花喰らうオメガと運命の溺愛アルファ

哀木ストリーム

文字の大きさ
上 下
27 / 55
二、開花

二、開花 ③

しおりを挟む

***


 食事のあと、寝癖を直してくれて、イタリア語の小説を何冊か持ってきた。

「祖母の小説なんだ」
「……そう」
 僕の祖母が傷ついた原因でもある人の本。
 だがよくよく聞いてみると、彼の祖母が書いた本だという。
 そんな話をしていたような気もするけど、僕には関係ないのに。

「訳ができないとき、聞いてもいいかな」

 どうやら僕に読ませ、自分も読むつもりのようだ。

「貴方もすごい神経してるんですね」
 へっと鼻で笑うと、彼は少し驚いたように目を見開いた。

 自分の祖母の翻訳を、婚約破棄した祖母の孫の僕にさせる。
 残酷だと思わない貴方は、やはりすこし僕と価値観がずれてるのかもね。

 ベットのそばに一人用のソファを持って来て、本を読みだした。
 分からない言い回しを聞いてくるあたり、この人は僕が憎いとか嫌いと言った感情はないようだ。アルファのくせに対等に接しようとしてくれているのかな。
 ボロボロの本は、付箋を何枚も貼っていて独学で読もうとした痕跡が見られた。
 純粋に祖母の本が読みたいだけで、その感情が先走りして僕を傷つけるとは思っていないようだ。

 僕と同じで周りの大人に聞けなかった、聞ける人が居なかったんだろうって伝わってきた。
 アルファのくせに僕と同じ部分があるなんて不思議な人だ。
「お金持ちのくせに」
「んん? 急にどうしたの」
「お金持ちなら、さっさとイタリア語喋れる美女でも捕まえて読み聞かせしてもらえただろうし、雇えるでしょ」
 それかイタリア語を習ったり。
 その年でアルファが誰かに頭を下げて何か習うのは考えられないか。
 ボロボロになった本を閉じ、彼は何から説明しようか考えているようだった。
「うーん。一応、日本での発売権は手に入れているんだ。あとは祖母の本の翻訳家を探すだけなんだけど、私と同じ感性の人がいいなって。語彙力が高いとか上手い言い回しに変えなくていい。私と同じ気持ちで訳してくれる人、ってことで」
「自分で翻訳したいってこと?」
「あーなるほど。極論だけどそうだね。でも私は、書き手ではなく読み手の位置に居たい。ずっと」
 そして僕に微笑んでくる。確かに綺麗な顔だから、微笑まれたら女性なんて簡単に転がるだろう。でも僕に微笑むなんて、何かを企んでいることだけしかわからない。
「君が書いてくれないか。辰紀くん」
「……まさか」
 そんな力量もない。学も知識もない。

「僕が少しも憎くないと思ってるの?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

噛痕に思う

阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。 ✿オメガバースもの掌編二本作。 (『ride』は2021年3月28日に追加します)

処理中です...