を初めとする公の場で過ごしてほとんど私的な空間へ戻ってこなかった。
シルヴィアとの寝室にさえ来ないカルロとは、結婚前よりもさらに顔を合わせる回数が減っていた。焦れたシルヴィアが、執務前のカルロのところに突撃した形だ。
「好きだからに決まってるだろ」
その答えが、「妹として」と注釈つきで聞こえるだろうことを、カルロは認識していた。 シルヴィアが自分に、「兄」以上の気持ちを抱いていないことは分かっていたが、逆に「兄」としてであれば実の兄であるバルトロメオを除いて他の男性は及ばないほどの好意を寄せられていることもわかっていた。そこに付け込んで結婚まで持ち込んではみたものの、そのことに対する罪悪感も、ゼロではない。
呼べば膝の上にも乗り、腕に抱きつくように寄り添って甘えてくるシルヴィアが、自分を意識しているとは思えなかった。安心しきったその様子と、自分が要求したまま続いていた「兄様」という呼びかけも、それを表していたと思う。それでも、シルヴィアが自分以外の誰かのものになることなど、想像ですら許せなくて、色々言い訳をして妻にした。
母を奪っていったアウグストから、そしてカルロやバルトロメオとの結びつきを狙う貴族から、シルヴィアを守りたかった。皇后にさえなってしまえば、余計な横槍は入らない、入れさせない。そこでもし、シルヴィアが本当に想う人ができたなら。アウグストがしていたように、「下賜」という形も取れる。白い結婚であることは、後からでも証明されるだろう。
誰にも渡したくないと思うのに、もしそうなったら、という誰のためにかわからない逃げ道を作ったが、それがカルロ自身を追い詰めた。いざ、いつでも触れ合える距離にシルヴィアがいることになって、カルロのほうが今までどおりではいられなかった。シルヴィアの方は、きっとなんの躊躇いもなくベッドでもカルロの隣にもぐりこんでくるだろう。それが分かるだけに、カルロはシルヴィアを避けてしまっていた。
当面の共和国への出方を一通り話し終えて、部下に指示を出した後、執務室のソファーに完全に背を預け、ぐったりと天井を仰ぐようにしているカルロに、正面に座ったバルトロメオが声をかける。
「スフォルツァ公爵の娘のことで……いや、違う。結婚してから窮屈な生活をさせていることと……なぜ、結婚したのかと聞かれた」
視線を天井に向けたまま、シルヴィアとの最後の会話を思い出す。
「――どうして私と結婚したの?」
微妙な立場なまま、今までより窮屈になった王宮での生活への不満をカルロにぶつけたあと、シルヴィアは視線を少し横にずらして、目を合わせないまま問うた。
本当なら、カルロが執務を終えて私室に戻ってから聞くはずだった。けれど、結婚してからというもの、カルロはその時間の多くを、執務室を初めとする公の場で過ごしてほとんど私的な空間へ戻ってこなかった。
シルヴィアとの寝室にさえ来ないカルロとは、結婚前よりもさらに顔を合わせる回数が減っていた。焦れたシルヴィアが、執務前のカルロのところに突撃した形だ。
「好きだからに決まってるだろ」
その答えが、「妹として」と注釈つきで聞こえるだろうことを、カルロは認識していた。 シルヴィアが自分に、「兄」以上の気持ちを抱いていないことは分かっていたが、逆に「兄」としてであれば実の兄であるバルトロメオを除いて他の男性は及ばないほどの好意を寄せられていることもわかっていた。そこに付け込んで結婚まで持ち込んではみたものの、そのことに対する罪悪感も、ゼロではない。
呼べば膝の上にも乗り、腕に抱きつくように寄り添って甘えてくるシルヴィアが、自分を意識しているとは思えなかった。安心しきったその様子と、自分が要求したまま続いていた「兄様」という呼びかけも、それを表していたと思う。それでも、シルヴィアが自分以外の誰かのものになることなど、想像ですら許せなくて、色々言い訳をして妻にした。
母を奪っていったアウグストから、そしてカルロやバルトロメオとの結びつきを狙う貴族から、シルヴィアを守りたかった。皇后にさえなってしまえば、余計な横槍は入らない、入れさせない。そこでもし、シルヴィアが本当に想う人ができたなら。アウグストがしていたように、「下賜」という形も取れる。白い結婚であることは、後からでも証明されるだろう。
誰にも渡したくないと思うのに、もしそうなったら、という誰のためにかわからない逃げ道を作ったが、それがカルロ自身を追い詰めた。いざ、いつでも触れ合える距離にシルヴィアがいることになって、カルロのほうが今までどおりではいられなかった。シルヴィアの方は、きっとなんの躊躇いもなくベッドでもカルロの隣にもぐりこんでくるだろう。それが分かるだけに、カルロはシルヴィアを避けてしまっていた。
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