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六、再びの熱。
六、再びの熱。 一
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Side:アレイスター=フラメル
ピリピリと痛む。
空気も張り詰めていて、気分が悪かった。
王座に座った俺の前で、青ざめた家来と厨房のコックと家政婦長と配膳担当の従者が並ぶ。
大臣や医者に怒鳴られながらも身を縮めて耐えている。
億劫だが、今すぐに犯人を見つけなければいけない。
朝食の時にその事件は起きた。だから面倒で、仕方がない。
俺だけならば問題は無い。だが、もしシアンの身にも起こっていたらと不安になって、――もう数週間もまともに会っていなかったのに彼の元へ急いだ。
シアン。
「朝食の準備はいい。止めろ」
教会に食事を運ぼうとした女中を呼びとめた。
「朝食は全部回収しろ。料理場でお前達に聞きたいことがある。すぐに戻れ」
俺の言葉に、女中は顔色を変えて慌てて料理場へ下がっていく。
「ユアンはどこだ?」
教会の神父に聞くが、首を傾げている。
「もうシアン様の傍にお仕えしているのかもしれません」
「……そうか」
一部の人間しかこの事件はまだ伝えていないのだが。
ユアンはいち早く察して、駆けつけたのかもしれない。
だが、シアンの二階の部屋を見上げると、窓が開いていた。
そして、緑葉の深い匂い鼻孔を擽った。
ユグドの、強い香り。
「シアン!」
居ても経っても居られず、シアンの部屋へ入ると、そこにはシアンとユアンが疲れ切った顔で眠っていた。
「……!?」
シアンの泣きはらした瞳は赤く腫れ、ユアンは疲れ切った顔で眠っている。
同じベッドの中、寄り添って眠っている。
布団を乱暴にめくれば、ユアンの服は乱れてはだけていた。
「どういうことだ!」
ユアンの胸倉を掴むと、二人が驚いて目を覚ました。
そして俺の顔を見て目を見開いている。
「昨晩、二人で何をしていたんだ! 生き神であるシアンに手を出したのか!」
「ち、違います。どうかお話をお聞きください」
「王子、ユアンを離して。私が一緒に眠るように頼んだんです」
悪びれる様子もない二人にまたまた頭に血が上ってしまう。
「そうか。恋人の息子に乗り換えるのか」
「王子!」
「こい、シアン。色目ばかり使っている時ではない」
腕を引っ張ると、シアンはベッドの縁を掴んで、立ち上がるのを拒んだ。
「何をしている!」
「信じて下さってないならば、一緒にいきません」
「シアン!」
「私に酷いことをして、傷つくのは貴方なんですからっ」
じわりとシアンの目に涙が溜まる。
俺はシアンの瞳が再び失望で染まるのが怖くて、手を離した。
どうしてもシアンのことになると冷静な判断ができない。
怯えて床に土下座しているユアンを抱き起すと、シアンは俺を睨みつけた。
本当に何もなかったのだろうか。
だが今はそれは、追及することではない。
「今朝、俺の朝食に毒が盛られていた」
「毒?」
「婚礼前だから謀反が一番懸念されている。イユが居ない今、俺とシアンの護衛を強化する。一緒に行くぞ」
「そ、んな」
言葉を失うと、みるみると顔を青ざめさせる。
「俺も! 俺も行きます! 俺がシアン様をお守りします!」
動揺して固まるシアンの横で、ユアンが乞うが俺は冷ややかだった。
「昨日の晩のアリバイが無い者には、護衛はさせない」
「昨日は、――昨日は私と一晩一緒にいましたっ この国で一番発言力があるのは誰でしょうか」
シアンの震える声に、更に苛立った。
怖いくせに、ユアンを庇うのだから。
手元に置いていないと結局は不安なんだ。
シアンが居ないと、敵がいるこの城は不安なんだ。
こんなにも、美しいこの人を愛して心配しているのに。
どうしてこの人は俺のモノにならない。
どうして結ばれてはいけないんだ。
何年も葛藤してきたこの言葉に、再び胸を抉られた。
「犯人が見つかるまで、俺の目の届く範囲に居て貰う。もう、あんな理不尽なことはしない。来い、シアン」
「……王子」
