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地獄の火クラブ
信頼できる者
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(どうしよう……眠れない)
とある屋敷の寝室にて。1人の男がベッドから身をバッと起こした。
ハルキオン・ブラッドムーン。
現在は死刑執行人兼拷問官として働いているが、昔は家の隣で小さな医院を営んでいた男。
寝巻き姿の彼は、傷跡だらけの手で頬の傷跡を掻く。
彼の睡眠を妨げているのは、日頃のストレスなどではない。
体の奥底から湧き上がる肉欲のせいである。
不本意とはいえ別邸にてミキに捕まりヴェルトと体を重ねた為、体が性行為をする事の悦びを覚えてしまったのだ。
ハルキオンは熱の籠った溜息を吐く。
精巣がカラになるまで自慰をしても体が……もっと言えば、後孔が切なく疼き続ける。
(あぁ、あの時……ヴェルトさんの型をとった時、もう1本くらい作っておけば良かったかも。そうしたら少しは____)
呼び鈴の音を聞き、ハルキオンは咄嗟に布団を被った。
夜更けに死刑執行人を訪ねる用事などひとつしかない。
暗殺だ。
「ご主人? お客さん!」
「っ、モイ……静かにして」
ハルキオンは声を低くしながらモイに命ずる。
「ん?」
お手伝い魔道具のモイは不思議そうに首を傾げた。
「頼みがあります。窓からそっと外の様子を見てくれますか」
「そっとですよ!」という念押しに「うーん?」と唸りながらモイは窓に顔をギュッと付けて外の様子を見る。
庭の前に馬車が1台止まっているのと、1つの人影が玄関前にいるのが見える。
モイはバン! と窓を全開にして、
「やっほー!」
と大声で呼び手を振る。
「モイ、えっ、やめてやめてやめてやめて……!」
ハルキオンは布団の中で頭を抱えて蹲る。
もう終わりだ。自分も母と同じ末路を辿るのだ……そう観念した。
「ハルキオン!」
窓の外にいた男から自分の名を呼ばれる。その声には聞き覚えがあった。
ハルキオンは急いでベッドから起き上がり窓へ身を乗り出した。
「ヴェルトさん……!? 何故ここに!」
「急患なんだ! 診てくれるかい? 君にしか頼めないんだよ!」
***
「ディックさん……ですか」
肌が見えぬよう急いでシャツとスラックスに着替えて手袋を嵌めたハルキオンは、医院の診察台に寝かせた大男を見下ろしながら呟いた。
「こんな事、君にしか頼めないと思ってね」
「たっ、確かに夢魔を診ろなんて、他の人、には頼めませんね」
「先生」
背後にいた青年に「先生」と呼ばれたハルキオンはビクッと身を震わせる。
この前会った時とは違う真剣な面持ちにハルキオンは恐怖すら覚える。
「ラブを……彼を助けてやってくれ。彼は私の……かけがえのない人なんだ」
ハルキオンは「最善を尽くします」と彼らしくない頼もしい言葉を返し、診察室のロッカーに掛けていた白衣をサッと羽織った。
***
簡単な質問を受けた後、ダーティとヴェルトの2人は待合室の方へ座らされた。
「ダーティ。君ってそんな顔もするんだね」
革張りの椅子に腰掛け項垂れながら手を組むダーティの隣の席に、未だ血を被ったままのヴェルトはゆっくりと座った。
「そりゃそうだ。ラブは私にとって……かけがえのない恋人で、親友で、戦友で、女神なんだよ」
「……女神?」
ヴェルトの頭上にクエスチョンマークが浮かぶ。
「私が音楽だけで食えるようになったのはラブを飼い始めた頃からなんだよ。だからアイツは私にとっての……勝利の女神とも言うべき存在なんだ」
話しているうちにダーティは少しだけ落ち着きを取り戻したらしい。
医院の出入り口が勢い良く開かれ、大きなカバンを持った青年が診察室へ早足で向かっていくのが見えた。
