上 下
30 / 44
六、再びの熱。

六、再びの熱。 一

しおりを挟む
 Side:アレイスター=フラメル


 ピリピリと痛む。
 空気も張り詰めていて、気分が悪かった。
 王座に座った俺の前で、青ざめた家来と厨房のコックと家政婦長と配膳担当の従者が並ぶ。
 大臣や医者に怒鳴られながらも身を縮めて耐えている。
 億劫だが、今すぐに犯人を見つけなければいけない。

 朝食の時にその事件は起きた。だから面倒で、仕方がない。

 俺だけならば問題は無い。だが、もしシアンの身にも起こっていたらと不安になって、――もう数週間もまともに会っていなかったのに彼の元へ急いだ。


シアン。


「朝食の準備はいい。止めろ」


 教会に食事を運ぼうとした女中を呼びとめた。

「朝食は全部回収しろ。料理場でお前達に聞きたいことがある。すぐに戻れ」

 俺の言葉に、女中は顔色を変えて慌てて料理場へ下がっていく。

「ユアンはどこだ?」

 教会の神父に聞くが、首を傾げている。

「もうシアン様の傍にお仕えしているのかもしれません」
「……そうか」

 一部の人間しかこの事件はまだ伝えていないのだが。
 ユアンはいち早く察して、駆けつけたのかもしれない。

 だが、シアンの二階の部屋を見上げると、窓が開いていた。


 そして、緑葉の深い匂い鼻孔を擽った。
 ユグドの、強い香り。


「シアン!」


 居ても経っても居られず、シアンの部屋へ入ると、そこにはシアンとユアンが疲れ切った顔で眠っていた。


「……!?」

 シアンの泣きはらした瞳は赤く腫れ、ユアンは疲れ切った顔で眠っている。
 同じベッドの中、寄り添って眠っている。
 布団を乱暴にめくれば、ユアンの服は乱れてはだけていた。


「どういうことだ!」

 ユアンの胸倉を掴むと、二人が驚いて目を覚ました。
 そして俺の顔を見て目を見開いている。


「昨晩、二人で何をしていたんだ! 生き神であるシアンに手を出したのか!」
「ち、違います。どうかお話をお聞きください」
「王子、ユアンを離して。私が一緒に眠るように頼んだんです」

 悪びれる様子もない二人にまたまた頭に血が上ってしまう。

「そうか。恋人の息子に乗り換えるのか」
「王子!」
「こい、シアン。色目ばかり使っている時ではない」

 腕を引っ張ると、シアンはベッドの縁を掴んで、立ち上がるのを拒んだ。

「何をしている!」

「信じて下さってないならば、一緒にいきません」

「シアン!」

「私に酷いことをして、傷つくのは貴方なんですからっ」


 じわりとシアンの目に涙が溜まる。
 俺はシアンの瞳が再び失望で染まるのが怖くて、手を離した。
 どうしてもシアンのことになると冷静な判断ができない。
 怯えて床に土下座しているユアンを抱き起すと、シアンは俺を睨みつけた。

 本当に何もなかったのだろうか。
 だが今はそれは、追及することではない。


「今朝、俺の朝食に毒が盛られていた」
「毒?」
「婚礼前だから謀反が一番懸念されている。イユが居ない今、俺とシアンの護衛を強化する。一緒に行くぞ」

「そ、んな」

 言葉を失うと、みるみると顔を青ざめさせる。
「俺も! 俺も行きます! 俺がシアン様をお守りします!」

動揺して固まるシアンの横で、ユアンが乞うが俺は冷ややかだった。


「昨日の晩のアリバイが無い者には、護衛はさせない」
「昨日は、――昨日は私と一晩一緒にいましたっ この国で一番発言力があるのは誰でしょうか」

 シアンの震える声に、更に苛立った。
 怖いくせに、ユアンを庇うのだから。
 手元に置いていないと結局は不安なんだ。
 シアンが居ないと、敵がいるこの城は不安なんだ。
 こんなにも、美しいこの人を愛して心配しているのに。
 どうしてこの人は俺のモノにならない。
 どうして結ばれてはいけないんだ。


 何年も葛藤してきたこの言葉に、再び胸を抉られた。


「犯人が見つかるまで、俺の目の届く範囲に居て貰う。もう、あんな理不尽なことはしない。来い、シアン」
「……王子」


 俺が伸ばした手を、まだ怖いだろうに気丈にも手を取った。
 この人を守りたい。
 美しくも壊れてしまいそうなこの人を。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

潜入した僕、専属メイドとしてラブラブセックスしまくる話

ずー子
BL
敵陣にスパイ潜入した美少年がそのままボスに気に入られて女装でラブラブセックスしまくる話です。冒頭とエピローグだけ載せました。 悪のイケオジ×スパイ美少年。魔王×勇者がお好きな方は多分好きだと思います。女装シーン書くのとっても楽しかったです。可愛い男の娘、最強。 本編気になる方はPixivのページをチェックしてみてくださいませ! https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21381209

王子様のご帰還です

小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。 平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。 そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。 何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!? 異世界転移 王子×王子・・・? こちらは個人サイトからの再録になります。 十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。

涙は流さないで

水場奨
BL
仕事をしようとドアを開けたら、婚約者が俺の天敵とイタしておるのですが……! もう俺のことは要らないんだよな?と思っていたのに、なんで追いかけてくるんですか!

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

生贄として捧げられたら人外にぐちゃぐちゃにされた

キルキ
BL
生贄になった主人公が、正体不明の何かにめちゃくちゃにされ挙げ句、いっぱい愛してもらう話。こんなタイトルですがハピエンです。 人外✕人間 ♡喘ぎな分、いつもより過激です。 以下注意 ♡喘ぎ/淫語/直腸責め/快楽墜ち/輪姦/異種姦/複数プレイ/フェラ/二輪挿し/無理矢理要素あり 2024/01/31追記  本作品はキルキのオリジナル小説です。

国王様は新米騎士を溺愛する

あいえだ
BL
俺はリアン18歳。記憶によると大貴族に再婚した母親の連れ子だった俺は5歳で母に死なれて家を追い出された。その後複雑な生い立ちを経て、たまたま適当に受けた騎士試験に受かってしまう。死んだ母親は貴族でなく実は前国王と結婚していたらしく、俺は国王の弟だったというのだ。そして、国王陛下の俺への寵愛がとまらなくて? R18です。性描写に★をつけてますので苦手な方は回避願います。 ジュリアン編は「騎士団長は天使の俺と恋をする」とのコラボになっています。

帝国皇子のお婿さんになりました

クリム
BL
 帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。  そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。 「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」 「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」 「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」 「うん、クーちゃん」 「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」  これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。

くっころ勇者は魔王の子供を産むことになりました

あさきりゆうた
BL
BLで「最終決戦に負けた勇者」「くっころ」、「俺、この闘いが終わったら彼女と結婚するんだ」をやってみたかった。 一話でやりたいことをやりつくした感がありますが、時間があれば続きも書きたいと考えています。 21.03.10 ついHな気分になったので、加筆修正と新作を書きました。大体R18です。 21.05.06 なぜか性欲が唐突にたぎり久々に書きました。ちなみに作者人生初の触手プレイを書きました。そして小説タイトルも変更。 21.05.19 最終話を書きました。産卵プレイ、出産表現等、初めて表現しました。色々とマニアックなR18プレイになって読者ついていけねえよな(^_^;)と思いました。  最終回になりますが、補足エピソードネタ思いつけば番外編でまた書くかもしれません。  最後に魔王と勇者の幸せを祈ってもらえたらと思います。 23.08.16 適当な表紙をつけました

処理中です...