17 / 45
17.兄2人(3)
しおりを挟む
その後も、三人でお茶をしたり、お忍びで街に下りたりと今までと変わらない関係は続いた。カルロにくっつきすぎるシルヴィアに、バルトロメオが小言を言ったり、ちょくちょくビアンカ嬢の話題がでること以外に、大きな変化はなかった。
そんな三人の関係が大きく変わったのは、トゥスクルム家が伯爵位を賜った頃からだ。シルヴィアは、少し難しい顔をしたバルトロメオからそのことを聞かされた。
何か悪いことなのか、と不安そうに兄の顔を見ると、
「これからは『カルロ様』とお呼びしなくてはね?」
と、誤魔化すように笑って頭を撫でられる。
次にカルロがシルヴィアの元を訪れるまでは、大分間が空いた。今まではカルロとバルトロメオが互いの屋敷を行き来するのは同じくらいの回数だったのが、格段にバルトロメオがカルロの屋敷に行くことが多くなったためだ。
バルトロメオはトゥスクルム家を訪問する際にシルヴィアを帯同しないので、カルロがロッシの屋敷に来ないことには会うことはできない。
今までにないほど長い期間が開いて、やっとロッシ家にやってきたカルロは、最後に見たときとはガラリと印象が変わっていた。
それは、成長期のために急に伸びた身長のためだけではなかった。纏う空気が鋭くピリピリとしていて、今まであった少年っぽさがすっかり抜けてしまっている。少し賢しくて生意気な美少年風だったのが、今や厳しく有能な美青年といった風情だ。
見た目の成長はともかく、あまりにも変わったその雰囲気に、つい立ち止まってしまう。それでも、シルヴィアを見ていつもの様に「ルヴィ、久しぶりだな」と表情を崩して呼んでくれたから、シルヴィアは今までどおりにしようと努めた。
「兄様!」
と呼んでその腕に抱きつくと、びくともせずに片手でシルヴィアを受け止める。急な変化に内心戸惑っているシルヴィアは、いつもの調子を取り戻そうと、伯爵位を賜ったことへのお祝いを、いつもどおりの軽い口調で述べた。
途端、カルロの顔から表情が抜け、口元が強張る。変化を察知したものの、何がいけなかったのか分からないシルヴィアが、慌てて言葉を重ねる。
「バルトロ兄様ったら、兄様のこと『カルロ様って呼ばないと』なんていうのよ。そんなの急に難しいよね」
いつものカルロに戻って欲しくて、ことさら明るい口調を意識するが、カルロの醸し出す雰囲気は固くなる一方で、シルヴィアは更に焦る。
「あ、でも、やっぱり、身分が違うから、ちゃんとカルロ様って呼んだほうがいい、かな?ねえ、カルロ様――」
「やめろ」
突然強い口調で制止されて、シルヴィアがびくっと身体を跳ねさせる。完全に思考停止に陥ったシルヴィアはカルロの服の袖を握ったまま動けない。視線を合わせることもできないシルヴィアは、カルロの襟元を見つめたまま息を止める。
思わず潤みそうになったシルヴィアの瞳に、カルロがはっと我に返る。
「ごめん、ルヴィ。カルロ様なんてやめてくれ。他人行儀で悲しくなる。兄様が嫌なら、カルロと」
「いいの?」
ようやくいつもの調子で話し始めたカルロに、シルヴィアが身体の力を抜く。
「もちろん」
「じゃあカルロ」
「外では『カルロ様』だよ、シルヴィア。カルロも」
二人を見守っていたバルトロメオが年長者らしく窘める。
「そうだ、お前は外では俺を『カルロ様』とか呼んで、感じ悪い」
「感じ悪いはないだろ。外では他の貴族の目もある。ちゃんと、他に人がいないところでは今までどおりにしてるじゃないか」
兄二人の掛け合いを見て、シルヴィアはほっと息をついた。
そんな三人の関係が大きく変わったのは、トゥスクルム家が伯爵位を賜った頃からだ。シルヴィアは、少し難しい顔をしたバルトロメオからそのことを聞かされた。
何か悪いことなのか、と不安そうに兄の顔を見ると、
「これからは『カルロ様』とお呼びしなくてはね?」
と、誤魔化すように笑って頭を撫でられる。
次にカルロがシルヴィアの元を訪れるまでは、大分間が空いた。今まではカルロとバルトロメオが互いの屋敷を行き来するのは同じくらいの回数だったのが、格段にバルトロメオがカルロの屋敷に行くことが多くなったためだ。
バルトロメオはトゥスクルム家を訪問する際にシルヴィアを帯同しないので、カルロがロッシの屋敷に来ないことには会うことはできない。
今までにないほど長い期間が開いて、やっとロッシ家にやってきたカルロは、最後に見たときとはガラリと印象が変わっていた。
それは、成長期のために急に伸びた身長のためだけではなかった。纏う空気が鋭くピリピリとしていて、今まであった少年っぽさがすっかり抜けてしまっている。少し賢しくて生意気な美少年風だったのが、今や厳しく有能な美青年といった風情だ。