「……ハルキオンの助手かな」
とヴェルトは呟いた。
***
一方こちらは診察室。
不透明なゴム手袋をしたハルキオンが、ようやくディックの背に突き刺さった矢を抜いたところだ。
「先生」
大きなカバンを手に提げた青年が、ハルキオンを呼ぶ。
「リタさん」
セピア色のサラサラとした髪と同色の瞳を持つ、どこか陰気な雰囲気の青年リタ。
看護師で薬剤師でもある彼は、かつてハルキオンと共にこの医院で働いていたのだ。
「ごめんね、こんな夜更けに呼び出してしまって」
まだ医者として働いていた頃の記憶が戻り、口調もその時のような淀みがなく軽やかなものへと変化している。
「解毒剤を持ってきた」
手際良く包帯でディックの傷の手当てを行うハルキオンの背後で、リタはカバンを開けてアンプルを取り出す。
「ありがとう」
手当てを終えたハルキオンはアンプルの首を折り、薬液を注射器へと吸い上げる。
シリンジを指で弾いたり内筒を押して空気を押し出したりした後、ハルキオンはぐったりとしている大男へ注射する。
これでだいたいの処置が終了し、ハルキオンは「偉い偉い」とディックの頭を撫でた。
「これが夢魔。インキュバスなんだね」
モンスターとは無関係な世界で生きてきたリタは、まじまじと大男を見下ろす。
人間と同じ姿だが、頭に生えた2本の角とコウモリのような黒い翼が奴が人間ではない事を雄弁に語る。
「……綺麗」
思わずリタはそう呟いた。
「どうかこの事はご内密に。もし私が夢魔を治療したなんて知れ渡ったら……モンスター反対派。の、人達から、その……はっ反感を買ってしまう。ただでさえ……遺族から、反感買ってるのに……」
医者から死刑執行人としてスイッチが切り替わり、辿々しい口調に変化する。
「……先生?」
医者としてのハルキオンしか知らないリタは、その変化に目を見開いた。
すぐに彼が精神に何か異常をきたしている事を見抜いたリタは、「後でまた話そう」とそっとハルキオンの肩に手を置いた。
とある屋敷の寝室にて。1人の男がベッドから身をバッと起こした。
ハルキオン・ブラッドムーン。
現在は死刑執行人兼拷問官として働いているが、昔は家の隣で小さな医院を営んでいた男。
寝巻き姿の彼は、傷跡だらけの手で頬の傷跡を掻く。
彼の睡眠を妨げているのは、日頃のストレスなどではない。
体の奥底から湧き上がる肉欲のせいである。
不本意とはいえ別邸にてミキに捕まりヴェルトと体を重ねた為、体が性行為をする事の悦びを覚えてしまったのだ。
ハルキオンは熱の籠った溜息を吐く。
精巣がカラになるまで自慰をしても体が……もっと言えば、後孔が切なく疼き続ける。
(あぁ、あの時……ヴェルトさんの型をとった時、もう1本くらい作っておけば良かったかも。そうしたら少しは____)
呼び鈴の音を聞き、ハルキオンは咄嗟に布団を被った。
夜更けに死刑執行人を訪ねる用事などひとつしかない。
暗殺だ。
「ご主人? お客さん!」
「っ、モイ……静かにして」
ハルキオンは声を低くしながらモイに命ずる。
「ん?」
お手伝い魔道具のモイは不思議そうに首を傾げた。
「頼みがあります。窓からそっと外の様子を見てくれますか」
「そっとですよ!」という念押しに「うーん?」と唸りながらモイは窓に顔をギュッと付けて外の様子を見る。
庭の前に馬車が1台止まっているのと、1つの人影が玄関前にいるのが見える。
モイはバン! と窓を全開にして、
「やっほー!」
と大声で呼び手を振る。
「モイ、えっ、やめてやめてやめてやめて……!」
ハルキオンは布団の中で頭を抱えて蹲る。
もう終わりだ。自分も母と同じ末路を辿るのだ……そう観念した。
「ハルキオン!」
窓の外にいた男から自分の名を呼ばれる。その声には聞き覚えがあった。
ハルキオンは急いでベッドから起き上がり窓へ身を乗り出した。
