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17.兄2人(3)
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その後も、三人でお茶をしたり、お忍びで街に下りたりと今までと変わらない関係は続いた。カルロにくっつきすぎるシルヴィアに、バルトロメオが小言を言ったり、ちょくちょくビアンカ嬢の話題がでること以外に、大きな変化はなかった。
そんな三人の関係が大きく変わったのは、トゥスクルム家が伯爵位を賜った頃からだ。シルヴィアは、少し難しい顔をしたバルトロメオからそのことを聞かされた。
何か悪いことなのか、と不安そうに兄の顔を見ると、
「これからは『カルロ様』とお呼びしなくてはね?」
と、誤魔化すように笑って頭を撫でられる。
次にカルロがシルヴィアの元を訪れるまでは、大分間が空いた。今まではカルロとバルトロメオが互いの屋敷を行き来するのは同じくらいの回数だったのが、格段にバルトロメオがカルロの屋敷に行くことが多くなったためだ。
バルトロメオはトゥスクルム家を訪問する際にシルヴィアを帯同しないので、カルロがロッシの屋敷に来ないことには会うことはできない。
今までにないほど長い期間が開いて、やっとロッシ家にやってきたカルロは、最後に見たときとはガラリと印象が変わっていた。
それは、成長期のために急に伸びた身長のためだけではなかった。纏う空気が鋭くピリピリとしていて、今まであった少年っぽさがすっかり抜けてしまっている。少し賢しくて生意気な美少年風だったのが、今や厳しく有能な美青年といった風情だ。
見た目の成長はともかく、あまりにも変わったその雰囲気に、つい立ち止まってしまう。それでも、シルヴィアを見ていつもの様に「ルヴィ、久しぶりだな」と表情を崩して呼んでくれたから、シルヴィアは今までどおりにしようと努めた。
「兄様!」
と呼んでその腕に抱きつくと、びくともせずに片手でシルヴィアを受け止める。急な変化に内心戸惑っているシルヴィアは、いつもの調子を取り戻そうと、伯爵位を賜ったことへのお祝いを、いつもどおりの軽い口調で述べた。
途端、カルロの顔から表情が抜け、口元が強張る。変化を察知したものの、何がいけなかったのか分からないシルヴィアが、慌てて言葉を重ねる。
「バルトロ兄様ったら、兄様のこと『カルロ様って呼ばないと』なんていうのよ。そんなの急に難しいよね」
いつものカルロに戻って欲しくて、ことさら明るい口調を意識するが、カルロの醸し出す雰囲気は固くなる一方で、シルヴィアは更に焦る。
「あ、でも、やっぱり、身分が違うから、ちゃんとカルロ様って呼んだほうがいい、かな?ねえ、カルロ様――」
「やめろ」
突然強い口調で制止されて、シルヴィアがびくっと身体を跳ねさせる。完全に思考停止に陥ったシルヴィアはカルロの服の袖を握ったまま動けない。視線を合わせることもできないシルヴィアは、カルロの襟元を見つめたまま息を止める。
思わず潤みそうになったシルヴィアの瞳に、カルロがはっと我に返る。
「ごめん、ルヴィ。カルロ様なんてやめてくれ。他人行儀で悲しくなる。兄様が嫌なら、カルロと」
「いいの?」
ようやくいつもの調子で話し始めたカルロに、シルヴィアが身体の力を抜く。
「もちろん」
「じゃあカルロ」
「外では『カルロ様』だよ、シルヴィア。カルロも」
二人を見守っていたバルトロメオが年長者らしく窘める。
「そうだ、お前は外では俺を『カルロ様』とか呼んで、感じ悪い」
「感じ悪いはないだろ。外では他の貴族の目もある。ちゃんと、他に人がいないところでは今までどおりにしてるじゃないか」
兄二人の掛け合いを見て、シルヴィアはほっと息をついた。
そんな三人の関係が大きく変わったのは、トゥスクルム家が伯爵位を賜った頃からだ。シルヴィアは、少し難しい顔をしたバルトロメオからそのことを聞かされた。
何か悪いことなのか、と不安そうに兄の顔を見ると、
「これからは『カルロ様』とお呼びしなくてはね?」
と、誤魔化すように笑って頭を撫でられる。
次にカルロがシルヴィアの元を訪れるまでは、大分間が空いた。今まではカルロとバルトロメオが互いの屋敷を行き来するのは同じくらいの回数だったのが、格段にバルトロメオがカルロの屋敷に行くことが多くなったためだ。
バルトロメオはトゥスクルム家を訪問する際にシルヴィアを帯同しないので、カルロがロッシの屋敷に来ないことには会うことはできない。
今までにないほど長い期間が開いて、やっとロッシ家にやってきたカルロは、最後に見たときとはガラリと印象が変わっていた。
それは、成長期のために急に伸びた身長のためだけではなかった。纏う空気が鋭くピリピリとしていて、今まであった少年っぽさがすっかり抜けてしまっている。少し賢しくて生意気な美少年風だったのが、今や厳しく有能な美青年といった風情だ。
見た目の成長はともかく、あまりにも変わったその雰囲気に、つい立ち止まってしまう。それでも、シルヴィアを見ていつもの様に「ルヴィ、久しぶりだな」と表情を崩して呼んでくれたから、シルヴィアは今までどおりにしようと努めた。
「兄様!」
と呼んでその腕に抱きつくと、びくともせずに片手でシルヴィアを受け止める。急な変化に内心戸惑っているシルヴィアは、いつもの調子を取り戻そうと、伯爵位を賜ったことへのお祝いを、いつもどおりの軽い口調で述べた。
途端、カルロの顔から表情が抜け、口元が強張る。変化を察知したものの、何がいけなかったのか分からないシルヴィアが、慌てて言葉を重ねる。
「バルトロ兄様ったら、兄様のこと『カルロ様って呼ばないと』なんていうのよ。そんなの急に難しいよね」
いつものカルロに戻って欲しくて、ことさら明るい口調を意識するが、カルロの醸し出す雰囲気は固くなる一方で、シルヴィアは更に焦る。
「あ、でも、やっぱり、身分が違うから、ちゃんとカルロ様って呼んだほうがいい、かな?ねえ、カルロ様――」
「やめろ」
突然強い口調で制止されて、シルヴィアがびくっと身体を跳ねさせる。完全に思考停止に陥ったシルヴィアはカルロの服の袖を握ったまま動けない。視線を合わせることもできないシルヴィアは、カルロの襟元を見つめたまま息を止める。
思わず潤みそうになったシルヴィアの瞳に、カルロがはっと我に返る。
「ごめん、ルヴィ。カルロ様なんてやめてくれ。他人行儀で悲しくなる。兄様が嫌なら、カルロと」
「いいの?」
ようやくいつもの調子で話し始めたカルロに、シルヴィアが身体の力を抜く。
「もちろん」
「じゃあカルロ」
「外では『カルロ様』だよ、シルヴィア。カルロも」
二人を見守っていたバルトロメオが年長者らしく窘める。
「そうだ、お前は外では俺を『カルロ様』とか呼んで、感じ悪い」
「感じ悪いはないだろ。外では他の貴族の目もある。ちゃんと、他に人がいないところでは今までどおりにしてるじゃないか」
兄二人の掛け合いを見て、シルヴィアはほっと息をついた。
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