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三、思念

三、思念 一

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 職務室で街のイベント関係の書類や王室の仕事を片付けていると、ノックもなしにイユがはいってきた。
 イユはそのまま、俺の後ろの吹き抜けになっている窓辺に立つ。
「王子、国民にはいつ目覚めたことを伝えますか?」

 イユが、城の重たい雰囲気を掻き消す様に言う。
 この数日の空気の悪さと俺の目に見える不機嫌さから、イユが嘆息しながら言う。

「……シアンがあんな様子では、すぐに伝えてお祝いなどできやしない」

 シアンはここ数日、シアンが眠っていた教会に引きこもり、俺の父から20年間の話を聞いているらしい。
 ただ、すごく儚げで今にも消えてしまいそうな透明な白い肌で、元気な様子ではないとか。

「あんな様子ねえ。全部幼いあんたのガキ臭い行動が原因だろ」
「イユ」
「悪いが二人きりの時は顔を立ててやらねえよ」

生意気にも俺に意見できる立場ではないが、こうやって年上面するから嫌いだ。

「20年間眠って起きたら、時間が進んでいたが自分は歳を取っていない。不安で心細かったシアンに王子は自分の感情をぶつけただけ。眠ってたのはシアンのせいじゃないのに、可哀相だ」

「国民の命もシアンの命も同じ重さだ。俺達の命の為にシアンが犠牲になるのは嫌だ」

 20年前、シアンのおかげで命を救われたが、それはシアンが白蛇と契ったからだと聞かされて怒りが込み上げてきた。

 自分の出生や受けて来た扱いから、自分を過小評価し自信なんて持てないとイユに聞かされた。

 だがシアンの身体は魔力で溢れている。
 老木でもういつ腐り落ちるかも分からないユグドを、自分の魔力で守っていた白蛇が、ユグドを守るためにシアンの魔力を使った。白蛇もまた力が弱まっていたから。

 本来神の恩恵を受けるには、交わらないといけないと言われている。
 つまりあの白蛇は、シアンと交わった。
 そう思うと怒りで震えてしまう。


「そうは言っても蛇神とシアンが契らなかったらこの国は今頃一面焼け野原だったろうし」

「だったら、シアンではなく俺でも良いだろう。俺なら王族の血を継ぐ。見目麗しく生まれないと他国との縁談と言う生きる戦略が使えない。故に常に美形しか生まれない」

「そうだね。だからダメなんだろうね。色んな血が混ざりすぎてる。ユグドの血が濃くなきゃ」

「ふん。じゃあ俺がこの先もシアンの傍から離れなかったら白蛇は来ないんだろ。ユグドの血を受け継ぐならば生贄は国民から募集すればいい」

「それさ。間違ってもシアンの前で言わない方がいい。更に嫌われたくなかったら」


 シアンに嫌われても、シアンを守りたい。
 シアンは自分の事なんていつも後回しだし、国民の為ならばと喜んでこれからも身を捧げてしまいそうだ。
 シアンが俺を好きになって、俺と結ばれたいとそう願ってくれないことは分かり切っている。
 俺の親とイユに拾われたような人だから、その二人の考えが身体の隅々まで行き渡っている。
 俺だって、シアンの為によその国の女と結婚する。

「教会にいってくる」
「止めた方がいいんじゃねえか」
「じゃあ止めてみせろ」

「途中までだぞ、お見送りするのは」

 教会とは言っても、ここに入れたのは俺とイユとユアン、父、そして国の司祭だけ。
 ユグドの守り神である白蛇が炎が苦手と知り、シアンの眠っていた水晶体の周りには常に炎を燃やしていた。
 なので白蛇はシアンには近づけないはずだ。
 真っ白い天井、吹き抜けの正面の壁、ステンドグラスで彩られた横壁。
 その中央のパイプオルガンの椅子に座り、俺の親父と話しているのはシアンだった。

 数日前に手荒いことをしたので嫌われているのは自覚していた。
 だから気まずかったが俺を見た瞬間立ち上がり会釈した。


「王子、こんにちは」

「父と何を話してたんだ」

「……私の口からは」

「四人の正室の話だよ」

白髪頭だが今だ現役の王である俺の父親が四本の指を出してきた。

「まだ二人しか正室が決まってなかったから三人目を決めようとね」

「そうか。一人はシアンなんだよな」

 俺がシアンの横に来ると、さっきまでシアンが座っていた椅子を促された。
 それが気に入らず俺は地面に胡坐を掻いて座った。

「ダージリス姫はまだ8歳だろ。正室になりたいと言って来てくれた姫があと三人いる。全員おもてなしして、お前が良い人を選べ」

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