見た目の成長はともかく、あまりにも変わったその雰囲気に、つい立ち止まってしまう。それでも、シルヴィアを見ていつもの様に「ルヴィ、久しぶりだな」と表情を崩して呼んでくれたから、シルヴィアは今までどおりにしようと努めた。
「兄様!」
と呼んでその腕に抱きつくと、びくともせずに片手でシルヴィアを受け止める。急な変化に内心戸惑っているシルヴィアは、いつもの調子を取り戻そうと、伯爵位を賜ったことへのお祝いを、いつもどおりの軽い口調で述べた。
途端、カルロの顔から表情が抜け、口元が強張る。変化を察知したものの、何がいけなかったのか分からないシルヴィアが、慌てて言葉を重ねる。
「バルトロ兄様ったら、兄様のこと『カルロ様って呼ばないと』なんていうのよ。そんなの急に難しいよね」
いつものカルロに戻って欲しくて、ことさら明るい口調を意識するが、カルロの醸し出す雰囲気は固くなる一方で、シルヴィアは更に焦る。
「あ、でも、やっぱり、身分が違うから、ちゃんとカルロ様って呼んだほうがいい、かな?ねえ、カルロ様――」
「やめろ」
突然強い口調で制止されて、シルヴィアがびくっと身体を跳ねさせる。完全に思考停止に陥ったシルヴィアはカルロの服の袖を握ったまま動けない。視線を合わせることもできないシルヴィアは、カルロの襟元を見つめたまま息を止める。
思わず潤みそうになったシルヴィアの瞳に、カルロがはっと我に返る。
「ごめん、ルヴィ。カルロ様なんてやめてくれ。他人行儀で悲しくなる。兄様が嫌なら、カルロと」
「いいの?」
ようやくいつもの調子で話し始めたカルロに、シルヴィアが身体の力を抜く。
「もちろん」
「じゃあカルロ」
「外では『カルロ様』だよ、シルヴィア。カルロも」
二人を見守っていたバルトロメオが年長者らしく窘める。
「そうだ、お前は外では俺を『カルロ様』とか呼んで、感じ悪い」
「感じ悪いはないだろ。外では他の貴族の目もある。ちゃんと、他に人がいないところでは今までどおりにしてるじゃないか」
兄二人の掛け合いを見て、シルヴィアはほっと息をついた。
0
お気に入りに追加
299
あなたにおすすめの小説

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。


婚約破棄と言われても、貴男の事など知りません。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
若き女当主、ルイジア公爵ローザ嬢は、王太子の婚約舞踏会だという事で、仕方なく王都にやってきていた。十三歳で初陣を飾ってから、常に王国のために最前線で戦ってきたローザは、ミルバル皇国から嫁いできた王妃に支配される下劣な社交界が大嫌いだった。公爵家当主の義務で嫌々参加していたローザだったが、王太子から戦場で兵士と閨を共にするお前などと婚約するのは嫌だと、意味不明な罵りを受けた。王家王国のために戦場で命がけの戦いをしてくれた、将兵を侮辱されたローザは、その怒りを込めた一撃を放った。

忌むべき番
藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」
メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。
彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。
※ 8/4 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。

成人したのであなたから卒業させていただきます。
ぽんぽこ狸
恋愛
フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。
すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。
メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。
しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。
それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。
そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。
変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。


悪役令嬢は処刑されないように家出しました。
克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。
サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる