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回復
縋るもの
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それからハルキオンはリタの質問に正直に答えた。
話し方がおかしくなったのを自覚したのは、医者を辞め死刑執行人兼拷問官として罪人を裁くようになってから半年後の事。
それ以外にも、文字を読むのを苦痛に感じたり、突然悲しくなったり、常に体のどこかが調子が悪かったり。
医者でもない自分が軽く話を聞いただけで判断できる訳もないのだが、リタは彼が精神的な病を抱えているのではないかという疑いを一層強めた。
『どうかこの事はご内密に。もし私が夢魔を治療したなんて知れ渡ったら……』
医者として話していた時は普通の喋り方だったのに。
『モンスター反対派。の、人達から、その……はっ反感を買ってしまう。ただでさえ……遺族から、反感買ってるのに……』
死刑執行人として話し始めた途端に妙に辿々しい口調となったのだ。
そしてもう1つ気になっていた頬の傷は、ハルキオン曰く受刑者が暴れた時に負ったとの事である。
「先生。貴方はしばらく休んだ方が良い」
「休めません。あの仕事は……わっ、私にしかでっ、できないんですから」
(……どうしよう、口がうまく回らない)
ハルキオンは極度の緊張から額に汗を浮かべ目を泳がせる。
死刑執行人として質問に答えた結果、今日の拷問の事を思い出してしまったのだ。
拷問の依頼が来た際はなるべく早く決着をつける為に、ハルキオンは祖父のやり方を真似して実践している。
しかしそのあまりにも残酷なやり方に、ハルキオン自身神経をすり減らしていた。
ハルキオンが平静を保てないほど追い詰められていると知り、リタは無言で彼の隣に腰掛けてそっと抱き締めた。
「……っ」
自分よりも少し小柄な彼の大胆な態度に驚き、ハルキオンは身を強張らせる。
「先生、少し落ち着いて。……ごめんね、ジブンも色々と1回で尋ね過ぎてしまった」
このように優しく抱き締められたのは、子供だった時以来だ。
抱き締め返していいものか分からず虚空で両手を広げた後、結局そのままソファへ降ろしてしまう。
だが、温かな人肌に触れて浅く早くなっていた呼吸が自然と正常に戻ってゆく。
「なんだか……抱き締められ続けてると、落ち着くよ」
ぎこちなくなっていた口調も元に戻ってゆく。
「良かった」
ゆっくりとハルキオンの体を解放したリタはハルキオンと見つめ合う。
血溜まりの瞳とセピアの瞳に架け橋が掛かったかのよう。
「もしまた辛くなったら、愛人呼んで抱き締めて貰ったり、キスしたり……体の接触を持ったりすると良いよ」
「……あの。勘違いしているみたいなんだけれど、私には愛人はいないんだ」
「へっ? じゃああの避妊薬は」
「あっ、あれはその、一夜の誤りというか、仕方がなかったというか」
淀んだハルキオンの言葉からリタは『たまたま出会った女性と流れで行為に及んだ』というストーリーを組み立てる。
(だけど……貴族である先生がそんな無責任な事するかなぁ)
貴族にとって無責任な行為は命取りとなる。
一夜の誤りで失脚し平民に家を乗っ取られた貴族も過去には存在する。
その為、中には自慰をした後に残った紙すら燃やすなどして跡形も無く処分する者もいるという。
(まぁ、今日はこれ以上話を聞くのは可哀想か)
「じゃあ、今日はこのくらいにしておこうか。……次はいつ会う?」
と問いかけた。
「次?」
ハルキオンはきょとんとした表情を浮かべて尋ね返す。
「そう。今、個人で薬屋やってるからさ。先生の都合が良い日で構わないよ」
「……でも、リタさんに迷惑がかかってしまうのでは」
リタはハルキオンに気付かれない程度の溜息を吐く。
「一緒に働いていた時から思ってたんだけどさ。先生は他の人の事考え過ぎて、自分の事は一切考えてない」
その言葉を聞いたハルキオンは目を丸くする。むしろ自分は自分の事しか考えられない人間だと思っていたからだ。
「もし先生が僕が来るのが迷惑だって言うんなら無理強いはしない。だけど……シブンが思うに、先生は今、かなり疲れている」
「まるでお医者さんみたいだ」
リタは口角をほんの少し上げた。
「少し生意気かな。だけどね先生……縋るものは多い方が良い。僕がそうなれるかは分からないけれど……それでも、先生の側にいさせて」
『君には支えてくれる人が必要だよ』
ヴェルトの言葉を思い出しながら一考した後、ハルキオンは「分かりました」と答えた。
それから次の予定を決めて、リタはクマ屋敷を後にしたのだ。
話し方がおかしくなったのを自覚したのは、医者を辞め死刑執行人兼拷問官として罪人を裁くようになってから半年後の事。
それ以外にも、文字を読むのを苦痛に感じたり、突然悲しくなったり、常に体のどこかが調子が悪かったり。
医者でもない自分が軽く話を聞いただけで判断できる訳もないのだが、リタは彼が精神的な病を抱えているのではないかという疑いを一層強めた。
『どうかこの事はご内密に。もし私が夢魔を治療したなんて知れ渡ったら……』
医者として話していた時は普通の喋り方だったのに。
『モンスター反対派。の、人達から、その……はっ反感を買ってしまう。ただでさえ……遺族から、反感買ってるのに……』
死刑執行人として話し始めた途端に妙に辿々しい口調となったのだ。
そしてもう1つ気になっていた頬の傷は、ハルキオン曰く受刑者が暴れた時に負ったとの事である。
「先生。貴方はしばらく休んだ方が良い」
「休めません。あの仕事は……わっ、私にしかでっ、できないんですから」
(……どうしよう、口がうまく回らない)
ハルキオンは極度の緊張から額に汗を浮かべ目を泳がせる。
死刑執行人として質問に答えた結果、今日の拷問の事を思い出してしまったのだ。
拷問の依頼が来た際はなるべく早く決着をつける為に、ハルキオンは祖父のやり方を真似して実践している。
しかしそのあまりにも残酷なやり方に、ハルキオン自身神経をすり減らしていた。
ハルキオンが平静を保てないほど追い詰められていると知り、リタは無言で彼の隣に腰掛けてそっと抱き締めた。
「……っ」
自分よりも少し小柄な彼の大胆な態度に驚き、ハルキオンは身を強張らせる。
「先生、少し落ち着いて。……ごめんね、ジブンも色々と1回で尋ね過ぎてしまった」
このように優しく抱き締められたのは、子供だった時以来だ。
抱き締め返していいものか分からず虚空で両手を広げた後、結局そのままソファへ降ろしてしまう。
だが、温かな人肌に触れて浅く早くなっていた呼吸が自然と正常に戻ってゆく。
「なんだか……抱き締められ続けてると、落ち着くよ」
ぎこちなくなっていた口調も元に戻ってゆく。
「良かった」
ゆっくりとハルキオンの体を解放したリタはハルキオンと見つめ合う。
血溜まりの瞳とセピアの瞳に架け橋が掛かったかのよう。
「もしまた辛くなったら、愛人呼んで抱き締めて貰ったり、キスしたり……体の接触を持ったりすると良いよ」
「……あの。勘違いしているみたいなんだけれど、私には愛人はいないんだ」
「へっ? じゃああの避妊薬は」
「あっ、あれはその、一夜の誤りというか、仕方がなかったというか」
淀んだハルキオンの言葉からリタは『たまたま出会った女性と流れで行為に及んだ』というストーリーを組み立てる。
(だけど……貴族である先生がそんな無責任な事するかなぁ)
貴族にとって無責任な行為は命取りとなる。
一夜の誤りで失脚し平民に家を乗っ取られた貴族も過去には存在する。
その為、中には自慰をした後に残った紙すら燃やすなどして跡形も無く処分する者もいるという。
(まぁ、今日はこれ以上話を聞くのは可哀想か)
「じゃあ、今日はこのくらいにしておこうか。……次はいつ会う?」
と問いかけた。
「次?」
ハルキオンはきょとんとした表情を浮かべて尋ね返す。
「そう。今、個人で薬屋やってるからさ。先生の都合が良い日で構わないよ」
「……でも、リタさんに迷惑がかかってしまうのでは」
リタはハルキオンに気付かれない程度の溜息を吐く。
「一緒に働いていた時から思ってたんだけどさ。先生は他の人の事考え過ぎて、自分の事は一切考えてない」
その言葉を聞いたハルキオンは目を丸くする。むしろ自分は自分の事しか考えられない人間だと思っていたからだ。
「もし先生が僕が来るのが迷惑だって言うんなら無理強いはしない。だけど……シブンが思うに、先生は今、かなり疲れている」
「まるでお医者さんみたいだ」
リタは口角をほんの少し上げた。
「少し生意気かな。だけどね先生……縋るものは多い方が良い。僕がそうなれるかは分からないけれど……それでも、先生の側にいさせて」
『君には支えてくれる人が必要だよ』
ヴェルトの言葉を思い出しながら一考した後、ハルキオンは「分かりました」と答えた。
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