「ヴェルトさん……!? 何故ここに!」
「急患なんだ! 診てくれるかい? 君にしか頼めないんだよ!」
***
「ディックさん……ですか」
肌が見えぬよう急いでシャツとスラックスに着替えて手袋を嵌めたハルキオンは、医院の診察台に寝かせた大男を見下ろしながら呟いた。
「こんな事、君にしか頼めないと思ってね」
「たっ、確かに夢魔を診ろなんて、他の人、には頼めませんね」
「先生」
背後にいた青年に「先生」と呼ばれたハルキオンはビクッと身を震わせる。
この前会った時とは違う真剣な面持ちにハルキオンは恐怖すら覚える。
「ラブを……彼を助けてやってくれ。彼は私の……かけがえのない人なんだ」
ハルキオンは「最善を尽くします」と彼らしくない頼もしい言葉を返し、診察室のロッカーに掛けていた白衣をサッと羽織った。
***
簡単な質問を受けた後、ダーティとヴェルトの2人は待合室の方へ座らされた。
「ダーティ。君ってそんな顔もするんだね」
革張りの椅子に腰掛け項垂れながら手を組むダーティの隣の席に、未だ血を被ったままのヴェルトはゆっくりと座った。
「そりゃそうだ。ラブは私にとって……かけがえのない恋人で、親友で、戦友で、女神なんだよ」
「……女神?」
ヴェルトの頭上にクエスチョンマークが浮かぶ。
「私が音楽だけで食えるようになったのはラブを飼い始めた頃からなんだよ。だからアイツは私にとっての……勝利の女神とも言うべき存在なんだ」
話しているうちにダーティは少しだけ落ち着きを取り戻したらしい。
医院の出入り口が勢い良く開かれ、大きなカバンを持った青年が診察室へ早足で向かっていくのが見えた。
「……ハルキオンの助手かな」
とヴェルトは呟いた。
***
一方こちらは診察室。
不透明なゴム手袋をしたハルキオンが、ようやくディックの背に突き刺さった矢を抜いたところだ。
「先生」
大きなカバンを手に提げた青年が、ハルキオンを呼ぶ。
「リタさん」
セピア色のサラサラとした髪と同色の瞳を持つ、どこか陰気な雰囲気の青年リタ。
看護師で薬剤師でもある彼は、かつてハルキオンと共にこの医院で働いていたのだ。
「ごめんね、こんな夜更けに呼び出してしまって」
まだ医者として働いていた頃の記憶が戻り、口調もその時のような淀みがなく軽やかなものへと変化している。
「解毒剤を持ってきた」
手際良く包帯でディックの傷の手当てを行うハルキオンの背後で、リタはカバンを開けてアンプルを取り出す。
「ありがとう」
手当てを終えたハルキオンはアンプルの首を折り、薬液を注射器へと吸い上げる。
シリンジを指で弾いたり内筒を押して空気を押し出したりした後、ハルキオンはぐったりとしている大男へ注射する。
これでだいたいの処置が終了し、ハルキオンは「偉い偉い」とディックの頭を撫でた。
「これが夢魔。インキュバスなんだね」
モンスターとは無関係な世界で生きてきたリタは、まじまじと大男を見下ろす。
人間と同じ姿だが、頭に生えた2本の角とコウモリのような黒い翼が奴が人間ではない事を雄弁に語る。
「……綺麗」
思わずリタはそう呟いた。
「どうかこの事はご内密に。もし私が夢魔を治療したなんて知れ渡ったら……モンスター反対派。の、人達から、その……はっ反感を買ってしまう。ただでさえ……遺族から、反感買ってるのに……」
医者から死刑執行人としてスイッチが切り替わり、辿々しい口調に変化する。
「……先生?」
医者としてのハルキオンしか知らないリタは、その変化に目を見開いた。
すぐに彼が精神に何か異常をきたしている事を見抜いたリタは、「後でまた話そう」とそっとハルキオンの肩に手を置いた。
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