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レオとガゼリオ

魔が差す

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 魔道具の一種である常夜灯の、オレンジの光が柔らかくレオの部屋を照らしている。

 妙に目が冴えてしまったレオは寝返りを打ち、同じくこちら側を向くように横向けになっていたガゼリオの寝顔を眺めていた。

 子供のように安心しきった表情に、不意にもレオは己の欲望をそそり立たせてしまう。

(嘘だろあんなに酒飲んだのに……本当に抜いときゃ良かった)

 3度目のたらればを心中で呟き一瞬だけ目を伏せた後、レオは再びガゼリオの顔を捉えた。

 その時であった。


(寝たふりして正面から抱きついてもバレないんじゃ……?)


 レオの中に潜む小さな悪魔の囁きが確かに聞こえたのだ。


 そう。

 たまたま寝ている時に体勢を変えたら、たまたまガゼリオの体に手を回してしまうだけ。

 そう。

 抱き枕を抱くように。

 そう。

 たまたま……そうなってしまうだけ。


 魔が差したのだ。ただの出来心だ。

 レオは念の為ガゼリオが本当に寝ているか確認し、目を瞑った。

 そしていかにも「寝ていますよ」と体で示すように、敢えて大きな動作でガゼリオの体に腕を回したのだ。


「へっ……へ!?」

 先程まで夢の世界に旅立っていたガゼリオは、突然の揺れに現実に戻される。

 その原因は隣で寝ている男だとガゼリオは今の状況で判断した。

 彼の温かさに触れて、不意にもガゼリオの心臓が高鳴ってしまう。

 ほんの少しの刺激。それだけで体が反応し、眠っていたお陰で忘れていた欲望が高まる。

「……ッ」

 ガゼリオは苦しそうに息を吐いて、

「当ててやろうか。レオお前、起きてんだろ」

 確信に満ちた声でそう呼びかけたのだ。


(ギクッ!?)

 古典的オノマトペを心中で使うレオ。何とか誤魔化せないものかと寝たふりを続行する。

「なぁ、起きてんだろお前。バレバレなんだよ」

「…………」

「寝たフリし続けんなら……どーしよっかな。ベッドの下とか何か無いか探そっかな」

「それは駄目だ!!」

 だんまりを決め込んでいたはずのレオが目をカッと見開きガゼリオの肩を掴む。殆ど無意識の内に得意とする強化魔法を使用してしまい、爪をメリメリと肩へ食い込ませてしまう。

「イデデデデデ!!」

 堪らず悲鳴を上げるガゼリオに我に帰ったレオは息を鋭く吸う。

「ごめん! 大丈夫か?」

 すぐに魔法を解除し、レオは回復魔法をガゼリオにかける。

「……ベッド下のくだりは当てずっぽうだったんだけどな」

 しばらく無言のまま、互いに目を合わせないでいると。

「……悪い、魔が差したんだ」

 レオがつらつらと言い訳を始めようとする。これからの関係が変わらぬように、足りない頭を回転させる。

 ……嘘や言い訳というのが、レオの最も不得意とするところであるのだが。

「なんかこう……そのぉ……ウチで買ってたアントニオって犬に似てた? というか?」

「お前さ。本当に嘘吐くの下手だよな」

「は?」

「お前嘘吐くと顔赤くなんだよ」

 「へっ!?」とレオは狼狽え顔を両手で覆い隠す。

「嘘だよ……そんな反応とったら自分から嘘吐いたって言ってんのと変わんねーぞ。……当ててやろうか。ベッド下にあるの、男の雑誌だろ」

 見事に言い当てられたレオは布団の中へ身を潜め____

「待て待て待て待て隠れるな」

 肩を掴みガゼリオはレオの潜航を止めた。

「……笑わない?」

 蚊の鳴くような声でレオは尋ねた。

 レオは北地方の辺鄙へんぴな村の出で、そこの友人に男色趣味を嗤われた経験がある。

 その為、自分の趣味がバレぬよう細心の注意を払っていたのだが……ついにガゼリオにバレてしまった。

「笑わない」

「本当に?」

「笑わないってば……」

 面倒そうにガゼリオは唸った。

「むしろ俺もお前と同じ側の人間なんだってば」

 安心させるべく発した何気ない言葉。

 それによりレオの中にある「ガゼリオを襲わない理由」が無くなった。

「ガ、ガゼリオ……」

 緊張と興奮で強張った声で呼びながら、スルスルとガゼリオの背に手を這わせる。

「おい俺は良いって____」

 もう片方の手で頬を撫でられ、ガゼリオは一瞬だけ口を噤んでしまう。

 欲望を溜め込んだ体が悦んでしまっているのだ。

「良いって……言ってない!」

「俺さ、ガゼリオみたいに勘も頭も良くないから外れるかもだけど……ガゼリオさ、嫌だって……思ってないんじゃないか?」

「んな訳」

「なら魔法で突き飛ばしてくれよ。得意だよな?」

 どこを触れば善いのかを探すように闇雲に触れているような拙い手つきが、むしろガゼリオにとっては好ましかった。

「ガゼリオ……体、熱くなってる」

 魔法で突き飛ばす気が無いと見たレオは、更に情熱的にガゼリオの体に触れる。

「…………ッ、やめ……っ」

 そして遂に彼の無骨な手がガゼリオの腰に這い……

 すぐにレオは彼の腰回りに無機物があるのに気付いた。

「……新型のトレーニング器具?」

「んな訳ねーだろこの脳筋が」

 頭にクエスチョンマークを浮かべながら、レオはガゼリオの制止を無視し彼の衣服をはだけさせる。

 そして目に入ったのは……鉄のいましめ

 だが、割と純粋らしいレオには腰回りに負荷をかける事で筋力を鍛えるトレーニング器具にしか見えないらしい。

「おい、あまり見んな____」

「うわタマだけ出てんのか、なんかエロいなぁ」

 無邪気な男の手で急所を包まれたガゼリオは苦しそうに顔を歪めて閉口する。

「分かった、これオナ禁する道具だろ?」

 見当違いとも言えない。

「あれか? テストステロンか? ようやく筋トレに目覚めたか!」

(こいつ何言ってんのかさっぱり分かんねー)

 筋トレ仲間が増えたと勘違いして、レオはガゼリオを置き去りにして少年のようにはにかむ。

「で? 今日で何日目?」

「言わねーよ……って、おいやめろ触んじゃねー」

 面白そうにやわやわと袋を揉み続けるレオの、ゴリラを思わせる胸を力一杯押すがびくともしない。

「う……っ!」

 次第にどうしようもできないほど体が昂り、頬を更に赤らめ息を荒くする。

「ガゼリオ」

 突然やけに真剣な声色で呼びかけられたガゼリオは「あ゛?」と声を歪ませレオの目を睨む。

 微笑むレオの目は情欲で潤んでいた。

 養父のような下卑たものではなく、ただひたすら純粋な愛に基づいた欲情の目。

 それに視線を奪われた隙を突かれ、ガゼリオはレオに組み敷かれてしまう。

 その瞬間、ガゼリオの中で養父とレオの姿が重なり咄嗟に両手で身を庇った。

「……ガゼリオ?」

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