俺が伸ばした手を、まだ怖いだろうに気丈にも手を取った。
この人を守りたい。
美しくも壊れてしまいそうなこの人を。
ピリピリと痛む。
空気も張り詰めていて、気分が悪かった。
王座に座った俺の前で、青ざめた家来と厨房のコックと家政婦長と配膳担当の従者が並ぶ。
大臣や医者に怒鳴られながらも身を縮めて耐えている。
億劫だが、今すぐに犯人を見つけなければいけない。
朝食の時にその事件は起きた。だから面倒で、仕方がない。
俺だけならば問題は無い。だが、もしシアンの身にも起こっていたらと不安になって、――もう数週間もまともに会っていなかったのに彼の元へ急いだ。
シアン。
「朝食の準備はいい。止めろ」
教会に食事を運ぼうとした女中を呼びとめた。
「朝食は全部回収しろ。料理場でお前達に聞きたいことがある。すぐに戻れ」
俺の言葉に、女中は顔色を変えて慌てて料理場へ下がっていく。
「ユアンはどこだ?」
教会の神父に聞くが、首を傾げている。
「もうシアン様の傍にお仕えしているのかもしれません」
「……そうか」
一部の人間しかこの事件はまだ伝えていないのだが。
ユアンはいち早く察して、駆けつけたのかもしれない。
だが、シアンの二階の部屋を見上げると、窓が開いていた。
そして、緑葉の深い匂い鼻孔を擽った。
ユグドの、強い香り。
「シアン!」
居ても経っても居られず、シアンの部屋へ入ると、そこにはシアンとユアンが疲れ切った顔で眠っていた。
「……!?」
シアンの泣きはらした瞳は赤く腫れ、ユアンは疲れ切った顔で眠っている。
同じベッドの中、寄り添って眠っている。
布団を乱暴にめくれば、ユアンの服は乱れてはだけていた。
「どういうことだ!」
ユアンの胸倉を掴むと、二人が驚いて目を覚ました。
そして俺の顔を見て目を見開いている。
「昨晩、二人で何をしていたんだ! 生き神であるシアンに手を出したのか!」
「ち、違います。どうかお話をお聞きください」
「王子、ユアンを離して。私が一緒に眠るように頼んだんです」
悪びれる様子もない二人にまたまた頭に血が上ってしまう。
「そうか。恋人の息子に乗り換えるのか」
「王子!」
「こい、シアン。色目ばかり使っている時ではない」
腕を引っ張ると、シアンはベッドの縁を掴んで、立ち上がるのを拒んだ。
「何をしている!」
「信じて下さってないならば、一緒にいきません」
「シアン!」
「私に酷いことをして、傷つくのは貴方なんですからっ」
じわりとシアンの目に涙が溜まる。
俺はシアンの瞳が再び失望で染まるのが怖くて、手を離した。
どうしてもシアンのことになると冷静な判断ができない。
怯えて床に土下座しているユアンを抱き起すと、シアンは俺を睨みつけた。
本当に何もなかったのだろうか。
だが今はそれは、追及することではない。
「今朝、俺の朝食に毒が盛られていた」
「毒?」
「婚礼前だから謀反が一番懸念されている。イユが居ない今、俺とシアンの護衛を強化する。一緒に行くぞ」
「そ、んな」
言葉を失うと、みるみると顔を青ざめさせる。
「俺も! 俺も行きます! 俺がシアン様をお守りします!」
動揺して固まるシアンの横で、ユアンが乞うが俺は冷ややかだった。
「昨日の晩のアリバイが無い者には、護衛はさせない」
「昨日は、――昨日は私と一晩一緒にいましたっ この国で一番発言力があるのは誰でしょうか」
シアンの震える声に、更に苛立った。
怖いくせに、ユアンを庇うのだから。
手元に置いていないと結局は不安なんだ。
シアンが居ないと、敵がいるこの城は不安なんだ。
こんなにも、美しいこの人を愛して心配しているのに。
どうしてこの人は俺のモノにならない。
どうして結ばれてはいけないんだ。
何年も葛藤してきたこの言葉に、再び胸を抉られた。
「犯人が見つかるまで、俺の目の届く範囲に居て貰う。もう、あんな理不尽なことはしない。来い、シアン」
「……王子」
俺が伸ばした手を、まだ怖いだろうに気丈にも手を取った。
この人を守りたい。
美しくも壊れてしまいそうなこの人を。
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