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二、開花
二、開花 22
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辰紀くんの熱は三日三晩続いた。
まだ熱が引かなかったが、会話ができるまで回復した彼の口にお粥を運ぶ。
少しだけ心を開いてくれた彼に、私はどうしても真実を伝えたかった。
「菫さんは、有栖川家の分家でした」
私の言葉に目を泳がせたので、しゃべらなくていいから聞いてほしいとだけ伝えた。
「祖父は運命だと知り番になった。元々、分家から出たオメガは本家が囲うのが当たり前だったようです」
有栖川家もアルファが正しく、オメガは子を産む以外の地位は低いと憐れむ存在だと思っていたようだ。
なので菫さんと結婚することが家の安泰だと思っていたし、運命の番なのであれば政略結婚でも大切にできると思ったのだろう。
「でも互いに好きな人ができた。菫さんは家のために好きな人を諦め、祖父は好きな人を選んだ」
祖父が番になった後に、菫さんの身体に相手の子が宿っていると知ったあとに、好きな人を選んだのだ。祖父は自分の子ではないのならば諦めてほしいと説得したが、菫さんは拒否。愛する人を諦めたのだから産ませてほしいと。
祖父も葛藤したが、運命の相手が誰とも知らない相手の子を産むのは納得できなかったし、もう気持ちはイタリア人の祖母の元にあった。菫さんの気持ちを聞いてあげることはどうしてもできない。
産むならばそばに居られないとお互いが拒絶した。
番になった二人は、互いの匂いでしか発情しない。
「菫さんは子どもを育てるお金と、有栖川家からの自由が欲しい。祖父は愛する人と愛しあいたい」
なので二人は運命でありながら、別々の道を選んだ。
祖父は隣の部屋で菫さんを置き、その匂いで発情して好きな人を抱いた。
菫さんは、好いた人がいながら運命の匂いに負けて身体を許して番になってしまった自分を恥じ、自分を罰するために。そして運命を終わらせるためにあの花を食べ始めたという。
あの花を食べた菫さんの存在は運命であろうと、隣の部屋に居ても祖父は頭痛で苦しませられた。
それでも傍に置こうとしたので菫さんは、祖父ではなく、祖母への風当たりが強くなっていったらしい。
分家でもあり菫さんの立場は運命の番であり正式な婚約者だ。
外国の血が流れる祖母は、愛人同然の存在で屋敷内でも軽んじられていた。
祖母の取り巻きに回る人も多く、祖父も心が痛んだという。
自分勝手な人だ。運命にあったからと番になったあとで別の人を好きになるなんて。
そして運命の相手に子どもがいたからと、好きな人を選ぶなんて。
それで菫さんには、子どもを産むための環境を整え家を与えそちらに移るように伝えると、「飾りの妻になるぐらいならきちんと終わらせてほしい」と、婚約を破棄を迫られそれを了承したようだ。
菫さんは婚約破棄後に母方の姓を名乗る。
それでも自分に気持ちがない彼女と番い、匂いだけを求めて傍に置いたこと。
祖父は彼女の人生を狂わせたことをずっと後悔していた。
そして亡くなる一年前だろうか。祖父は私に全て権利を渡すと、祖母がいるイタリアへ向かった。最期は祖母と一緒に居たいと。
「身勝手な人です。菫さんが運命もアルファも、有栖川家も憎むのは分かります。それでも、辰紀くんが生まれたときに、貴方に同じ苦しみを味合わせたくなくて、守りたくてこうするしかなかったと言っていたんです。彼女の生涯を考えたら、私は彼女を責められない。祖父は運命を大切にしなかった最低な人だと思ってくださっていいですが、どうか菫さんのことは怒らないで上げてくださいね」
私が必死で、早口で説明したせいだろうか。辰紀くんは頷いてから少し口を微笑ませる。
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