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地獄の火クラブ

非道な魔法

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 地獄の火クラブ編のボツとなった話です。

 ディックが無名の男にSM的に痛めつけられる話です。

   ***

 聖堂の隅でちょこんと胡座を掻いているディック。

 女性もいると言うのに彼は衣服を全て剥がされた上に、赤い縄で縛られていた。

 胸や尻を強調させるように走る縄が蛇のようで扇状的だ。

 腕を後ろに回した状態で固定され、首と両足首を繋ぐように縄が伸びている。いわゆる胡座縛りだ。

 数ある緊縛の中でも特に拘束力が強いとされる縛り方で、強制的に前傾姿勢を取らされることとなるので縛られる側にはかなりの負担を強いられる。

 その上無理やり足を開かせられるので、貞操具で雄としての尊厳を奪われているのが丸見えだ。

「ほら、周りを見回してごらん。たくさんの人が君の恥ずかしい姿を見ているよ」

 酒を片手に下卑た目で見下ろす中年。

 遠くから興味深そうに見つめるご婦人方。

 豪華な食事にありつきながら時折こちらをチラチラと見るバンドメンバー達。

 同業者である夢魔達からは羨望の眼差しを向けられる。

 バンドメンバーと同じく未だに肉を食べているヴェルトから、道端に吐き捨てられた痰を見るような目で睨まれて。

 その隣にいる主人のダーティは実に楽しそうに口角を上げていた。

 ディックは小さく唸って眉根に皺を寄せる。

「最初は気持ち良いのからやろうか」

 と言った後、男はディックの体を横に倒した。

「本当は逆さまにしてやりたいんだがな。君は重いからなぁ」

 床に置いていた革のバッグを漁り、黒い物を取り出す。

 凶悪なサイズのディルドだ。

「ほら、ご挨拶して」

 男がディックの口元へ近付けた。

 誰に包まれたのか全く分からないソレを、ディックは躊躇いなく口に含みする。

「いやぁ、本当に良く躾けられている。ご主人の手腕が素晴らしいんだろうね」

 おしゃぶりを取り上げるように張形を口から引き抜くと、唾液を潤滑油としてそのまま一気に全て夢魔の中へ。

「ん゛……っ!?」

「痛いでしょ? でもそれすら悦びに変えてしまう」

 男の言う通り、ディックの中で痛みが快感へと変わってゆく。大勢に見守られながら、表情をとろけさせる。

 ディックは早々に気を逸し、体を震わせる。

「あぁ……可愛い。可愛いよディック君」

 男は感嘆の声を漏らし、ディルドを動かしながらはち切れんばかりに膨らんでいる彼の睾丸を手で包み込む。

「あっ……あのっ」

「ん? 何かな」

 これ以上は話してはいけない。そう理解しているはずなのに……

 ディックは息を荒くしながら更に続ける。

「このまま……タマ潰してほしい……です」

 ディックの懇願に間を置いて男は破顔した。

「いや、君と同じ男としてその願いは聞けないな。まぁ、手のひらで軽く叩いてやるくらいなら」

 手のひらでペシン! と睾丸を叩かれたディックは「お゛っ♡♡」と情けない声を上げ少量のスペルマを漏らす。

「ディック君のチンコ、もうすっかりバカになってしまってる。これじゃもう使い物にはならない……残念だね? せっかく良いモノ持ってるのに、もう2度と男も女も抱けないんだ」

 それどころか。と更に男は続ける。

「ケージに入れられてるせいでオナニーすらマトモにできないんだろ? ……同じ男として同情するよ。さっきみたいに射精できたとしても、手や膣に包まれながら射精するよりも遥かに快感が少ないはずなんだ」

「お゛っ♡♡ ……ぐぅうぅっ♡」

 ディックは飢えた雄の部分を疼かせながら雌の喜びに身を投じる。

 まるでカウパーのように精液を滴らせる。

「まるで小便を垂れ流す子供だな……いや、これじゃ子供以下だよ。さて……そろそろ痛いのが欲しいだろ?」

 ディックは何度も頷いた。

「じゃあやろうか。覚悟するんだ」

 男はディックに手をかざして魔法の詠唱を行う。

「『アゴニー』」

 途端にディックの全身に耐えがたい苦痛が走り、絶叫を教会中にビリビリと響かせる。

 反射として身を守ろうと構えようとするが、縛られている為できない。


「ねぇ、アレ何?」

 ダーティの隣に立っていたヴェルトは訊ねる。

「主に拷問で使われる魔法だ。ラブの反応を見て分かると思うが……相当苦しいぞ」


「あはぁ……♡ いい声だ」

 根っからの加虐性愛者であるらしい男は口元を緩ませる。

 そして更にディックの期待に応えんと魔法を使う。

 精神力の弱い者ならば1発で気を失うような魔法を2度も受けた結果、ディックの呼吸のリズムが乱れ始める。

 それでも尚男はディルドを握る手を止めない。


「ねぇ。ここに連れてきてもらったお礼を兼ねて忠告するけどさぁ。これ以上続けると、多分アイツ死ぬよ」

 ヴェルトの忠告を聞いているのかどうか。ダーティはサファイアの瞳に真剣な光を宿しながら2人の様子を伺い続ける。


「さぁ、もう1回やろうか? まだ耐えられるだろう?」

 ディックは激しく首を横に振る。

 「ディ……ッ」

 息も絶え絶えになりながら、ディックは言葉を紡ごうとする。

「ん? 何だって?」

 ディックは何度か咳き込んでから、口を開く。

「ディ……ッ、ク!」

「ディック……?」

 快い足音を鳴らしながら1人の男が2人に近付く。ディックの主人であるダーティだ。

「うちの夢魔が『セーフワード』を使った。申し訳ないがそこで終わりにしてください」

 咎めている訳でも非難している訳でもない。ただ静かな口調でダーティは男にそう告げた。

「あぁ、やりすぎてしまったかな」

 ごめんよと謝りながら、男は胸元からナイフを取り出しロープを切ってディックを解放した。

 苦しい体勢から解放されたディックは体をぐったりと弛緩させる。

「『キュア』」

 男はディックに手をかざして回復魔法を詠唱する。淡い緑色の光に包まれ、顔色が良くなってゆく。

「ラブ、コウモリの姿に戻れ」

 とダーティが呼びかけると、ディックの体が小さなコウモリへと変化する。

 ダーティはコウモリを清潔なハンカチを使いおくるみの要領で包んでやると、ディックを連れて聖堂を後にした。

 男が素直にプレイを止めてくれた事と、主人のダーティと男がディックを介抱してくれた事に、取り巻きの人間や夢魔の大半は安堵していた。

 しかし、一部の人間や夢魔からは「興ざめだ」「意気地なし」といった軽蔑の目を向けられる。

 ヴェルトは大半の者と同じくホッと溜息を吐き、念の為ダーティとディックの後を追った。
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