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二、開花

二、開花 ⑭

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「辰紀くん」

 僕の隠れている部屋の入った瞬間、竜仁さんが安心した声で名前を呼ぶ。
 そうか。匂いか。隠れていても匂いでばれてしまうのか。
 僕が隠れていたのはソファのシーツの中。
 ソファの足の下に隠れて、丸まっていたら彼の足が見えた。
 目の前で座り込んではいるが、シーツを取り外そうとはしない。

「昨晩は怖かったですか」
 優しい声で、核心を迫られて涙がこみ上げてくる。
 そうだ。
 心が割れそうなほど痛かった。
 何度止めてと伝えても止めてくれない。
 痛かった。
 怖かった。
「もう、やめたい。……僕は貴方のお人形じゃない。放って置いて欲しい」
 気持ちが悪かった。途中で吐いたかもしれない。シャワーで身体を洗い流してくれたのは覚えているけど、それ以外の記憶はただただ気分が悪かっただけ。
 揺さぶられ貫かれ、竜仁さんが動く度に一緒に動くだけの人形。
 人形にされるなら感情が消えて欲しい。
「辰紀くん」
「昨日は、僕は貴方の性欲処理の道具だった」
 自分で言ったくせに、その真実が辛くて咳をきったように涙がこぼれた。
 悲しくて苦しくて、このまま消えてしまいたい。
「あんな扱いを受けるなら、僕はもう消えたい」

 シーツの中で丸まって、それでしか自分の身を守れない。
 錠剤を持つ手が、情けないほど震えていた。


「なんで花を食べただけなのに」
「辰紀くん」
 シーツの上から声をかけるだけだった彼が手を入れてきたので足で蹴った。
 丸まっていたのでどちらに頭があるか分からなかったようだ。

「あの花は、栄養はないし強いオメガの香りを放つために生気を奪います。そしてアルファを陥れるための毒を含んでいる。君の身体は今、毒に侵されているんですよ」

 怖がらせるだろうから黙っていました、と竜仁さんは言う。
 毒に侵されているから、錠剤と違い生花を食べることは禁止されているらしい。
 錠剤の方はまだ緩和されている。が、正確な規定はないので、作った人によって錠剤の成分も濃度も違う。
 作る人の匙加減。だから日本では規定が出来るまで輸入も禁止されているし、オメガにどれぐらい影響があるかわからないので、試すわけもできず薬の開発は進んでいない。

 僕は錠剤で摂取していたのではなく花から直接摂取していた。
 本来ならば中毒症状のために病院で治療を受けることも考えたが、本人の意思ではなく食べていなかったとはいえ成人しているので、罰せられるかもしれない。

「辰紀くんは何も悪くないのに、君の経歴に傷がつくのが嫌だった。私の我が儘なんだ」
「治療って言いたいの。ただタダでセックスしたいだけじゃん」
「そう感じたのなら私の愛情表現が下手だったのか足りなかったのかな。番にしたいぐらいには君を大切に思っているつもりなんですよ」
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