初恋の人と結婚したけど夫は私を妹としかみていない~~喧嘩して家出したら敵国の捕虜になりました~~

藤花

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9.食後のコーヒー

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 ひと段落着いて、アッシュが食後のコーヒーをサーブする。フリッツはランチ前にコーヒーを飲んでいたので、マグに入っているのはカフェオレだ。

 フリッツの軍人らしからぬ気の抜けた態度と、歳の近いアッシュとの会話は、シルヴィアの口を年頃の娘らしく滑らかにさせた。

 相手が敵国の軍人だと後で改めて認識したら頭を抱えてしまいそうなやり取りではあったが、今のところシルヴィアはそれに気がついていない。



 フリッツも、差しさわりのない範囲で報告書に記載するつもりだが、どこかの誰かにとってエサになりそうな情報は伏せるつもりでいる。必要となれば後から分かったことにすればよいだけで、平和条約締結目前の今、これ以上余計な波風を立てたくない。



「さて、アンジェ。君には、君の処遇が決まるまで――つまり、帝国側となんらかの調整がつくまでここで生活してもらうことになる」



 正確には、調整がつくか、調整がつかないことがはっきりする(と共和国側が判断する)まで、ということになるが、あえてそれをシルヴィアに伝える必要はない。



 先ほどまでより改まった雰囲気のフリッツの言葉に、シルヴィアも居住まいを正す。



「共和国としての対応には何の保障もしてあげられないけれど、少なくとも私とアッシュはこの家では君の味方だ。ズボンを履きたくなったら遠慮なく言ってくれていいし、帝国式の食事が食べたければそう言ってくれればアッシュが頑張る」フリッツがちらっとアッシュを見ると、アッシュが力強く頷く「共和国としての判断が必要なこと以外は何でも叶えたいと思っている。逆に、言ってもらえないとわからない。我慢しないで。君に必要な努力は我慢ではなく、言葉で我々に伝えることだ。いいね?」



 ズボンを履きたくなったら、はスカート丈についてのことを指しているのだろう。真剣なトーンで告げられたそれは、シルヴィアへの気遣いに満ちている。



「はい。フリッツ様」



 ずっと、恐ろしいと思っていた敵国の人間、しかも高位軍人の意外な姿ばかりを見せられ、温かい気持ちで返事をする。



 その国民個人の善良さと、国としての善良さは違う。頭ではわかっていたけれど、目の当たりにすると戸惑いも大きい。それが軍の中枢近い立場の人間であればなおさらだ。

 シルヴィアは、「良い人」にしか見えないフリッツに安心しつつも、胸の奥につかえるものを感じる。アッシュの口から兄の名前が出て思い出した。バルトロメオが指揮した戦いで、唯一の黒星。その時、共和国の艦隊を率いていた提督の名として、カルロがクロフォードの名を口にしていたことを。



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