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地獄の火クラブ

落胆

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 ダーティとディック含む5人の演奏により場が更に背徳的な雰囲気を纏い始めた廃教会の聖堂にて。

 疲れた表情のヴェルトが壁に背を凭れているのを見かけたディックは、彼の隣に立った。

「ヴェルト……どうだ、情報収集の方は」

 ディックの問いかけにヴェルトは首を横に振る。

「全滅だよ。アイツら全く情報にならない」

 ヴェルトが地獄の火クラブを訪れた理由は、ミキの情報を手に入れてカイラの呪いを解くための足掛かりとする為。

 その為にヴェルトは年齢も性別もバラバラな人間や夢魔に手当たり次第話しかけミキの情報を探った。

 やや太り気味の男性。

 笑顔の美しい女性。

 到底ここに来るとは思えない、優しそうな雰囲気を持つ青年。

 1人のインキュバスに首輪を着け、リードを手に取る気の強そうな淑女。

 だが、返答は全て頼りない物だった。

 「知らない」「夢魔なんて興味ない」「男の事など知らん」「ヤった夢魔の名前なんか興味ない」……

「だからもうやけ食いだよ。こんな豪華な食事、僕みたいな貧乏人にはなかなか食べられないからね」

 とヴェルトは持っている皿の上に乗せられた肉をフォークで突く。

 濃厚なステーキソースがたっぷりと掛けられた肉をひと切れ口に運ぶと、脂の甘さが口の中に広がる。

「カイラ君にも食べさせてあげたいなぁ」

 ヴェルトが実に旨そうに肉を食すヴェルトを見て、ディックは少し唸って腕を組む。

「カイラ……そういえば、カイラはどうしてるんだ」

「まぁまぁ信頼できる人の家に泊まらせてる。あの子、まだまだ力弱いからさぁ……もし万が一、ミキが襲ってきても守ってもらえるようにね」

 母親のような返答に、ディックは数ミリだけ口角を上げた。

「このままじゃカイラ君が可哀想だからね。早く呪いを解いてあげたいのに」

「可哀想とは言うがお前みたいな恋人がそばにいるんだ。カイラは間違いなく幸せ者だ……呪いが解けるまでは付き合ってやれよ」

「呪いが解けた後も別れるつもりはないさ」

 その返答にディックは満足気に鼻を鳴らした。

 ピアノの音が、会場内全員の耳を優しく撫でる。

 ダーティが演奏を始めたのだった。

 ギルドで演奏していたのとは違う……ピアノでここまで暗い曲を演奏できるのかと思うほどの重苦しい前奏。

 やがてダーティはややハスキーな声で歌い始める。

 淀みない歌声が、皆の心を捕らえて離さない。

 諦観と絶望で満たされた歌詞だ。その中で時折神を貶すような言葉が出てくるので、ギルドなどの公共の場所で演奏すれば石を投げられるだろう。

「……綺麗だ」

 真剣な面持ちで演奏し続けるダーティの横顔を遠目で見ながら、ディックは呟いた。

「また演奏してるのかい」

「客が求めるんならアイツは必ず期待に応える。そういうヤツだ」

 演奏に混じり、少年の甘い吐息が2人の耳に届く。

「あぁ♡ ……んんぅっ♡」

「うわ何してんのアレ」

 とヴェルトは顔を顰めた。

 人間の男が少年夢魔を床に組み敷き犯している。

 夢魔は時折甘い吐息を漏らしながら、雌の悦びに悶えているようだ。

「始まったか……オマエももう分かってるとは思うが、この地獄の火クラブは背徳的な行為を楽しむ場なんだよ」

 ある者は悪魔召喚の儀を真似する。

 ある者はゲテモノを食する。

 ある者は未だに賛否両論分かれている愛玩モンスターの販売をする。

 そしてある者は夢魔とひとときの甘い時間を過ごしている。

「このクラブのルールでは、ここにいる夢魔は死なない程度に誰でも犯しても良い事になってる」

 ヴェルトは性交に勤しむ男に軽蔑の目を向ける。

「あんな子供に腰振って何が楽しいのさ。バカじゃないの」

 色々とツッコみたくなるディックであったが、話を続ける事にした。

「夢魔にとって精気が飯なんだ。精気が尽きると俺達は死ぬ。……だから、このクラブは夢魔にとってはビュッフェ会場みてえなモンだ」

 ディックは溜息を吐く。

「俺も早く餌にありつきてえ……なんならヴェルト。オマエに抱かれても良い」

「僕はもうカイラ君しか抱かないって決めてるから」

 決めてるから。とまるで自分に言い聞かせるような口調で呟く。

「貞操観念の強え男だ」

「君がガバガバなだけだよ」

 「~~~~ッ♡♡」と小動物のような鳴き声をあげた少年夢魔。

(ほんの少しだけカイラ君に似てるな……早く僕も彼を抱いてみたいなぁ)

 この時点で、カイラとヴェルトはまだセックスができていない。

 次こそは決して彼を苦しませまいと、毎夜の如く自身の偽物で彼の後孔を悦ばせている。

 自分の支配下で、この世で最も愛おしい人が自分の色に染まってゆく。

 ……なんと素晴らしい事か。

 ヴェルトがカイラの事で頭を一杯にした時。

「あっ、あのっ!」

 2人に向かって駆けてくる人物が1人。

 シスターの格好をした夢魔だ。声の感じからしてインキュバス……つまり男だろう。

「さっきの演奏、素敵でした!」

 羨望の目を向けられる事に慣れていないディックは彼から目を逸らし「どうも」と小さく返した。

「それで、あの……もし良ければ、ボクを別室で抱いてくれませんか?」

「済まねえが……俺はアンタを抱けない」

 「そうですか」と夢魔は残念そうに俯いた。

「だが、逆なら良い。俺の事抱いてくれ」

 夢魔は「ふぇっ?」と間抜けな声を上げて固まった。

「い、良いですよ!」

 ディックのようなデカブツでも抱けるらしい夢魔は戸惑いながらもそう応えた。
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